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冬香にとっては、「春のことをが気になる」という気持ちもあるが、それよりも「せっかくここまで来たのにもったいない」という気持ちがあった。なんだかここで引いたら、負けた気持ちになってしまうのだった。
エレベーターを使うということは、二階ではないだろう。と推測し、二階はあまり詮索せずに三階へと向かう。
すると三階の端の一室から少女の話声が聞こえてきた。声からして最低でも三人いるようだが、ここからでは会話の内容を聞くことはできない。
バレる恐怖と薄暗さの恐怖に耐えながら冬香はそっとその部屋へ近づく。本当に幽霊でも出そうな場所だ。
なんで春はこんなところに?
近づきながら冬香の脳内に良くない妄想が広がる。まさか、春がグレて闇バイトでもしてるんじゃ……それか族に……。
廊下の端まで行くと、なんとか会話が聞こえてきた。
「その日まであと七か月……どんな感じにしようか」
「そうね……隕石なんかでみんな死ぬのはごめんよね。――夏希は?」
夏希⁉ 思わず声が出そうになる。
夏希もまた、冬香の小学校の時の友達の1人だ。春、夏希、秋穂、冬香が仲良し四人組であった。
夏希は四人の中でも極めて元気であり、小学生の頃からずっとスイミングをしている。休日に遊ぶといつも水の爽やかな香りがした。噂では中学の時に県大会で準優勝したと聞いた。
一つのことを全力で成し遂げることができる。それが夏希のいいところである。逆に言えば、自分の興味があること以外は疎かになりやすいため、勉強や芸術の才能は……あまりない。それでも、明るく友達になりたくなるようなタイプの子だ。
演劇があれば、主役は夏希のような子こそふさわしいだろう。実際に小学校の演劇でも、そこそこ重要な役をしていた気がする。あまり演技は良くなかったが。
夏希が話す度に結んであるポニーテールの先が揺れている。
――夏希に驚いてスルーしちゃったけど……さっきの声は秋穂⁉ じゃあ、あの時の私以外が集まってるってこと?
それはそれでショックな話だ。あの時の仲良し四人組で冬香だけ除け者にされているということになるのだから。
「十一月十日に世界は滅びる……隕石によって。もし、そんなものに命を奪われるくらいなら――」
「自ら命を絶つ。春、そんなの今更でしょ。何言ってんの」
春の言葉に秋穂は淡々とした声で返した。
自ら命を絶つ―すなわち、自殺だ。
会話を盗み聞きしながらも冬香はかなり混乱していた。
――自ら命を……? みんなでそんなこと考えてたの? しかも動機はあの予言……?
混乱しているとはいえ、冬香の理解は早かった。もし、そのような計画の為に集まっているのであれば、冬香がこの場に呼ばれていない理由がはっきりするからだ。冬香は自殺願望者ではない。
しかし、同時に疑問と心咎めが生まれる。
疑問は「なぜ、そのような予言をそこまで真に受けているのか」だ。冬香も丁度この前、秋穂からその話題を聞いた。だが、冬香はその予言を信じなかった。
実際、多くの人が恐怖を感じるだろうが、だから世界が滅ぶまでに自殺しよう……となることがあり得るのだろうか。夏希はともかく、春は軽く流すようなタイプであるし、秋穂は興味自体はあるようだが、そこまで信じ込むようなタイプとは考えられなかった。
それに秋穂はこの前、まるで信じているかのような反応を見せていたな……。
――もしかすると。