猫の雨宿り
「このバスタオル貰っても良いか?」
「え?どれー?」
「この、シミのあるやつ」
「良いけど、切って雑巾にしようと思っていたのよ。もっと綺麗なの出すわよ?」
「いや、これで良い」
先ほど外から帰ってきた私は、朝の天気予報をしっかり聞いていたので傘をちゃんと持っていた。しかし、傘で防ぎきれないほどの降水量で、ずぶ濡れになりながら玄関のドアを開けると、足元を何かが横切った。
「うわ! なんだ?」
キョロキョロしてみると、玄関のすみにずぶ濡れの猫がすまなそうに小さくなっていた。
私は猫を刺激しないようにそっと離れ、テーブルに積まれていた古着の中からバスタオルを見つけ、妻に声をかけたのだった。
誰かがこぼしたらしいココアだかコーヒーだかのシミが取れないバスタオル。それを広げ、少し丸く形作り、震える猫のそばにそっと置いてきた。
猫はじっとこちらを見ていたが、私が少し離れた場所から「それ使って良いよ」と声をかけると、人の言葉がわかるのか、そっとタオルの上に丸まった。
ふと人の気配に振り返ると、妻がニヤニヤしてこちらを見ていた。
「優しいじゃん」
「ずぶ濡れは辛いだろう?」
「そうね」
そんな妻は、もう一枚タオルを持っていき、猫の上にもかけてきていた。
猫は眠ってしまったのか、ほんの少しタオルが動いて見えるが、じっと動かなかった。
「飼ってあげられれば良いんだけど、難しいね」
「うちって魚しかいないからね」
妻と話し合い、飼えないからエサは与えないことにした。
「そういえば、玄関の戸は開けておくの?」
「開けておいたら寒いだろう?」
「じゃあ、猫さんは、どうやって帰るの?」
「起きて鳴き出したら戸を開ければ良いんじゃないか?」
「そうね。そうしましょう」
数時間たって、息子が帰ってきた。
「ただいまー。なんか玄関に猫がいて、俺と入れ替わりに出ていったけど、あれなに?」
「おかえり。猫、驚いて出ていったの?」
「いや、俺を見てからゆっくり出ていった」
「昼間どしゃ降りだったから、雨宿りに来たみたいよ」
「へえー」
「お父さんが、バスタオルを献上してたのよ」
「それで玄関にバスタオルが丸まって落ちてたのか!」
息子が妻と話してるのが聞こえた。
「おかえり。雨やんだのか?」
「ただいま。もう降ってないよ」




