学園都市にて。「オリエンテーション①」。4月2〜5日。
入学式の翌日、さっそく一限目に設定されていた「戦乱と学園史」の授業にいくと校長先生が待っていた。昨日説明を聞いていたので特に説明を受けるまでもないけど、時間の半分を過ぎても僕以外の生徒が現れることが無かった。
「毎年、誰も来ない時間を待ち続けるのは中々寂しかったが・・。」
人気の無いキクノ校でも更に人気が無い授業らしく、毎年受講者が現れることがないけど、校長として一つも授業を作らない訳にもいかず、と愚痴を聞いて授業時間が終わった。
「今年はトラ君以外にいないみたいだから他の授業も平行してやろう。」
校長先生は偉人歴史学と人類史についても教えてくれることになった。ただし一コマの時間が長くなる。それは他の授業を決めた後に調製だ。
三限目に設定されていた「家庭で出来る薬草学」のエバステル先生は三十そこそこに見える男の先生で長い髪を後ろにまとめ、ひょろ長い体に白衣を纏って現れた。ここでも他に生徒が現れなかったので薬学についても教えてもらう約束をした。何故薬学でなく家庭で出来る薬草学を教えていたのかと言うと、テレス校の薬学の先生の椅子争いに負け違う授業をしなくてはいけなくなり、授業を変更したあげくに生徒に人気が出ずキクロ校に流れて来たらしい。
話しを聞くと、椅子の争いに負けてキクノ校に来た先生は何人かいる様で、キクノ校に来たのだから得意な授業に戻せば良いとは思うのだけど、結局他の有名な学校に生徒が行くから諦めているらしい。
皆でやれば色々学べる学校になって良さそうなものなのだけど・・・・。
さらに翌日の二限目に「歪曲魔法理論」。三限目に「魔法発動における座標指定及び発動プロセス」。があり、先生は入学の日に校長と話していた近くに居た女の先生で、ジャミン先生というらしい。魔族だと言っていたので見た目の年齢とは違うと思われるけど、見た目は三十才前後で銀の髪が陽光に煌めき、その整った顔と相まって中々綺麗だ。しかし性格は結構男っぽく、また研究馬鹿・魔法馬鹿と言われるくらいで中々の残念美人。本人は美貌と頭の良さを妬まれてテレス校から泣く泣く放出されたと言っていたけど、魔法実験の暴発でクビとかの方が信じられる。
やはり生徒は現れず、片手間に「人間でも〜」シリーズと「錬金術入門」を教えてもらうことになった。魔法の授業は決められた魔法を使える様になれば単位認定されるらしい。それに比べて歴史等は筆記試験での合格や研究発表・論文制作が必要となる。なぜ錬金術入門まで教えてもらえるのかというと、ジャミン先生が学問を志したのはマジックバックの量産が目的で。その過程で錬金術も勉強しており、入門程度なら教えられる実力があるためだ。
一度昼食を食べた後に学校へ戻る。美術史を教えてくれるかもしれない先生に会う為だ。指定された教室に入ると薄汚れた白衣を来た人が床で寝ていた。
「あのー。」
僕の声に反応がない。指で突いてみる。
「はっ!朝か?」
上半身を起こして周りを確認している。最後に僕の方に視界を固定した。
「お前が朝か?」
寝ているときはぼさぼさに伸び切った頭とダボダボの白衣でわからなかったが、女の人である。多分三十前。化粧っけはないけど整った顔に胸の膨らみもある。ただ整った顔も床のあとと涎のあとで台無しだけど。
「オルカ・モダン先生ですか?」
「うん。私か?私はオルカだ。先生もいらん。そうか。君がトラ君だな。校長から美術を教えて欲しいと頼まれた。うん。私がオルカだ。よろしくな。」
「よろしくお願いします。」
手を出されたので握手をする。
「おぉ若いエナジーを吸収だ。」
不意に手を引き寄せだきしめられた。
どうやオルカ先生はエルフといわれる人種らしい。ぼさぼさの髪から特徴的な尖った耳が見えた。なかなか放してくれない。胸が当っているので無理に剥がそうとも思わないけど。
「zzz…」
寝ているらしい。
「オルカ先生。」
「私は先生ではないといった。Zzz…」
「その寝言は正確すぎますよ。ほら話してくれないとおっぱいもんじゃいますよ。」
「ぐぅぐぅ。」
