笑顔が湧き出る種
今日も朝から雲ひとつない清々しい天気でした。
ここは‘晴れの村’とい名前の村です。
‘晴れの村’は大変良い気候に恵まれておりいつでも晴れていました。
しかしあまりにも晴れていて雨が降りません。
花や木はもちろん大事な食料である農作物が育たないのです。
水は隣町の‘雨の村’という村から支給してもらっていました。
しかしもらえた水は全て飲料水に使用されるので農作物にまで回りません。
そこで立ち上がったのが一人の少年と一人の青年であった。
一人の少年は‘晴れの村’に住んでいるアルという名前のとても
童顔だが実を言うともう16歳なのだ。
そしてもう一人の青年は‘雨の村’に住んでいるグウェンという名前で
年齢は23歳だ。ちなみにイケてるメンズです。
二人はこの村の伝説である水の湧く種を探しに旅に出るのです。
二人は村の人に見送られながら旅に出たのであった。
泣きながら送っている人もたくさんいる。
そこでいきなりアルがグウェンにこっそり尋ねた。
「死んだ人の気持ちが分かる気がしない?僕ね、今、結構複雑なんだよねぇ・・・。」
グウェンは肩で溜め息をこぼした。
前々から思っていたがこの子はなんでこんなにも緊張感がないのだろうか。
「そんなの知らないよ。俺達まだ死んでないじゃないか。縁起でもないことを言わないでよ。
アルちゃん。」
アルは顔をパッと上げて怒った顔をした。
「だからぁ~ちゃん付はやめてって言ったじゃんか!」
むすっとしている。
「いやでもね、いつもアルちゃんって呼んでたからついそう呼んじゃうんだよねぇ~・・・」
グウェンは頭をポリポリ掻きながら笑った。
グウェンだけでなく村の皆もアルのことをちゃん付していた。
晴れの村に初めて訪れたグウェンに飛びついてきたアルが笑顔で
『僕ね!アルちゃんって言うんだっ』
と言ったのだからしかたあるまい。
その日からグウェンはアルのことを‘アルちゃん’と呼ぶようになったのだ。
今でもそうだ。
いきなり呼び方を変えろと言われてもそうすぐにはできないものだ。
グウェンは話をそらそうと別の話をしてみた。
「今日の晩御飯はどうしようか」
「もちろん肉っしょ!!」
どうやらこの子は流されやすいようだ。
今度ちゃんと教育しておかねばならないようだ。
「あんまりお金無いんだから無駄遣いはやめておこうね。
それよりどこの村に泊まろうか。アルちゃん地図貸して。」
グウェンは掌をアルに向けた。
アルは腰に下げているカバンに手を突っ込んだ。
ガサガサ探しているようだ。しかし・・・
「ごめん。村に忘れて来ちゃった。」
え・・・・・
「多分~僕の部屋の布団の上にあると思うよ。今日の朝に爪を切るときに
敷いたからねぇ~」
「そんなことに使うんじゃないよっ!どうすればいいんだっ!!これじゃあ
どの町に行けばいいかすら分からないじゃないか!ここでまた帰ったら
何か気まずいじゃないかっ」
グウェンはその場にしゃがみこんだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・
その言葉が頭の中を埋め尽くしている。
アルは笑顔で口を開いた。
「大丈夫だよ。僕が食べ物の匂いで町を探し出すから。グウェンは黙ってついてきなさぁ~い!」
そういうとアルは先頭になって歩き出した。
本当に大丈夫なのか・・・?グウェンは心配の気持ち十割だ。
『本当に大丈夫なのかなぁ・・・』
早くもこの旅に不安であるグウェンである。
なんと驚き。
アルの宣言どおりグウェンはある活気の良い町にたどり着いた。
たくさんの人々が行き交う賑やかな町だ。
「すごいね・・・・」
グウェンは驚きしかない。
