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学園都市にて。「入学」。4月1日。

 入学式の朝、いつも通りに起き、朝の鍛錬をし、セバスさんの作ってくれた朝食をとる。

 「行ってきます。」

 向かう先はキクノ学園キクノ校。入学式は八校ある校舎の何処でも良いと聞き、一番近い校舎を選んだ為だ。普通は自分が通うことになる校舎に行くらしいけれど、幾つかの校舎で受けるつもりの僕は一番近いキクノ校を選んだ。

 ほぼ街の中心にある自分の家から一番近いということは、キクノ校は一番中心街近くにあるということになるが、その規模は小さい。自分の家と比べて二倍といったところだ。それも庭とかはほとんどなく、隣家に隣接してその三階建ての校舎を構えている。

 「何所に行けば良いのかな。」

 人の姿が無い。いや一人だけ花壇に水をやっている老人がいるけれど、生徒らしき人も先生らしき人もいない。つまり、人の流れに沿っていけば入学式の会場に着くという手段は取れそうも無い。

 「すいません。入学式は何処に行けばよいでしょうか?」

 突っ立って居ても物事は進展しそうも無いので水やりをしていた老人に会場を聞く。

 「入学式?ここはキクノ校だが。」

 「えぇ。何処で受けても良いとのことでしたので。」

 「そうだが、発行される学生証が最初に受けた校舎になるぞ。」

 「でも何処の校舎の授業を受けてもかまわないのですよね?」

 学園の冊子にも、リエールさんの話しでもそうなっている。

 「それはほとんど建前で・・・。まぁ良いか。付いて来なさい。」

 如雨露から水が無くなったのを期に老人が歩いて行き、その後に付いて行く。

 連れて行かれたのは一階中央にある部屋で、中には何人か居るけれども空席も多い。

 「とりあえずそこにかけて。」

 言われるままに座ると、何処かに如雨露を置いて戻って来た老人も前に座る。

 「先程の話しだが、何処の校舎でも授業を受けても良いのは本当だ。ただし、良い顔をしない先生も居るから気をつけなさい。それに移動のことを考えるとなるべく同じ学校で授業を受けた方が楽だよ。同じ様な内容の授業も多いからね。」

 先生によって良い顔をしないというのは初耳だったけれど、その他のことは聞いていたし、特に問題ない。

 「あと学生証の発行は入学式か最初の授業を受けた校舎の物になる。これを変えたかったら一年以上建った後に申請し許可を得ること。校舎によっては許可が中々下りない場合も多いからきちんと考えなさい。幸いまだ早く、時間もあるのだから他の所をお勧めするよ。」

 どうやら他の学校へ行った方が良いとのことらしいけど、

 「何故キクノ校では駄目なのですか?」

 僕としては特別何処かに属すつもりもないのでキクノ校で問題ない。

 「駄目とは言わないけど、他の学校の方が良いと思うよ。」

 そうして他の学校の説明を軽くしてくれる。まず僕と同じ人族が多いのはガーツ校とネカ校。両校共に街の西に有りガーツ校は武道や冒険者育成に力を注いでいて、ネカ校は商業に力を注いでいる。次いで多いのが南にあるテレス校。ここは魔族も多く魔法の研究や学習が盛ん。そのテレス校と比較的仲が良いのが東南に位置するゲンロ校。エミリアが通う予定の学校であり、やはり夜の一族が多い。魔法との親和性も高いので比較的仲が良いとのことだ。それとは反対にゲンロ校と仲が悪いのが北西にあるオブリ校。オブリ校に在籍する学生はほとんどが獣族で僕にはあまりお勧めしないとのこと。エルザの通うブレンス校は北に有り、竜族と竜人が多い。元々竜族の数は少ないので今はエルザともう一人しかいないけれど、竜人はそれなりにいる。また、人間もそれなりに居るらしい。最後にシーネス校。ここは広い湖と川に隣接し一部を所有していることから水に住む一族出身の者が多い。船の運用や海の気候を勉強できることからネカ校から勉強しに来る人もいるらしい。

 ざっとこんな所で、キクノ校の説明は無かった。

 「キクノ校につい手の説明は無いのですか?」

 老人は苦笑いしてこう答えてくれた。

 「ここは特徴を挙げるとしたら、人気の無い授業が多いってとこだな。」

 部屋に数人居た人のうち近くに座った女性が笑い声を上げる。

 「そうですね。私みたいに他の学校からこっちに来たのもいますけど、何時までいられることか・・。」

 それぞれ愚痴めいたことを言い始めたが、そんなに悲観した所が無いのはなんでだろう。

 「キクノ校は他と比べて圧倒的に小さい。つまり大人数が受ける授業や大型の道具を使う授業は出来ない。人がいない所には人は集まりにくく、またつまらないとされる授業が集まりやすいのさ。」

