追う者
空気が重い...
ハデスの眼、これはガチだ...
(ハデス)
「で、どうなんだ?
さぞ慌てているように見えるが」
(永道)
「・・・。
ハデスはどうしてここまで来たんだ...」
(ハデス)
「言わねば分からぬか...?」
(永道)
「それは...」
(ハデス)
「別に貴様を責めているわけではない。
ただ、言うべきことを言えばいいのだ」
(永道)
「俺が...」
(ハデス)
「ええいッ回りくどいな!!我に対しての不敬であるぞ貴様ッ!!
我とて礼儀を重んじる!
感謝を告げに行く程度、死ぬ気で踏ん張れば...ぐっ!!」
(モシュア)
「ハデス様...無理をなさらないでください...
主様...ハデス様は主に『援軍助かったよ』と言ってもらいたいだけだそうでして...」
(ハデス)
「なっ!?何故それが分かった!?
と、とにかく我から感謝を述べるなどもってのほか...
弱者は弱者なりに、頭を垂れて我の計らいに全力で感謝するがいい!!」
(永道)
「た、助かったよ...
でも地底神殿を抜けてここまで来ている理由って...」
(ハデス)
「ああ...それだけだ。
我こそ地底神殿に到達される前に、ウーラを退けたこと褒めて使わすぞ。
しかし...この世の支配者を名乗る愚か者を倒したくせに、顔が死んでいるぞ!?いや、元々か?
まあ戦争に犠牲は付きものなのだが、無駄にはしなかったのだ。
貴様を責める者などここにはいない...」
(永道)
「ほ、本当にそれだけなのか...?」
(ハデス)
「何度も言わすでない。
本当に...それだけだ」
(永道)
「マグナレアについて俺を問い詰めないのか...?」
(ハデス)
「ああ...そのことか...」
(永道)
「俺がバカな行動をとったばかりに...本当に申し訳ない...」
(ハデス)
「確かによくもまあ、そのような見苦しい面でここまでこれたよなぁ...」
(永道)
「やっぱりお前は知っていたんだな...マグナレアを...」
(ハデス)
「いや、知らん...」
(永道)
「え...ハデス...お前も彼女のことを...
何で俺だけ...どうして誰も...」
(ハデス)
「貴様はこの書類を見たことがあるか?」
ハデスは「バンッ!!」と物音を出しながら、机にある書類を出した。
(ハデス)
「我直筆のこの書類...
渡した覚えの無い書類に”マグナレア・キュベーレル”とだけ書かれてある。
我の妻を決める婚姻届に書いてあるこの名を我は忘れるはずが無いのだッ!!
落ち込んでいるのは貴様だけでは無い...
この場にいる全員が”マグナレア・キュベーレル”と言う存在を知りたがっているのだ...」
全員は目線を軍議の時にマグナレアが座っていた場所をじっと見続ける。
ハデスは戦争で命を落としたイアペトスの席に座っていて、まるで誰かがいたかのようにその一席だけ取り残されていたのだ。
(永道)
「・・・・。
ウーラと戦う前、ここで軍議があった。
皆、その軍議より前に俺と関わった記憶があるか...」
全員が首を横に振った。
(永道)
「俺はこの一連の出来事がカオスの仕業だと考えている。
この男の目的がどういったことなのかは分からないが、俺たちに危害を加えていることは事実。
マグナレアという神はここの誰よりも皆のことを大事に思っていた。
それに、この軍の地母神でもあった。
これがどういう意味を示しているのかお前たちはには分かるだろう...
俺たち『ティターン』は軍の中枢とも言える『地母の権能』を所持しているも者を、たった今失ってしまったのだ...」
そう。
この世界において一人一人の兵士がどれほどの意味を成すか...
マグナレアが言っていたように大神の力だけで、この先戦って行くのは無理に等しい。
魔力の製造源を大幅に失った俺たちは、今絶望的な状況に立たされてしまったのだ。
(ハデス)
「貴様たちのことの重大さは理解した。
だが、我の嫁の件について情報が全く入ってこないのだが!?
