散り際の美学
四年に一度、俺たちは大量に出動する。
今年は五十万個だ。
倉庫のシャッターが開き、箱ごとトラックの荷台に積まれる。
ガタン、と揺れた拍子に隣の箱から声がした。
「せ、先輩……」
新人らしい、震えた声だ。
「なんだ?」
「俺たち……どこに行くんですか?」
俺は少し間を置いてから答えた。
「世界中の猛者が集まる場所だ。」
「猛者……?」
「ああ。四年に一度しか開かれない大会だ。」
新人が息をのむ。
「大会……」
俺は続けた。
「世界中から精鋭が集まり、自分の技量をぶつけ合う。」
「四年に一度しかない。」
「だからこそ、皆その一瞬のためにすべてを賭ける。」
新人は感心したように言った。
「すごい……」
俺は少し格好つけて言った。
「儚いものさ。」
「儚い?」
「ああ。」
「桜みたいなもんだ。」
「満開になったと思ったら、すぐ散る。」
「その一瞬のために咲く。」
「まさにあの大会の連中と同じだ。」
しばらく沈黙が流れたあと、後ろの箱から声がした。
「あーあ」
「また始まったよ」
「こいつの妄想」
箱の中に笑いが広がる。
その時、奥から低い声が響いた。
「静かにしろ」
ベテランだ。
箱の中がピタリと止まる。
「新人」
「は、はい!」
「いいか。」
ベテランはゆっくり言った。
「俺たちの人生は短い。」
「一度きりだ。」
「棚に並び、箱に詰められ、やがて戦場へ送られる。」
新人が小さく聞く。
「戦場……」
ベテランは続けた。
「だがな。」
少し間を置いて言った。
「だからこそ――」
「俺達は閃光のように生きるんだ!」
「それに輪廻転生もその分早い」
箱の中がざわついた。
「おお……!」
「なんかかっこいい……!」
その時、別の箱から声がした。
「いや待て」
「閃光って……」
「三秒くらいじゃない?」
沈黙。
ベテランがぼそっと言った。
「……まあ、長くても五分だな」
箱の中に笑いが起きた。
新人が恐る恐る聞いた。
「みんな……前の人生って覚えてるんですか?」
奥から声がした。
「ああ、覚えてるぞ。」
「どこだったんですか?」
少し間があってから、低い声が言った。
「渋谷だ」
「渋谷?」
「クリスマスの夜だった」
箱の中がざわつく。
その声は静かに続けた。
「駅前はカップルだらけだった。」
「俺はラブホテルに連れていかれて――」
少し間を置き、
「果てた。」
沈黙。
そして誰かが言った。
「言い方かっこよすぎだろ。」
笑いが起きた。
別のゴムがぽつりと言った。
「俺は失敗した。」
「失敗?」
「途中で破れた。」
「えっ!?」
「サイズが合ってなかった。」
また沈黙。
「向こうのアレが……大きすぎたんだ」
誰かが言った。
「それお前のせいじゃないだろ」
そのゴムは静かに言った。
「だから思ってる」
「今回は――」
「最後まで自分の責務を果たしたい」
少しだけ空気が締まった。
誰かが遠くを見ながら言った。
「俺達の人生は本当に一瞬だ。だが、また直ぐに同じ人生が始まる。多分殆どのやつは前世の記憶を持っている。何度も何度も生まれ変わる。そして同じ人生が始まる」
その時、新人が小さく聞いた。唐突な質問だった。
「先輩。」
「なんだ?」
「先輩はどっち派なんですか?」
「どっち?」
「いや、その……」
新人は声をひそめた。
「ゴムをして使うのか、使わないのかって話です。」
俺は少し考えた。
そして言った。
「ああ、それか。」
「俺は――」
「ナマ派だな。」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、古株が叫んだ。
「ゴムなのにゴム使わないのかよ!!」
箱の中が大爆笑に包まれた。
その時、トラックが止まった。
扉が開き、外の声が聞こえる。
「選手村への物資到着!」
フォークリフトが箱を持ち上げる。
その拍子に、箱のラベルがちらりと見えた。
『オリンピック公式配布用』
四年に一度、俺たちは大量に出動する。
世界中の猛者が集まる場所。
四年に一度の祭典。
オリンピックという──。
性地へ。
いざ出陣!!
(終)




