学園所有鉱山ダンジョンにて。一日目。
山男に見送られて洞窟へと入る。所々岩が光っていて明るさは問題が無い。
「第二ポイントまでは明るいから松明もいらないわ。まずは第一ポイントまで一気に行くわよ。ろくな石も採れないし、敵もほとんど居ないと言って良いからね。」
この洞窟は学園が管理しているだけあって、第十ポイントまでマップが網羅されていて、大体の採れる鉱物と敵が判明している。エルザを先頭にしてタタラとエミリア、次いでマリアさん。最後尾に僕。タタラは緊張している様で武器を握りしめているけど、エルザはどんどん進んでいく。たまに見かける大きいネズミとごつごつしたカエルはエルザが一睨みするだけで逃げてしまう。
さすが威嚇術Sの女。
一気に第一ポイントまで歩いて一旦休憩をする。と言っても水を一口飲んで少し話すくらいだ。
「ここまでは問題ないわね。第二ポイントまでも私の威嚇で平気だとは思うけど、鼠と蛙の大きさが大きくなるから一度戦ってみて余裕が在る様なら第二ポイントまで真っすぐ行くわ。ちなみにどっちも私一人で倒せるから一人ずつやるわよ。」
今のところ地図の最短距離を来ているため、だれも疲労の色は見えない。戦闘も一度も無いのことも理由の一つだろう。一人で戦う事にタタラが不安がっていたけれど、他の人は特に問題がない。
最初に出たのは蛙。さっきまでは拳程の大きさだったのが今度はスイカ程の大きさになっていて、大きくなった事により、ごつごつしていた肌が岩であったのだとわかる。その名もロックフロッグ。学園の説明によると、洞窟内の岩に擬態し、飛びかかって来るとあるが、スイカ程の大きさになった今見つけるのは難しくない。タタラは怖がりながらも鎚で一発。エミリアはが手を掲げると敵は動かなくなり、マリアさんは面倒くさそうにナイフを投げると岩を突き通し一発。僕も槍で一突きだった。
鼠は鉄鼠と呼ばれ、これは小玉スイカ程の大きさで、最大の武器は鉄をも齧るその前歯。また、時に鉄を体内に取り込み大きくなる為、表皮や毛が固く武器が通らない事が在るらしい。なぜらしいなのかというと、タタラの場合は素早く動く鼠に鎚が中々当らなかったけど、飛びかかって来たところに盾をブチ当てたらそのまま壁にぶつかりお亡くなりになった。エミリアはまたしても手をかざすだけで敵は動かなくなり、マリアさんも投げナイフが突き抜けた。僕の槍は上手く口の中に潜り込ませ一撃。
一応、鉄鼠の歯と毛が鉱石として使えるらしいので剥ぎ取っておく。何故か僕しか働いていなかったのかは疑問である。
皆一撃でしとめので宣言通りに、エルザの威嚇で敵を散らしながら、最短距離を第二ポイントまで来た。
このポイントとは小部屋の様なところで、小さな焚火があり、学園の工夫で何故か敵がこないところらしい。その工夫は一応秘密とされている。
第二ポイントから先は薄暗くなり、進めば進む程暗くなるため、松明等の灯が必要とされる。僕たちの荷物に松明は無いけれど、エルザの火魔法とエミリアの持って来てくれた魔導ランプが二台あるので明るさは充分である。そもそもエミリアとマリアさんは夜目が効くのでこの程度の事はどうってこと無いだろう。
敵は蛙がアイアンフロッグになり、体を覆う岩が鉄に、鉄鼠はまた少し大きくなった。が問題は無い。体を覆う物が頑丈になっても蛙は蛙だったし、鉄鼠は大きくなった分攻撃を当てるのが楽になった。マリアさんの投げナイフの貫通力は相変わらずだ。そして僕が剥ぐのもエミリアの威嚇も相変わらずだ。
第三ポイントを過ぎ鉄鼠の体の大きさの他に新しい敵が出て来た。ジュエルスネークだ。その名が表す様に額に宝石が付いた蛇で宝石の色によって毒の種類が変わるらしい。毒、麻痺、睡眠、混乱の四種類。宝石とは名ばかりで魔石なのだけど、それなりの価値は有り売れる。ダンジョンが深くなるに連れて体が大きくなり、魔石も大きくなる。値段も上がり、毒も強くなる。
しかし、エルザには牙が刺さらないしエミリアには近づけない。マリアさんは近寄らせない。僕の間合いに入ったら突かれる。と不安はタタラだけだったが、飛びかかられても冷静に盾で弾いていたので心配するだけ損だった。
それ以上にエルザの宝石狩りっぷりがひどくてほとんど皆戦わないで済んでしまったが。
第四ポイントまで行くとようやく下り階段が現れた。
階段を下ってもなんの問題も生じない。戦闘を行くエルザがジュエルスネーク以外は発見次第威嚇をして散らし、スネークにはバーサクと僕は愚かタタラ・エミリアラインまで敵が来ることすらなかった。僕がしたことと言えばジュエルスネークの額の魔石を剥ぐことだけ。