「でしょう?ここから肉まんの匂いがしたからね」
アルは鼻をクンクンと匂いを確かめるように鳴らした。
「たいした鼻をしてるねぇ・・・。お兄さんビックリしたよ」
キョロキョロと周りを見回しながらさぞかし感心したようにグウェンは言った。
アルはそんなグウェンを一人おいてさきさきと前に進んでいく。
「ちょっ!アルちゃんっどこ行くの?迷子になっちゃうよ」
アルはグウェンの言葉も聞かずさきさきと人混みの中へと姿を消していく。
「言わんこっちゃない・・・さっそく迷子じゃないかアルちゃんは子供の頃と変わらないなぁ」
アルは小さい頃から何処かへ行ってはよく迷子になっていたのだ。
『気の強い子だから怖い人に絡まれてないだろうか・・・』
心配だ。先が思いやられる。
「いって!」
グウェンは何かにぶつかり顔をしかめた。
「「いってえなあっ!」
人にぶつかってしまったようだ。
しかも血の気が多い男にぶつかってしまったようだ。
慌ててグウェンは謝った。
「すいません!前を見ていなかったもので」
謝ると男はニヤっと笑った。
「な、なんですか?どこかお怪我しましたか?!」
焦って近づいて背の高い男の顔を見上げた。
「肩を少しやられたみたいだ。少しそこの物陰に連れていって休ませてくれないか?」
「もちろん構いませんよ!手を貸しますね。俺の肩につかまってください」
男はすまないとつぶやきながらグウェンの肩に軽くつかまった。
道の片隅に入って酒樽に男を腰掛けさせた。
「具合はいかがですか?薬がいるようでしたら買ってきますが・・・。」
男はゆっくりと首を横に振った。
「なにか俺にできることはありませんか?」
グウェンはいたって礼儀正しい。
だから村の誰にでも密かにモテていた。
もちろんそういうことに鈍感なグウェンは気づかなかったが・・・。
性別関わらずモテていた。
よく襲われそうになったこともある。
「お兄さん可愛いね。」
男はそう言うとグウェンのお尻を両手で揉んだ。
「ひぃっ!」
グウェンは奇妙な声を出してしまった。
男はクスクスと笑いながら今度はグウェンの薄い胸板の前をサラッとなでた。
「やめてくださいっ!」
グウェンは半泣き状態で男の頰を平手打ちして大通りにかけでた。
遠くまで走って座り込んだ。
目の前に人影が見える。
『やばいっ!おいつかれたか?!』
恐る恐る見上げてみるとそこにははぐれてしまったアルがいたのだ。
「どうしたのグウェン!?」
涙を流しているグウェンを見てアルはグウェン同様しゃがみ込んだ。
グウェンは隠しきれない怖さをアルを抱きしめることで伝えようとした。
『なんて格好悪いんだ俺は・・・。』
不甲斐なさからも涙があとからあとから出てくる。
「迷子になったのがそんなに怖かったのグウェン?」
何を勘違いしたのかアルは優しい声で話しかけグウェンの背中を優しく撫でた。
まさかそんなはずはない。
グウェンは苦笑いしながら『ま、いいか』と心の中でそっとつぶやいた。
「はい。これあげるから泣かないで。」
アルは子供を諭すようにカバンから肉まんを取り出してグウェンの顔の前に差し出した。
「俺アルちゃんみたいに食べ物なんかで釣られないよ!あはあはははっははは」
ついにグウェンは吹き出してしまった。
グウェンはアルよりも年上だ。だからそんな慰め方をされてしまっては
笑うしかあるまい。
アルは何がなんだか分からずにポカーンとしている。
グウェンは涙を流しているくせに大笑いしている。
「なんで笑ってるんだ?!」
グウェンに向かって叫んでみる。するとグウェンは優しい顔で優しく微笑んだ。
「ごめん。何もないんだ。ありがとうね。これはアルちゃんが探しに行ってた肉まんでしょう?