離れない。仕方が無いのでおっぱいを揉む。これは有言実行が大切だと思うからで断じて下心からではないことを言っておく。
もみもみ
もみもみもみ
「中々やるな。」
全然起きないというか離れない。
香なれば禁断の直揉みしかない。白衣の下にきたシャツの下から手を入れる。
「トラは素晴らしいな。」
我が手が胸に辿り着く前に離れてしまった。残念。
「まさか本当に揉んだ上に直に触ろうとするとは。実に素晴らしい。今日の面談はこれで終わりだ。詳細は校長に話しておく。サラバだ。」
それだけ言って走り去ってしまった。
「不思議な人だなぁ。」
おっぱいを揉めたので文句は無い。
三日目は何も無く、朝から鍛冶場に籠っているタタラを見に行った。直に僕の刀を作ってくれるかと期待していたけれど、ルガードさんが刀制作に慣れるまで、また新しい鍛冶場に慣れるまで安い材料で色々と試すらしい。
四日目の午後にはゲンロ校で「夜行人種論」があったので顔を出してみる。教室はそれほど広くない。どうやら夜の一族そのものに付いて話すというよりは、その認識について間違えが無いように他の種族に向けて開講している授業だった。
授業にも学校にもエミリアの姿は無かった。入学式から四日そろそろ大丈夫なはずだけど。
そう思いながら家に返ると、示し合わせた様にエルザとエミリア、マリアさんが待っていた。さっきまで受けていた夜行人種論のことを話すと取らないとのこと。一応若い者に対して他の種のことも説明するらしいけれど基本的には周りに対するポーズなのだとか。「一授業で説明できる程ひとくくりに出来る一族ではないです。」とはマリアさんの言。
エミリアとマリアさんは出かけられる様になった報告と、お風呂を借りにきたらしい。エルザは何か話したそうだったけど、風呂の後に食事をしようと提案すると大人しく風呂へ行った。気を使って露天風呂には行かないようにして風呂へと入る。
出ると既に食事が出来ていた。
だんだんとセバスさんが用意することに慣れつつある。
「「「いただきます。」」」
セバスさんと違ってマリアさんは一緒に食べるらしい。相変わらずセバスさんは一緒に食事をしようとしない。
「良いお風呂でした。特に露天風呂が。」
マリアさんは露天風呂を特に気に入ったの様で何度かその話しをした。エルザとエミリアは僕に遭遇する恐れがあるので行かなかったみたいだ。
「露天風呂気持ちよいですよね。」
僕も一人のときは毎回露天風呂に入っている。
「一緒に入っても問題ありませんよ?」
「ちょっ」
マリアさんの発言でエルザの手が止まった。フォークには肉が刺さったままだ。
「直ぐ隣でなければ見える訳でもないし、気にする広さでは無いでしょう。それにここはトラ様の家で、私達は借りている身分なのですから。遠慮するなら私達の方かと。」
気にしないと言うなら、今度は近づかない様に入ろうかな。
「私は嫌だからね。こっちの風呂には来ないでよ。」
エルザが注意して来るが、女性用の方に入る気はさらさらない。そもそも僕が入っている方が広いのだから。そのまま食事を続けていると学校の話しになる。入学直後ということもあってどんな授業を取るかが中心だ、
「ブレンスで見ないからガーツあたりに行っていると思っていたわ。」
キクノ校の話しをしたところ、エルザがそんな事を言って来た。
「なかなか面白そうだけどね。他の生徒が少ないおかげで他の授業もまとめてしてくれることになったし。」
「トラ様はどんな授業をお取りになったのですか?」
エミリアに聞かれてメモしていた紙を渡す。
「そのなかでは、夜行人種論は止めとこうと思っている以外は今のところ択るつもり。」
エミリアがいないなら受けるつもりはない。
「まだ出てなくて確定していないのは美術史、冒険者入門、狩猟採取方、錬金術入門、基礎料理学、かな近接武器格闘術(短剣)はエルザが取るなら一緒に受けようかなと思ったけど・・
。」
「私は取らないわ。短剣ってあまり性に合わないの。それよりも冒険者入門は何処で受けるの?」
「狩猟採取方と一緒にやってくれるらしいから、キクノ校で受けようと思っているよ。」