第五ポイントで大休憩を取る。焼きおにぎりと卵焼きといったエルザリクエストの「お弁当」だ。
「セバスの料理はうまいな。」
両手におにぎりを持ってもう遠足の子供にしか見えない。
「何処まで行くつもりですか?」
「とりあえず十まで行けるでしょう。今のところ敵らしい敵に会っていないし。」
タタラの質問にエルザは余裕だ。
「十から先はどうなっているか知っている?」
地図には第十ポイントまでしか書いてない。その後は空白だ。
「話しによると第三十ポイントくらいまではポイントが有って、その後はポイントすら無く続くらしいわ。試練の洞窟だからわかっていても地図に載せてしまっては本人等の為にならないと言うことなのだと思うけど情報は多いわ。このメンバーなら大分潜れるとは思うけど、一晩分しか食料を持って来ていないから第十ポイントで引き返すのが無難でしょうね。」
となると半分は来たことになる。帰りも入れたら四分の一だけど威嚇が効いているので帰り道も困ることはなさそうだ。
「そして山小屋で一泊し、準備を整えたら次は四日間潜りっぱなしよ。」
「ちょっと待って下さい。それだと入学式の前日まで帰れないでは在りませんか。」
マリアさんが冷静に突っ込むが何のその。
「そうなるわね。短い期間だが何処まで行けるか楽しみ。」
手に付いたご飯粒を口に運びながらそんなこと言ってくれちゃっているガキ大将エルザさん。
「楽しみですね。」
エミリアはノリノリだけどタタラは既に疲れた顔をしている。
「駄目です。ウェルキンさんに怒られてしまいます。」
「だけどある程度潜らねば良い素材は手に入らないし・・。」
「私頑張りますから。鉄鉱石やこの魔石で良い刀作れる様に頑張りますから。それに私はそんなに潜れる自信が在りません。」
四日間も潜りたくはないとタタラも必死だ。
「今日一日じゃ大してお金にもならないだろうし、かといってこれから潜るには食料や水が足りないし・・。」
借金の為にもエルザはもっと潜りたいらしい。
「はぁ、わかりました。譲歩しましょう。」
エルザの煮えぬ態度にマリアさんが提案する。エルザが納得しないと洞窟を出ても結局徒歩で帰るはめになってしまうのでしかたなしと言ったところだ。
「本日より一日半。帰りを半日で突っ切るとして一日分進みましょう。食料は私とエルザさんとタタラさんで取りに戻ります。タタラさんはそのまま小屋で待機。お嬢様とトラ様はここでお待ち下さい。剥ぎ取った物は私が預かりますから渡して下さい。」
言われるままに剥ぎ取った物をマリアさんに渡す。
「私はまだ良いとは・・。」
「エルザさんは稼ぎたいのでしょう。この先第十ポイントまでは今までとそう変わりません。第二十ポイント辺りまで行けば敵、採掘ともにそれなりになります。三十や四十まで行けば更に良くなりますが、どちらにせよ今の状態では行けません。ですから二十まで行き、ある程度稼いで戻って来る。途中寄り道はしない。これでどうですか。」
「マリアは来たことがあったのね。」
「在校生の時分に。卒業の年には第五十ポイントまで潜っています。」
そりゃ蛙や鼠なんて余裕な訳だ。
「せめて二十五・・。」
エルザが粘る。
「わかりました。二十五ですね。二言はありませんね。」
マリアさんの迫力に負けてエルザがコクコクと頷く。
「では、余計に時間が惜しいですのでさっさと立って下さい。基本的にエルザさんは敵を見かけたら威嚇、見かけなくても威嚇。タタラさんは私と手をつないで歩きます。はい、出発しますよ。お二人は動かないで下さいね。」
エルザを追い立てる様にマリアさんがタタラの手を引いて去って行く。
「行って帰って来るとなると三、四時間はかかるかな?」
途中戦闘をせずに真っすぐと急げばそんなもんだろう。
「交代で仮眠を取っておこうか。帰って来たら強行軍っぽいし。」
「そうですわね。マリアったら。」
マリアさんとエルザとのやり取りを思い出して顔を見合わせて笑ってしまう。
「トラ様は先にお休みになって下さい。今はまだ夜の時間。私は全く眠くなりませんから。」
何時かわからないがエミリアがそう言うのなら言葉に甘えよう。
「じゃあ一、二時間したら起こしてね。交代しよう。」
「はい。わかりました。良い夢を。」
「おやすみ。」
鞄を枕にして小さな焚火の側で横になる。二言、三言言葉をかわしたが、うとうとと眠ってしまった。




