表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

散り際の美学

作者: 大黒
掲載日:2026/03/13

 四年に一度、俺たちは大量に出動する。

 今年は五十万個だ。

 倉庫のシャッターが開き、箱ごとトラックの荷台に積まれる。

 ガタン、と揺れた拍子に隣の箱から声がした。

「せ、先輩……」

 新人らしい、震えた声だ。

「なんだ?」

「俺たち……どこに行くんですか?」

 俺は少し間を置いてから答えた。

「世界中の猛者が集まる場所だ。」

「猛者……?」

「ああ。四年に一度しか開かれない大会だ。」

新人が息をのむ。

「大会……」

 俺は続けた。

「世界中から精鋭が集まり、自分の技量をぶつけ合う。」

「四年に一度しかない。」

「だからこそ、皆その一瞬のためにすべてを賭ける。」

 新人は感心したように言った。

「すごい……」

 俺は少し格好つけて言った。

「儚いものさ。」

「儚い?」

「ああ。」

「桜みたいなもんだ。」

「満開になったと思ったら、すぐ散る。」

「その一瞬のために咲く。」

「まさにあの大会の連中と同じだ。」

しばらく沈黙が流れたあと、後ろの箱から声がした。

「あーあ」

「また始まったよ」

「こいつの妄想」

 箱の中に笑いが広がる。

その時、奥から低い声が響いた。

「静かにしろ」

 ベテランだ。

 箱の中がピタリと止まる。

「新人」

「は、はい!」

「いいか。」

 ベテランはゆっくり言った。

「俺たちの人生は短い。」

「一度きりだ。」

「棚に並び、箱に詰められ、やがて戦場へ送られる。」

 新人が小さく聞く。

「戦場……」

 ベテランは続けた。

「だがな。」

 少し間を置いて言った。

「だからこそ――」

「俺達は閃光のように生きるんだ!」

「それに輪廻転生もその分早い」

 箱の中がざわついた。

「おお……!」

「なんかかっこいい……!」

 その時、別の箱から声がした。

「いや待て」

「閃光って……」

「三秒くらいじゃない?」

沈黙。

ベテランがぼそっと言った。

「……まあ、長くても五分だな」

 箱の中に笑いが起きた。

 新人が恐る恐る聞いた。

「みんな……前の人生って覚えてるんですか?」

 奥から声がした。

「ああ、覚えてるぞ。」

「どこだったんですか?」

 少し間があってから、低い声が言った。

「渋谷だ」

「渋谷?」

「クリスマスの夜だった」

 箱の中がざわつく。

 その声は静かに続けた。

「駅前はカップルだらけだった。」

「俺はラブホテルに連れていかれて――」

 少し間を置き、

「果てた。」

 沈黙。

 そして誰かが言った。

「言い方かっこよすぎだろ。」

 笑いが起きた。

 別のゴムがぽつりと言った。

「俺は失敗した。」

「失敗?」

「途中で破れた。」

「えっ!?」

「サイズが合ってなかった。」

 また沈黙。

「向こうのアレが……大きすぎたんだ」

 誰かが言った。

「それお前のせいじゃないだろ」

 そのゴムは静かに言った。

「だから思ってる」

「今回は――」

「最後まで自分の責務を果たしたい」

 少しだけ空気が締まった。

 誰かが遠くを見ながら言った。

「俺達の人生は本当に一瞬だ。だが、また直ぐに同じ人生が始まる。多分殆どのやつは前世の記憶を持っている。何度も何度も生まれ変わる。そして同じ人生が始まる」


 その時、新人が小さく聞いた。唐突な質問だった。

「先輩。」

「なんだ?」

「先輩はどっち派なんですか?」

「どっち?」

「いや、その……」

 新人は声をひそめた。

「ゴムをして使うのか、使わないのかって話です。」

 俺は少し考えた。

 そして言った。

「ああ、それか。」

「俺は――」

「ナマ派だな。」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、古株が叫んだ。

「ゴムなのにゴム使わないのかよ!!」

 箱の中が大爆笑に包まれた。

 その時、トラックが止まった。

 扉が開き、外の声が聞こえる。

「選手村への物資到着!」

 フォークリフトが箱を持ち上げる。

 その拍子に、箱のラベルがちらりと見えた。


『オリンピック公式配布用』


 四年に一度、俺たちは大量に出動する。

 世界中の猛者が集まる場所。

 四年に一度の祭典。

 オリンピックという──。

 性地へ。

 いざ出陣!!

(終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