 「私達から言わせると、本当につまらないのか必要としていないのか・・・。いずれも必要な授業だと思うのですけどね。」

 一同その言葉に頷いている。悲観した所が無いのは自分の授業や学問に自信があるからなのかもしれない。

 そんなことを言った所、嬉しそうにそして少し照れ隠しも含めて

 「自信が無かったら他の学校に移ってまで続けようと思わないさ。」

 「まぁここにいれば多少なりとも給料が出るからね。」

 「食っていくには充分だしな。」

 なんて返って来た。

 「やっぱり僕はキクノ校にします。受けたい授業もあるし、家から近いですし・・。」

 それにこんな先生達の授業を受けてみたいと思った。

 「そうか。まぁ一年経てば申請することも出来るしな。色々な出身の先生がいる分他の学校に頼むこともしやすいか・・。さて何処かな。」

 一年後に変えるつもりも無いけれど、入学を認めてくれる様なので黙っておく。

 「これに名前と、もしあれば紹介者を。」

 いくつかの棚を開け閉めし、部屋に居た何人かも手伝いようやく見つけた書類を渡される。紹介者の欄がもしというのは普通紹介者があれば入る学校も決まるからだろう。

 自分の名前や年齢の他に師匠の名前とリエールさんの名前を書き渡す。

 「学園長の?」

 少し驚きながらも女性が備え付けられた魔導機に魔力と書類を通すと、一瞬の光と共に学生証が生み出された。

 「これを使うのも三年ぶりね。」

 「新入生だと十五年ぶりだ。」

 女性が老人に学生証を手渡す。

 「あいにくと入学式は準備しておらんかったが、トラ・イグ君。キクノ学園に入学を認め、キクノ校に在籍することを歓迎する。」

 差し出された学生証を立ち上がり受け取る。頭を上げると部屋の中に居た人達が拍手をしてくれる。

 「儂がキクノ校の校長。スミン・クロだ。よろしくな。」

 老人が校長先生だったらしい。

 「よろしくお願いします。」

 さしだされた手を握る。老人と思っていたけれど手には力がしっかりとこもっていた。

 そうして僕は十五年ぶりのキクノ校の新入生となった。


 キクノ校に入学した僕は早速授業を受けている訳ではなく、先程まで座っていた椅子に座って授業の説明を受けている。入学式が予定されていなかったため、勿論オリエンテーションも無い為に気になる授業についての説明をここでしてくれるそうだ。

 冊子で見ていた時にキクノ校の授業で気になったのは、

・ 戦乱と学園史

・ 偉人歴史学

・ 家庭で出来る薬草学

・ 美術史

・ 歪曲魔法理論

・ 魔法発動における座標指定及び発動プロセス

の六つだ。

 「儂らが言うのもなんだが、統一性が感じられんな。ちなみに他の学校で受けようと思っているのも聞いても良いかな。」

別段隠す事でもないので気になる授業をメモした紙を渡す。

「まだ決定ではないですが・・。」

・ 冒険者入門

・ 狩猟採取方

・ 錬金術入門

・ 基礎料理学

・ 薬学

・ 夜行人種論

・ 人類史

・ 人間にも出来る回復術

・ 人間にも出来る治療術

・ 人間に出来る魔法(初級)

・ 護身術

・ 近接武器格闘術(短剣)

 このうち薬学と夜行人種論は、エミリアが取る様なら合わせてゲンロ校で受けようと考えている。近接武器格闘術(短剣)はエルザが取る様なら一緒に受けても良い。短剣なのは刀術についての授業は無く、短剣なら脇差しに応用が出来ると考えたからだ。

 ちなみに「人間にも〜」シリーズは魔力が少ない人間でも使える魔法を教えてくれるものだ。

種族固有の魔法はもちろん魔族が体系化している魔法も人間の魔力量ではほとんど撃てずに撃てても一発二発撃てば限界である為、覚える人間は少ない。

 「ふむ。冒険者入門、狩猟採取方、錬金術入門、基礎料理学、薬学、人類史、人間にも出来る回復術、人間にも出来る治療術、人間に出来る魔法(初級)は当校でも取ることが可能だな。もちろんトラ君がうちで受けると言うならだが・・。あとは美術史が出来るかどうかといったところか。」

 「冊子には書いていなかったと思いますけど・・。」

 気になるほとんどの授業が受けられるなら、もっと多くの人がキクノ校に通っても良さそうなものだ。

 「体を動かすものが少ないから狭い当校でも可能なのだよ。それに生徒がほとんどいないので先生達も暇だからな。例えば「薬学」は先程の「家庭で出来る薬草学」の先生が教えることが出来るし、「人間にも出来る〜」シリーズは「歪曲魔法理論」の先生が教えられると思う。」

 「そんなに生徒がいないのですか?・・・。」

 自由が効くにも程があると思う。

 「まぁ他校から受けに来る生徒を除いて所属しているのは五名程だな。うち四名は顔も出さないが・・。」

 実質一名とは少なすぎる。

 「その一名と、他校からの生徒のほとんどは「男を捕まえる家庭料理」や「野外における料理術」、「一流シェフの料理技法」などの料理系の授業ばかりでな・・。」

 料理を教える先生が有名らしく、わざわざ他校からも来るらしい。所属の一名は弟子入り状態だそうだ。

 「料理学校状態ですか。」

 「まぁ他校だとそんなに細かく料理を分けて授業を作れないからな。」

 裏庭があった場所は料理用の専用教室が建った程だとか。

 「本年度の希望生徒次第だけど、心配しなくて良いだろう。」

 「よく潰れませんね・・。」

 潰れることがあるのかはわからないけど、他校に吸収されてもおかしくない。

 「一番古い学校でもあるし、料理人として成功した生徒からの寄付もあるので・・。」

 どんだけ料理の先生に頼っているのか・・。

 その後は校長に変わり、それぞれの授業を担当する先生に説明を受けた。マンツーマンで。いなかった先生もわざわざ呼びに行ってくれたが、料理の先生だけは忙しいらしく、学校側から打診して貰うことにして帰宅することにした。

 ほとんどの授業がマンツーマンになりそうで、お得と喜ぶべきか逃げられないと嘆くべきかが問題だ。


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