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化け物のレコード  作者: 立心琴葉
第一章 Lost girls
8/41

1-7

 冬香はこの計画を誰かに話すつもりはない。あくまで止めるのは冬香自身だ。

 冬香がそう考えるのには理由があった。見ず知らずの他人が止めて、彼女らが止まるだろうか? いや、きっと止まらないだろう。であれば、まだ自分が説得したほうが勝算はあると思ったからだ。

「決まりね。それじゃあ、わたしたちの計画について話すわね。まず、わたしたちは十一月十日の予言の日までに三人で心中計画を考えている。

 この集まりはわたしが作った。いや再編した。元々ネットでこの近所にあったけれど十年以上前に解体された自殺願望者が集まるサークルを見つけて、そのサークルをわたしが蘇らせた。そこで集まったのがわたしたちだった。まさか小学校の時に仲の良かった人たちがこんなにも綺麗に集まるなんて、最初ここに来た時は心底驚いたわ。

 なぜ自殺するのか、それぞれ理由は明かしていない。どうせ死ぬのに、理由なんて必要ないと思ったから。でも、わたしたちは一つの意見が合致した。それは――隕石なんかに殺されるくらいなら自分たちで死んだほうがましだ、と。

 だから十一月十日までの期間に死のうと思っている。そして、今はいつ、どこで、どんな方法で死を迎えるか、相談しているの。最期なんだから、自分の納得のいく方法で死にたい」

 春は説明し終わるとふーっと息を吐いた。重い沈黙の時間が流れる。部屋は電気をつけているが、夜だからか、とても薄暗く感じた。

 運命なのか、奇跡なのか。

 ただ、一つ分かるのは、この再開は決して喜ばしいと言える再開ではないということだ。

 小学生時代の仲良し四人組の中で冬香以外の三人が自殺願望を抱えており、偶然春の集ったサークルに集まった……もしかすると、隕石が落ちる確率よりずっと低いのではないか。

 春によると――春が再編した後、夏希、秋穂の順番で加入したらしい。

 冬香としては、なぜこのような経緯になったのか、一人ずつのことを聞きたいところだが、この集まりが明かさない方針で行くのであればそれに従うしかない。

「ちなみにこの集まりの名前はね――『化け物部』っていうんだ」

 化け物部……サークルなのに『部』がつくのか? と冬香は思ったが、特に重要なポイントではないため、言及することはなかった。

「化け物……自殺なんて考えてる私たちにぴったりな名前だ」

 自殺願望者は――化け物。

 ――確かに、普通とは言えないかもしれない……。

「まぁ、時間はあるし、今は傷ついた者同士の慰めあいみたいな集団だけれど」

 春はそう言うと、えへへと作り笑顔を見せた。

 そうこう話をしている内にとっくに夜になっている。秋穂は壁に掛けられた時計を眺めた。

「もう九時か。そろそろ帰んないとね。今日は何もできなかったけど……まぁ、協力者も増えたわけだし」

「遅い時間までいると怪しまれちゃうから、九時には解散するようにしてるんだー」

 夏希は冬香にそう説明しながら自身のバッグを肩にかけた。

 確かに、九時までならば塾等があれば高校生が出歩いていてもおかしい時間帯ではない。

 実際に、冬香も画塾がある日はこのくらいの時間帯に帰ることがよくある。

 春も一瞬で切り替えて帰る準備をする。

 電車でここまで来ている春と夏希は「またね」と、そそくさと帰ってしまった。

 ふと、横を見ると秋穂と目が合ってしまう。

 ――非常に気まずい。気まずすぎる!

 静かな会議室には冬香と秋穂だけが取り残されている。しかも二人は家の方向が同じため、帰るのにも帰りにくい。

 なんだか会議室も先ほどより大きく感じた。

「あ、私別のところ寄ってから――」

 帰ろうかな。そう言おうとした時、

「別に、一緒に帰ったらいいじゃん。協力者なんだからさ」

 明らかに嫌味が入った声で秋穂は言う。

「……はぃ」

 秋穂のドライな言い方が怖く感じ、蚊の鳴くような声しか出なかった。

 ――まぁ、そりゃそうだよね。秋穂は二人ほど情に厚いタイプじゃないし、止めようにも私は秋穂がそんなことを考えていることすら気づけなかったくらいだし……。

 冬香は秋穂に嫌われる覚悟はできでいた。

「正義のヒーローのつもり?」

 秋穂は冬香を睨む。睨んでないのかもしれないが、秋穂の鋭い目つきが冬香を刺激する。

「分からないけど……知らない人に止められるよりかはましかなって思ったんだ」

「そう。……あんまり変わらない気がするけどね」

「そうかもしれないけど――」

「それは正義じゃなくてエゴだよ。春が、夏希が、止めてほしいって頼んだわけじゃないでしょ」

「いや……そうだけど……うん。エゴでいいよ。私はみんなに生きててほしいから」

 冬香はエゴでもよかった。みんなに生きていてほしいから冬香はそうしようと思った。

 そのまま二人は同じ帰路を歩いた。しかし先ほどの対話からずっと無言のままだ。

 冬香にはどうしても気になることがあった。ずっと違和感を抱えていた。

 ――もしかすると。……いいやきっとそうだ。

「みんなは本当に予言なんて信じてるの? 本当は、予言を理由にして死にたいと思ってるんじゃない? でも独りで死ぬのは怖いからみんなで死のうと思ってるんじゃないの?」

 長く続いた沈黙を破り、冬香は自分が考えていることを秋穂にぶつけた。

「……鋭いね。合ってるかもしれない。いや、合ってるよ、それは。他の二人はどうか知らないけど。そうだよ。独りで死ぬのは怖い。まだ死を恐れている。でも、生きていることは辛い。

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