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化け物のレコード  作者: 立心琴葉
第一章 Lost girls
5/41

1-4

 ――見間違いじゃないよね?

 家に近づいていた頃、私はある人影を見た。見間違いでなければあれは――春だ。

 いや、季節の春ではなく人名である。

 春は秋穂と同様に小学校の時に仲が良かった少女だ。しかし、彼女は中学受験をしており、小学校卒業以来は疎遠になっていた。

 非常に聡明で、また人を見る目が冴えていた。例えば、体調が悪くて我慢している人がいたら一番に気づくのが春であった。友達思いで、周りをよく見れる少女だ。

 しばらく顔を見ていなかったが、整った顔立ち、成長が早く、小学校六年生から変わらない少し高めの身長と伸びた背筋。少し長めの髪、春に違いない。

 髪は時間が経てば変わるだろう、という反論が来るかもしれないが、春は母親の趣味で髪は基本的に胸下あたりより長い……ということを小学生の時に言っていた。

 ――駅が近いし見かけること自体は別におかしくない……いや、中学に入ってからは一度も見てない。私は画塾がない日はいつもこの時間に下校してるから学校であれば見ないのもおかしい……。

 冬香はそんなことを考えながら春を目で追う。この時間にこの場所で春を目にするのもかなり珍しい、というか初めてだが、冬香にはそれ以上に気になる点があった。

 ――春の顔、なんか変じゃなかった?

 失礼なことを考えていることは承知だった。

 しかし、冬香が知っている春はもっと明るい顔をしていたはずだった。もちろん、最後に見たのはもう何年も前だから確証ではないが、冬香は妙な違和感を感じていた。

 それに加え、なんだか目線も少し変わっているように感じた。まるで、人目を避けようとしているようにキョロキョロしていた。

 冬香はこのあとも今日の予定はない。

 ――ちょっと、後を追ってみるか。待って、それってストーカーなのでは?

 後をつけるなんて良くないとわかっているが、どうしても春のことが気になって仕方なかった。

 こんなことはストーカーとやっていることは対して変わらない。女子高生が女子高生をストーカーするなんて、端から見たら変な構図すぎる。

 それに仲の良い友達と言っても小学校の時の友達。向こうが覚えているとは限らない――いや、春は覚えてるか、記憶力がいいし、人の顔を覚えるのが得意だった気がする……多分。

 だけれど、友人の様子がおかしいのに放っておくほうが罪なのでは……?

 ――よし、ストーカーのレッテルを張られたら、ストーカーとして生きて行こう。

 結局、冬香は春の後をつけることにした。

 春は先ほどと変わらない挙動で暗い道を歩いていた。彼女は家が裕福であり、親はいわゆるエリートだ。

幼少期から多くの習い事をこなし、彼女が今通っているA高校は県の中でも有数の私立進学校である。そんな春がこんな暗い場所をこんな時間に歩くのもなんだか不思議である。辺りには街頭すらほとんど見当たらないし、人の気配もない。

 そのまましばらく春をつけていると、一つの場所にたどり着いた。

「なんだここ……」

 そこは一つの公民館であった。公民館といっても四階建ての小さなビルで、人っけが全くない。まるでホラー映画に出てくるマンションのようだった。

 冬香がぼーっとしていると、春がその公民館へと入っていった。自動ドアで冬香の存在がバレてしまいかねないため、春が遠くへ行ったのを確認してから冬香も中へ入る。

 しかし、困ったことに春がエレベーターを使ってしまった。そのため何階へ行ったか分からなくなってしまった。

 こうなれば、一階ずつ上がっていって確かめるしか……。

 そこで冬香は正気に戻る。

 ――いや、さすがに人のプライベートにそこまで顔を突っ込むのはアウトでしょ。それによく考えたら、春が私にすぐ気づくかも分からない……いやでも、ここまで来たのに引くには……。


 ――しんどい……。

 そんなことを考えつつも、冬香は無意識に階段を昇っていた。ここまで来たらもう引き下がれないのだ。

 学校では体力を理由に特別にエレベーターの使用許可が下りているため、階段を昇るのは久しぶりだった。

 息を切らしながら冬香は階段を昇る。

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