もし料理も受けられた場合、護身術以外は全部キクノ校ということになる。
「いつ?」
「明日のお昼後に集合みたいだけど、色々と出かけたりするから決まった時間に受ける訳じゃないみたい。」
「それは何処もそうよ。キクノで受けられるなんて・・。」
「私もご一緒したいですけど、お昼後では厳しいですね・・・。」
エミリアは残念そうだ。
「まぁ何処の学校にもある授業みたいだしそれぞれの所で受ければ・・・。」
「駄目よ!」
エルザに止められた。
「私が少し調べた限りじゃ冒険者入門は実力が上がると、初級、中級、上級、マスターと上がって行くわ。その時に当然パーティーを組んで依頼やダンジョンに潜るのだけど、同じ授業合同でいってもパーティーは学校ごとなの。」
「下手したら僕一人ってことか・・。」
それでも先生に止められていないってことは、入門くらいなら一人で大丈夫ってことだろうか。
「そうよ。」
「まぁ明日相談してみるよ。」
どうしても上のクラスに上がりたかったら、学校の変更も視野に入れないといけないか。
「そうだ。相談と言えば、エルザに相談が合ったんだ。出来ればエミリア達も教えて欲しい。」
先程風呂の中で考えていたことがあった。
「私でお役に立てますか?」
「執事さんの給金っていくらくらいかわかる?」
「もしかしてセバスを正式に雇うことにしたの?」
エルザの予想通り、雇うつもりだ。朝食等だけでなく細かいこともしてくれるのはありがたいし、なにより家に誰かがいてくれると来客時等に助かる。
「うん。お金も入ることになったし・・。あとはセバスさんが了承してくれたらだけど。」
「そういえばお父様が喜んでおられました。」
「僕もありがたかったよ。あんなにも家具が好きとは驚いたけど。」
今まではまったく知らず、興味も無かったけれど今回のことで少し興味が出て来た。美術史を取ったのもその為だ。
「何の話し?」
エルザにはわかっていない様だ。
「例の家具だよ。」
「あぁあの馬鹿高い修理費のやつね。」
彼女に取っては大して興味も無かったらしい。
「うん。エミリアのお父さんのカイゼル様が買い取ってくれることになったよ。いや、カイゼル国王様?それにエミリアじゃなくてエミリア姫様か・・。」
よく今まで呼び捨てにしていのに怒られなかった。山育ちといえ、気をつけなくちゃまずいな。
「今まで通りエミリアとお呼び下さい。トラ様は命の恩人ですもの。それに私は友達だと思っていますから。」
「王様より、この学園にいるときは身分にこだわらない様にと言われております。」
ウェルキンさんを連れて帰る前に皆で食事をしたらしい。そしてエミリアが姫でないのと同じでカイザルさんも国王ではなく、一人の娘の父としてマリアさんやウェルキンさんと食卓を囲んだと。
「ちょっと私も一応、姫みたいなものだけど・・・。まぁダンジョンに潜った仲間だし、名前で呼ぶことを許してあげるわ!」
「エルザも姫様なの?」
金持ちだとは思ったけれどもまさかの竜王の娘?つまりリエールさんは竜王の母親ってことかな。
「みたいなものよ。今の竜王は私の大叔父さんから。お婆様の弟ね。」
「むしろトラ様が知らなかった方が驚きです・・。」
マリアさんに呆れられてしまった。
リエールさんが師匠の語った現竜王オブホーン・ブレンスの名前を呼び捨てにしていたのはそうゆうことか。
「それで執事のことよね?」
「うん。」
当のお姫様達は細かいことを気にしないらしい。
「うちのウェルキンは執事というよりも宰相の色合いが強くて、それに国からお給料が出ていますから。」
「他に執事さんはいなかったの?」
エミリアの家にだったら居そうな者だけど。
「居たかもしれませんけど、私にはマリアが居ましたから。」
マリアさんはエミリア付きのメイド頭で、他のエミリアのメイドを取り仕切るだけでなく、予定の調整や特には教育までをしている凄腕なのだとか。
「私の家はウィゴード家に使えていますし、領地を与えられている分、給金という概念は存在しないのです。」
それでも家を通してそれなりのお金が払われているらしい。
「うちの執事の給料なんてわからないわ。それに報酬なんて、その人の能力で変わるものでしょ?」
