戦前の葛藤
ウーラの神殿内では、クロノスとウーラによる激しい一騎打ちが繰り広げられていた。
ドカンッッッ!!
ウーラはクロノスの腹部に勢いよく拳突き出し、そのままクロノスを地面に叩きつけた。
だが、クロノスはウーラの拳を強く握りしめ、最小限の衝撃に保ち、ウーラから距離を取った。
(クロノス)
「あの堕天使とは比べものにならない速さだ...
だが、権能が働いていない分、なんとか即死は免れている」
俺とウーラとの体格さが二倍はあり、ウーラの攻撃は全て上からくる。
格闘技において、体格が恵まれている人とそうでない人、通常ぶつかり合いになれば、より体格が勝っている方が試合を制す。
では、体格が劣っている方がどうやって試合に勝つか。
多くは知恵、技術、反射速度、立ち回りといった答えが正しいだろう。
だが、これらも全て俺よりもウーラの方が勝っている。
つまりは、この戦いは「積み」であり、よほどのことが無い限り、ウーラは俺に負けることが無い。
(クロノス)
「それでもッ!!」
(ウーラ)
「受けに来たかっ!!
我が、拳を!!」
それでも予想外の攻撃を入れることができれば、勝利を狙える可能性はある。
例えばカウンターだ。
奇跡に近いタイミングが必要になるが、成功した後の勝率は格段に上がる。
さらに、拳の間合いであれば、より近距離で狙うことができ、体格差もあまり必要ない。
失敗の可能性としては、俺の想像を超えるウーラの反応速度のみ。
よって最低限の身のこなしで、感覚に身を任せて攻撃を避けつつ、それと同時に打ち返すスリップカウンターをここで決める!
そして、俺は真正面からくるウーラの拳をくぐり抜け、ウーラの胸元に強烈な一撃をたたき込んだ。
(ウーラ)
「・・・・。」
ガシッッッ!!
俺は腕を掴まれた。
そして、ウーラはもう一方の腕で俺の腹を殴った。
(クロノス)
「ガハッッッ!!」
(ウーラ)
「やはり貴様は愚かだッ!!」
その後、ウーラの追撃が何発か身体に直撃してしまい、最終的に俺はその場で気絶してしまった。
(ウーラ)
「つまらん。
たかが、十発の攻撃で意識を失うとは…甚だ図々しい。
貴様は終わりだ」
(ヴァルガス)
「頼む!起きろ…主!!」
(モシュア)
「セラフィム様!
主様が、クロノス様がっ!!」
(セラフィム)
「・・・・。」
ドォッン!!!!
そして、クロノスはウーラよりトドメの一撃を喰らうと、頭部より血が吹き出しそのまま地面に倒れ込んだのだった。
この場には長い沈黙だけが残った。
(モシュア)
「あ、主様...主様が」
(ヴァルガス)
「ウーラ・ヴァシリアスーー!!」
(ウーラ)
「そうだッ!!不満があるならば…来いッ!!」
ヴァルガスは大波を発生させ、天井を埋め尽くすほどの水滴状の槍を生成し、碇の形をした大剣を手に取って本気でウーラを潰しに行く。
一方でモシュアは、急いでクロノスの側へと駆け寄り、呼吸をしているか、鼓動はまだあるかを急いで確かめる。
クロノスは仰向けになり、頭から流れた血が床に広がっていった。
(モシュア)
「お願い...」
モシュアはクロノスの胸に耳を当てるも、鼓動の音も、吐く息も次第に小さくなっていく。
信じがたい状況に、モシュアはこれまで目にしてきた、あらゆる治癒魔法をクロノスに施す。
しかし、どの効果を期待できず、ただ目を瞑るクロノスに対して「目を開けてください」と懇願すしかなかった。
ヴァルガスは横目に、モシュアが泣き崩れてしまうのを見て、これまでにないほどの怒りをあらわにする。
(ヴァルガス)
「貴様、何が協力だッ!!
世界を救おうと動いた主に対して、このような仕打ちとは、どういうことだ貴様ーーー!!!」
(ウーラ)
「貴様には分かるまい。
我のなすこと、その意味を。
少なくともセラフィムも、そしてその小僧も分かっていたことだろうに...」
(ヴァルガス)
「貴様が主を語るなーーー!!」
ヴァルガスはすでに暴走状態に陥っており、ウーラの神殿を破壊しながら、ヴァルガスを中心に水流が渦を巻く。
だが、ヴァルガスによって生成された水は、ウーラに到達する前に大気の重さによって掻き消されてしまう。
(ヴァルガス)
「貴様如きに…貴様如きに、何故主が殺られねばならぬのだッ!!」
ヴァルガスは、ウーラの真上に飛び上がり、巨大な水で生み出された矛を投擲する。
大気の重さによって、速度と威力が倍増するも、ウーラが拳を上へと突き上げると、その反動によって矛は跡形無く消えたのだった。
(ウーラ)
「愚か...」
(ヴァルガス)
「クソがッ!!」
その後、何度もヴァルガスはウーラに対抗して攻撃を仕掛けるも、ウーラに攻撃が届くことは無かった。
二人が争っているのを見かねたモシュアは、立ち上がって拳を強く握りしめた。
そして、下を向いていた顔を上げるとその表情からは、激しい怒りがひしひしと伝わってくる。
モシュアは宙にあらゆる属性の攻撃を生み出し、ウーラにぶつけようとする。
(セラフィム)
「モシュア、ヴァルガス...攻撃を辞めるんだ。
もう...奴が来る」
***
俺はウーラにやられたのか...
