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静寂の寓話シリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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6/7

6.静寂の寓話:起源(Ep.0)

影たちが最初に人間を恐れた理由、

そして恐怖が“別の形”へ変わっていく過程が語られる。

人間と影の関係が、長い時間をかけて反転していく。


―「最初に恐れていたのは、私たちの方だった」―


最初に人間を見たとき、私は震えていた。


私たちよりずっと大きく、後ろ足だけで立ち、

はるか頭上から見下ろしてくる。


その姿は、獣のものではなかった。

森のどんな生き物とも違う、異質な“何か”だった。


前足――いや、“手”と呼ぶべきものだろうか。

あれは枝を折り、石を持ち、獲物を切り裂き、

時には火を操った。


火は熱く、近づくことすらできない。

夜なのに周囲を明るくし、影を揺らし、

私たちの気配を暴く。


人間は、夜を昼に変える力を持っていた。


だから私たちは、長い間、人間を避けていた。

森の奥で息を潜め、彼らの足音が遠ざかるのを待った。


ある夜、耳をつんざく轟音が響いた。

雷のような、しかし空は晴れていた。


仲間が倒れた。

そして消えた。

何が起きたのか、誰も理解できなかった。


人間は、触れずに私たちを消す力を持っていた。


その日から、私たちは人間を“恐怖の象徴”として記憶した。


近づけば、終わる。

見つかれば、消える。


それが私たちの学んだ最初の教訓だった。


それは群れ全体へ伝わり、人間に近づくことを禁忌としたのだ。



しかし、時が経つにつれ、奇妙なことに気づいた。


人間は、声を上げても仲間が来ないことがある。

助けを求めても、誰も動かないことがある。

夜に火を持たず、暗闇を歩く者がいる。



ある村では、特にそれが顕著だった。



そして、ある夜。


人間の村から叫び声が上がった。

私たちは関与していない。


ただ、見ていた。


叫び声が上がっても、誰も外へ出ない。

戸を叩いて、確かめようともしない。

仲間が倒れても、誰も気づかない。


……そして、人間は誰一人そこへ向かわなかった。


火も灯らず、戸も開かず、

ただ沈黙だけが広がっていた。


その沈黙を、私たちは初めて“合図”として理解した。


「人間は変わった」


そう気づいた瞬間、

長く続いていた恐怖が、

ゆっくりと別の形へと変わり始めた。



次話(最終話):7.静寂の寓話:別の終わり(Another End)

2026/2/27 20:00に更新します

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