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冬香はとある考えが浮かんだが、それは一度胸にしまっておくことにした。
そして心咎めは三人が自殺を考えていたというショックよりも、自分が仲間外れにされていなかったという安心感が勝ってしまったことだった。
もちろん、それはほんの一瞬のことであるが、冬香は自責の念を抱いた。
――私はどうするべきなんだろうか。
さすがに、こういった状況に遭うのは初めてだ。誰かに言うべきなのか。親? 先生? ……そのことを伝えてこれは解決するのか? そうであれば、まだ友達の私から言ったほうがましなんじゃ。
三人が真剣にこの計画を進めているなら申し訳ないが、そんな予言で命を捨てるなど勿体ない。親とか先生に言うとかなしに、この計画は必ず止めなければいけない。
疑問と自責の次に生まれたのは、そんな冬香の『正義』だった。
冬香自身も、仲の良かった三人が死んでしまうなんてことが起こったとしたら、とても悲しい。
確かに予言が必ず外れると言い切れるわけではないが、そんな不確定の事実を信じ込むなんておかしいじゃないか。
冬香はそう思い、声をかけようとドアを開けた。
「あの――」
「やっと出てきたわね、冬香」
冬香がドアを開けた瞬間、完璧に春と目線が合った。
そんな春の言葉に冬香は「……はい」としか答えられなかった。落ち着いた声のせいで、余計に怖く感じる。
しばらく会ってなかったせいで、冬香は春をすっかり侮っていた。春は聡明であり、また人を見る目が冴える、とにかく冴える。その上、なぜか地獄耳だ。冬香が春をつけていることなど、お見通しだったのだ。
入った部屋は一言で表すと『簡素』。机と椅子以外ほとんど何もない。きっと公民館の安く貸出できる会議室なのだろう。
「なんでもっと早く言わないの?」
十中八九尾行していたほうが百悪いのだが、この計画は他の人にバレては不味いのでは?
「だって、冬香は親や先生に言うタイプじゃないでしょ」
強い、強すぎる。本当に数年会っていないのか、と疑いたくなるほど冬香のことに気づいている。
春は冬香が想像しているより、ずっと強者である。
秋穂もまた冷静であった。というよりかは呆れていた。ぼそぼそと「いや止めてよ……」というだけであった。
「えええ、冬香だ! ひ、久しぶりだねー。ほら、い、今はちょっと集まってただけというか……冬香を仲間外れにしようとしたわけじゃないから!」
二人とは対照的に夏希は目を丸くして驚く。そして意味もなく取り繕うとしている。
「もうバレてるよ。でも、冬香は予言信じないって言ってたから、この作戦には参加しないでしょ? じゃあ、冬香は帰って。そしてこのことは誰にも言わないで」
冷たい声で秋穂は言い放つ。
秋穂の視線が痛い。もしかすると、このことで秋穂は予言のことを聞いたのかもしれない。
今の状況は一対三。春の言葉は強いため、率直な言葉は恐らく通じない。それに、久しぶりに会ったばかりの冬香の話を聞くとも限らない。
――止めないと、なんて勝手なこと言ったけど、止めるのって、私が思ってるより難しいことなのかも……。
三人が冬香を見つめる中、冬香はただそこから目線を逸らすことしかできなかった。
また反省する点が増えてしまった。気軽に首を突っ込んでしまったが、人の行為を止めることは案外難しい。いじめは悪いということは分かっているが、止められる人が実際には少ないのはそういう理由なのだろう。
それではこの状況を、冬香はどう乗り越えればいいのか。
「……ごめん、さっきは信じないって言ったけど……その話、ちょっと聞かせてほしいな。もちろん、大人には言わないよ。もしかしたら私も何か手伝えることがあるかもしれないし」
演技くさい言い方で謝る。
こうなったら、乗るしかない。
止められないのであれば、少しでも協力的姿勢を取るしかない。そうすれば計画を妨害することだって出来るだろう。と冬香は考える。
冬香の言葉に対し、秋穂はとても渋い顔を見せた。
「えー。そう言われてもさ……」
「まぁ、いいじゃん。なんだか冬香だけ仲間外れにするのもよくないと思うしさー」
夏希は非常に楽観的だ。まるで遊びに誘うかのようなテンションで話す。
「いやでも、このことを冬香が誰かに話したら、私たちの計画が……」
冬香は秋穂の言い分にも納得できた。
秋穂は冬香が予言なんて信じていないことを知っている。それを抜いたとしても、明らかに予言を信じていないことはバレバレだ。
冬香がこの計画を止めるために参加しようとしていることはバレている。しかし夏希はそれでも冬香を仲間外れにしないよう言ってくれているのだ。
「そうよね。じゃあ冬香。こうしましょう。あなたが誰かにこのことを話したら――あなたは自殺する。その時に自殺願望がないのであれば、わたしたちがあなたを殺す。わたしたちは自分の命をこの計画に賭けている。ならば、あなたもこの計画に命を賭けるべきだと思うの」
「……わかった」