アルちゃんが食べなさい。」
そう言ってアルの手のひらにそっと肉まんを返した。
しかしアルは逆にグウェンの手のひらへと肉まんを押し返した。
「これはもともとグウェンのなの。グウェンが食べなきゃだめなの!!」
押し返した肉まんを手に取りアルはグウェンの口の中に詰め込んだ。
「うっ!うううっうううううっっ!!」
焦って口から出そうとするがこれがまたなかなか口の中から外れないのだ。
やっとさ全てを飲み込んだグウェンはハァハァ言いながらゆっくり息を整えるために肩を
上下に揺らしている。
「おいしいか?いい匂いしてたからつい買っちゃったんだ」
美味しいのは美味しいがちょっと空気が・・・。
「美味しかったよ。とっても。アルちゃんも食べるといいよ。」
「うん。」
アルは元気よく頷いてグウェンの横に腰を下ろした。
「どう?美味しいでしょう?」
尋ねてみるとアルはにっこりと笑った。
グウェンは偶然目に入ったアルのカバンの蓋が開いていることに気づいて手を伸ばした。
カバンに触れると中から何やら種らしきものが転がり出てきた。
手に取って見つめてみるがなんの種かまったくわからなかった。
そこで持ち主であるアルに聞いてみた。
「ねぇアルちゃん」
「何?」
アルは口に肉まんを頬張りながら横目でグウェンを見た。
「この種みたいなのは何?」
アルの目の前につきだした。
恋人の浮気を暴く感じだ。
アルは口いっぱいに入っていた肉まんを全て飲み込むと「忘れてた」と言って手を叩いた。
「忘れてたって?」
「この種、あの伝説の水の湧く種なんだって」
「え・・・嘘でしょ?それか売ってきた店側が嘘をついているんだよ。」
グウェンは返してきなさいと言いながらため息をついた。
しかしアルは・・・
「いや、これはタダでもらったんだ。村のことを話したら泣きながらくれた。」
と、残りの肉まんを頬張りながら言った。
「こんなに近くに伝説の種があるわけないじゃんか。からかわれてるんだ。」
それでも信じられないグウェンは否定し続ける。
「嘘じゃないってぇ~帰って埋めてみようよ。」
確かにアルの言うとおりだ。
「でも今日はこの村に泊まろうよ。」
「え、何で?観光したいの?」
もちろんそんなはずはない。
今日、旅に出て今日、旅から帰ったらおかしいではないか。
「ま、まぁそんなところかな。アハハハ・・・・」
苦笑いしてみる。
「こんなところにいたのか。可愛い兄ちゃんよぉ~。」
ふと頭上から聞き覚えのある声が聞こえて恐る恐る顔を上げてみる。
そこには片方の頰をほんのり赤くした男がニヤニヤしながら立っていた。そう。さっきの
変態男だ。
グウェンは怖くなりフルフルと震えだした。
そんなグウェンに気づいたアルは男を悪い奴だとすぐに判断した。
「なんだお前!」
突っかかっていく。
「やめなさいアルちゃん。なんにもないから。」
しかしそんなグウェンの言葉など聞いていない様子だ。
「オレはガキには興味ねぇんだよ。引っ込んでろ。」
アルはグウェンのことをしっている。
もちろんよく襲われそうになっていたことも。
「てめぇグウェンに何かしたんだな!」
アルは顔に血を昇らせながら怒鳴った。
「アルちゃんやめなさい!」
必死に止めようとするが何故かグウェンの力では抑えきれない。
グウェンより小さい体をしているが力はアルのほうが上ということだ。
『明日から腹筋と腕立て伏せを50回ずつしよう。』
不謹慎だがそう思ったグウェンだった。
「グウェンに手を出すな!謝れ!!」
アルは本気で怒っているようだ。
しかし男はそんなアルの態度が気に食わなかったのかアルに握り拳で襲いかかった。
「アル!」
