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国家認定PMCヴァルハラ  作者: 神代零


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8/10

第八話 「監査対象外」

 午後十一時十四分。


 横浜港上空。


 大型輸送ヘリ三機。


 轟音が夜の空気を震わせていた。


 サーチライトが港湾区域を白く切り裂く。


 そして。


 ヘリ側面に刻まれた黒い紋章。


 槍を持つ片目の鴉。


 見たことのない部隊章だった。


「……オーディン」


 アヤが低く呟く。


 ヴァルハラ隊員たちの空気が変わる。


 知らない。


 だが危険だと直感できる。


 それほど異様だった。


「社長」


 通信士が震えた声を出す。


「防衛省データベース照合……該当なし」


「警察庁登録なし」


「PMC管理局登録なし」


 つまり。


 存在記録がない。


 蓮司の目が細くなる。


「あり得ない」


 日本国内で武装組織が活動するなら、


 必ず:


* 警察庁

* 防衛省

* PMC管理局


いずれかへ登録される。


 それが法律だ。


 だが。


 上空の部隊は、どこにも存在していない。


 その時。


 ヘルの男が笑った。


「分かったか?」


「お前たちは“管理された武力”だ」


「だが連中は違う」


「監査対象外だ」


 ヘリ後部ハッチが開く。


 黒い兵士たちが降下してくる。


 全身黒装備。


 識別番号なし。


 国旗なし。


 所属なし。


 完全匿名武装部隊。


 その動きは異常に洗練されていた。


 軍。


 警察。


 PMC。


 どれとも違う。


 もっと危険な何か。


「こちらヴァルハラ!」


 警察庁回線へ蓮司が怒鳴る。


「未登録武装部隊を確認!」


「所属照会を要求する!」


 数秒。


 通信沈黙。


 そして。


『……回答不能』


 警察庁担当官の声が僅かに震えていた。


『当該部隊は、警察庁管轄外』


「何だと?」


『防衛省へ照会中』


 次の瞬間。


 新しい回線が強制接続される。


 防衛省直属暗号回線。


『ヴァルハラへ通達』


 低い女の声。


『オーディンへの接触を禁止する』


 蓮司の顔が変わる。


「所属を明かせ」


『回答権限なし』


「ふざけるな」


『これは国家安全保障命令である』


 冷たい声だった。


 感情がない。


「……つまり」


 蓮司が低く言う。


「政府は存在を把握しているんだな」


 沈黙。


 それが答えだった。


 アヤが小さく呟く。


「国家が隠してる……」


 その時。


 黒い兵士たちが倉庫へ突入する。


 速い。


 異常な速度。


 ヘルハウンド武装員が反応する前に制圧されていく。


 発砲。


 近接戦。


 無駄がない。


 まるで人間ではなく、“処理装置”だった。


「何だよあれ……」


 ヴァルハラ隊員の一人が息を呑む。


 銀髪の男は笑っていた。


「国家は綺麗事だけでは守れない」


「だから作った」


「最初から法律の外にいる武力をな」


 蓮司の拳が僅かに握られる。


 理解してしまった。


 国家認定PMC。


 防衛警備報告書。


 警備計画書。


 監査制度。


 それらは全て。


 “合法武力”のための鎖だ。


 だが。


 国家自身が、その鎖の外側に武力を持っていた。


「……監査対象外か」


 蓮司が静かに言う。


 その時。


 一人の黒装備兵士がこちらを見た。


 無機質な黒いバイザー。


 視線だけで分かる。


 危険だ。


 兵士はゆっくり蓮司へ歩いてくる。


 そして。


 感情のない声で言った。


「国家認定PMCヴァルハラへ通告する」


「本案件への介入を終了しろ」


 港の空気が凍りついた。

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