辺りを見渡しても、一筋の光すら存在しない暗闇...
ああ、また来てしまったのか...俺は。
ウーラの攻撃を受けて倒れたはずのクロノスは、暗闇の空間で再び目を覚ました。
これで二度目か...
ウーラとの戦いのときに、俺は奴に攻撃され気を失い、カオスと直接話す機会を得られた。
瀕死の攻撃を受けることがトリガーであれば、他の方法もあったのかもしれない。
だが、元々ウーラは俺をカオスに入れ替わらせて再び戦うことが目的だったのだろう。
そして、暗闇の空間から耳元で囁くような声で奴が話し始めた。
(カオス)
「時の流れ...それは変革の希望。
この世の絶望もまた然り...」
(クロノス)
「お前...なのか?
俺は...死んだのか?」
(カオス)
「時の流れ...それは変革の希望。
この世の絶望もまた然り」
(クロノス)
「答えろよ!
全部お前がやったんだろ!?
俺を巻き込むなよ、皆を傷つけるなよ。
お前の身勝手で、後どれだけの犠牲を増やせばいいんだよ...」
(カオス)
「それを決めるのは貴様だ...」
(クロノス)
「!?」
俺が決める!?
カオスの言うことを俺はまるで理解できない。
いや、そんなことよりも言うべきことがあるだろう...
(クロノス)
「カオス...
マグナレアを消したのはお前か...」
(カオス)
「否...
これより我が貴様の道を開く...
貴様の阻害たるを消す...永久に」
そこでカオスの声は途切れて、暗闇が一瞬にして消え去った。
俺は光に取り込まれて、気が付いた時には戦闘を目にしていたのだ。
***
(クロノス)
「こ...これは」
俺が目を開けた瞬間、そこではカオスとウーラの激しい戦闘が繰り広げられていた。
そして、隣にいたモシュアが俺の目覚めに気づいた。
(モシュア)
「主様!?
ご無事で何よりです...
ヴァルガス!主様が目をお開けになりました!」
(ヴァルガス)
「心配したぞ...主よ!
いや、良かった。
息が途切れたと聞かされた時、我がどのような思いをしたか...」
どういうことだ?
俺はウーラとの一対一の戦いで死にかけていたはずだ。
だが、俺の身体にはウーラと戦った後の傷跡が奇麗さっぱりに消えていたのだった。
モシュアにはあの量の傷を癒やす回復能力がなければ、セラフィムに関しては目の前の争いを見ているだけで、俺の回復をしていたとは思えない。
(クロノス)
「モシュア、これはどういう状況だ...
俺は確かウーラに負けて死にかけていたはずだが...」
(モシュア)
「ウーラに負けて?
”主様はウーラと戦っておられない”はずでは?」
(クロノス)
「俺がウーラと戦っていない...だと?
アレは夢?いや、現実のはずだ...」
(ヴァルガス)
「何を見たのかは知らぬが、流石の我も驚いたぞ...
まさか、ウーラと戦う直前で、”主が気を失って倒れてしまう”とはな...」
(クロノス)
「気を失って倒れるだと!?
ますます意味が分からない...」
(ヴァルガス)
「その後、ウーラが主を臆病者呼ばわりするから、我が怒り狂って戦ったのだが...
突如として、カオスが現れて、そこからはもう滅茶苦茶だ...」
俺の知らない記憶...これもカオスの仕業なのか?
しかし、それよりもだ。
マグナレアの件について、カオスは関わっていないと答えてた...
それは嘘かもしれないし、本当のことを言っていたのかもしれない...
だが、もし嘘ならば、誰が何のために...マグナレアを...
(ウーラ)
「目覚めたか小僧!
生憎だが貴様に構っている暇はない。
カオスが現れた以上、ここからは我の問題だ。
貴様は表へ出て来る災厄の足止めでもしているがよい!!」
(クロノス)
「災厄!?
セラフィム...」
(セラフィム)
「ああ、その通りだ。
もうすでに、災厄はこの世界へ辿り着いている可能性が高い...
ここはウーラに任せて、私たちは戦場に向かうとしよう。
この世界を懸けた戦場へ...」
突然の出来事に俺の謎は深まるばかり。
俺の知らない記憶。マグナレアの行方。
だが、今は切り替えなければならない。
俺たちは神殿内でカオスと激しい戦いを繰り広げるウーラを後にしつつ、戦場へと急いだ。