グウェンは助けようと一歩前に出たがアルがそれを恐ろしい目つきで止めた。
そして次には男の拳をさらりと避けて今度は男の鳩尾めがけて握り拳を
のめり込ませた。男は唸り声を上げながらその場に倒れた。
グウェンは驚いて口を開けたままポカーンとしていた。
「グウェン!」
強く呼ばれて呼び戻された。
「なんで本当のことを言わなかったんだよ!!道に迷って泣いてたんじゃないのかよ!?」
アルはグウェンの両肩を凄く強い力で掴み怒鳴りながら揺すった。
「ごめんね・・・アルちゃん。つい心配をかけたくなくって。」
グウェンは困ったような顔を笑顔に変えて言った。
「心配かけろ!」
「は?」
素っ頓狂な声をグウェンは発してしまった。
「だから!僕には心配かけてって言ってるの!!」
「心配って・・・」
「僕はグウェンに辛い思いをして欲しくないの!!」
アルは必死に伝えたいことだけ伝えてグウェンをギュッと抱きしめた。
「アルちゃん・・・大人になったね。まだまだ子供だとばかり思っていたよ。」
小さい頃のアルを知っているからこそ成長した部分が分かる。
ずっと幼いとばかり思っていた。
グウェンは嬉しい気持ちと寂しい気持ちとアルを一緒に抱きしめた。
「当たり前だよ。僕もう16だよ。てかお父さんにもそんなこと言われたことないよ。
ジジくさいよグウェン。」
クスクス笑いながら鋭いところを突いてくるアル。
「一緒にいすぎると分かることも分からないんだよ。」
グウェンは笑いながらゆっくりとアルから体を離して立ち上がった。
「さぁ帰ろうかアルちゃん。」
いつもの笑顔だ。
「え、でも観光したいんじゃないの?」
「いいや。速く帰ってアルちゃんの成長をみんなに知らせたいんだ。」
アルはにっこりと笑って頷いた。いつもの元気な笑顔だ。
村へ帰るとみんなは笑顔で‘おかえり’と言って迎え入れてくれた。
次の日に水の湧く種をみんなで植えてみた。
10秒ほどするとぷくぷくと水が湧いてでた。
村のみんなはもちろんアルとグウェンは大喜び。
村をあげて水への感謝祭が行われた。
別れの時。
アルは少し涙目だった。
「なんで泣くのアルちゃん。」
笑顔でグウェンは尋ねてみる。
しかしアルはキッとグウェンを睨んだ。
「泣いてないし!しかも前からちゃん付するなって言っただろ!!」
グウェンは少し驚いたがすぐにいつもの優しい笑顔に戻った。
「ごめんごめん。じゃあもう行くねアル。隣の町なんだからいつでも会えるよ。また来るね」
グウェンは帰ろうと踵を返した。しかしアルの声によって引き止められた。
「ありがとう!今度は僕がグウェンのところへ遊びに行くからな!!」
アルはそう言って右手を差し出してきた。
「え・・・?」
グウェンは驚いて目をパチクリしている。
「握手も知らないのか?」
アルも逆に驚いている。
「いや、握手は知ってるけど・・・するの?」
アルは何度も縦に頷いた。
グウェンはなんだか微笑ましくなってきてそっとアルの右手に自分の右手を置いた。
「また今度。」
アルは嬉しそうに別れを告げた。
「うん。それじゃあまた今度ね。」
グウェンはそう言葉を返して今度は本当に帰路を歩いていった。
この一日旅でアルは大人に。
グウェンはもっと大人へとなったのであった。
こうして二人の旅から持ち帰られた水の湧き出る種によって
‘晴れの村’の人々はみんな笑顔になったとさ。
おしまい。
本作品を読んでいただき誠にありがとうございました。
出来栄えはいかがでしたでしょうか。
少しでも面白いと感じていただけたのなら嬉しいです。
これからも小説を書く事に精を出していきたいとおもっています。
興味のある方は私の他の作品もぜひ読んでみてください。