「その通りなのかもしれないけど、全く給料ってわからないのだよね。僕は、基本的には山で師匠や訪ねて来る人を相手にしていたし、たまに村に降りても買い物や物々交換するくらいだったから。金貨自体今回学園に来ることになって初めて持たせてもらったくらい。」
「トラの常識が無い原因の一端がわかった気がするわ。トラの師匠が見識を広めて来いってここに送って来たのも正解だと思うし・・。」
一応、師匠とかに色々教えては貰ったのだけど、今までのことを考えるとあまり否定も出来ない・・・・。
「ともかく本人に聞くのが早いんわ。セバス。」
「はい。」
セバスさんはエルザの呼び声に直にやって来た。
「今までうちからの給料はいくらだったのか教えてくれる?」
こんなことは聞かれたことが無い様で、片眉を挙げた。いきなり読んで給料の話しをするエルザに驚いただけかもしれないけど。
「年に金貨二十枚でございます。」
「そんなに安かったの?」
エルザが驚いている。
「衣食住は保障されていますし。敷地の管理といいましても、門と家の掃除ぐらいしかありませんから、良い方かと思います。」
「そうなの・・。」
エルザ自身人の給料に詳しくないため、本人言われてしまえば反論する余地は無い。
「お役に立てましたでしょうか?」
「えぇ・・。トラが貴方の給料で悩んでいるみたいよ。」
セバスさんに働いてもらえるかまだ聞いても居ないのに・・。それでもエルザのセバスさんがこちらを向いた。
「まだお試し期間は来てないですけど、お金が出来たので・・。」
当初約束していたお試し期間は二ヶ月だった。それに僕を試すはずだったので、二ヶ月後まで待つつもりでエルザ達に相談したのだ。
「返事は二ヶ月で良いので考えておいて下さい。」
セバスさんに話すのは早まったけれども、とりあえず保留ということにしておいてもらいたい。
「いえ、トラ様がよろしいのであれば、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げられた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
直ぐに了承の返答を貰え少し嬉しい。嫌がられては無いってことだと思うから。
「セバスさん。お給料のことですが、まずは年金貨二十五枚にして、今後働きに応じて上げるというのはどうですか?勿論衣食は別です。」
「ありがとうございます。しかし以前は二十枚であったのですが、よろしいのですか?」
「今後は管理だけじゃなくなるから。」
来客の対応もそうだし、魔力タンクへの魔力補充等他の仕事も頼みたい。
「わかりました。改めてよろしくお願いします。」
細かい話しは今後詰めていけば良い。何はともあれ、色々と面倒を見てくれる人が居るのは、慣れない街暮らしにはありがたい。
「よかったですね。」
推移を見守っていたエミリアがそう言ってくれた。
「ねぇ。話しを聞き流していたけど、あの家具いくらになったの?」
食事も終わった頃にエルザがそんなことを聞いて来た。
「まだ正確には決めてないけど・・。」
セバスさんを見る。
「現金で五千万程、それにお酒とアイテムをいくつか。今年度は二千万。残りは毎年五百万ずつと決まりました。」
「だ、そうです。」
セバスさんとウェルキンさんに任せていたので僕は知らなかったけれど、もう決まっていたらしい。
「お父様も良いお買い物が出来たと。なんでもオークションに出したら二割から三割はたかくなっていたはずとおっしゃっていましたから。」
「五千万・・・・。そこから私の借金を払ってはくれないのよね・・。」
今月から家賃まで徴収されているエルザが落ち込んでいる。交渉の結果、収入を探すことを条件に二か月は待ってもらえるみたいだけど・・。
「僕としては払っても良いのだけど、リエールさんが何て言うか。」
結局はうちの施設なので高い買い物だったけど払っても良い。というか借金を背負ったエルザに悪い。
「一応お話ししてみるわ・・。」
エルザの気持ちが落ち込んだ所で今夜は解散することにした。