説明しろッ!」
(永道)
「まあ、お前が彼女をドン引きさせるほどの好意を抱いていた女性だ」
(ハデス)
「だろうな!それで!?」
(永道)
「えっと...出会った日にその書類を渡していた...とか」
(ハデス)
「まだ許容範囲だ...他にあるか!?」
(永道)
「え、え~ちゃん付けしていたとか...?」
(ハデス)
「ぬぅあ~~!!
素晴らしい!記憶に無い我が羨ましすぎるッ!!」
コ、コイツは何を求めているんだ...?
***
(モシュア)
「それで...この神殿にお越しになられた理由は何ですか?」
(ハデス)
「礼を言わせに来ただけだ...
(地底神殿が何者かに占拠されたなんて言えば、またコイツに借りを作ってしまうだろうからな...)
用は済んだ。
我はもう戻る...」
(モシュア)
「何者かに占拠された地底神殿に戻られて、大丈夫なのですか?」
(ハデス)
「アアッ!?」
(永道)
「(モシュアって尋問最強じゃね...)
えっと...それで、どんな連中に占拠されているんだ?」
(ハデス)
「知らん...
唐突に身の危険を感じてな...
しかし、我が地底神殿を抜けてしまうと、身体に禁断症状が生じてしまい...
死ぬ気で踏ん張ってはいるが、これ以上は身体が持たんのだ」
(ヴァルガス)
「どの程度持ちこたえられる?」
(ハデス)
「ふぅ~~。
な、涙でそう...」
(永道)
「素が出てるぞ!!
とにかく、この神殿はタルタロストの地底神殿と近い。
ハデスの言うよそ者ともいずれ、戦いになる可能性だってある」
(ヴァルガス)
「なら、行くしかないよな!!
相手が誰であろうと我々は主が望む道を行く!!」
(永道)
「ありがとう...ヴァルガス!
皆もそれでいいか?」
皆は、俺の合図を待っていたと言わんばかりに、立ち始めた。
俺に向けるまなざしは、どれも輝いて見えた。
(永道)
「よし...
ハデス案内してくれ」
(ハデス)
「貴様は強いぞ...
我ほどでも無いが、いい覚悟を持っている
さあ着いてこい!!
皆共々、我の神殿に誘ってやろうではないか...ぐっ!!」
ハデスが軽く足をならすと、地面に亀裂が入りあの時と同じような大穴が足下から現れた。
そして、あの時と同じような感覚が身体に走り、懐かしさを感じた。
ヴァルガスたちは今までに無かった出来事に、驚きを隠しきれず不安げな表情をしている。
あの時の俺は彼女にこんなにも情けない表情を見せていたのかと思うと、少し恥ずかしくなった。
***
宮殿の内部へとたどり着き地面が現れた。
しかし、宮殿内を見回すがこれと言った違和感というものは感じられなかった。
(永道)
「ハデス...
俺には何も起こっていないように感じるが...」
(ハデス)
「今はそうかもしれぬ。
だが我には感じる。
我の巣窟を荒らす、害成す存在を...」
(モシュア)
「あの...主様、ハデス様...」
(永道)
「どうした?敵か?」
(モシュア)
「いえ、そうでは無くて...
味方が...」
俺は後ろを振り向いた。
すると困り果てたモシュアと、頭を抱えたヴァルガス、それ以外に味方が誰一人として見当たらなかった。
(永道)
「エ゛ッ...」
(ハデス)
「あーそうであった。
我がこの地底神殿に、一気に転移させることのできる人数は最大で”4人”のみ。
後の奴らは、貴様らの神殿に取り残されているか、地底神殿の外へはじき出されたか、未だに奈落へ落ち続けているか...
この三択だな...」
(永道)
「それなら落ちている者がいるのなら、今すぐ奈落から出させてやってくれ!!」
(フォティノス)
「うわ~~~ん!!
主様ーー!!暗くて怖かったよ~!!」
(テテュス)
「全く情けない。
たかが暗闇の中に落ちていただけだというのに...」
(フォティノス)
「あぁん!?
可愛さのかけらも無いデカ物は黙ってろよ...
主様~~このデカ物が怖いよ~!!」
(テテュス)
「チッ!あばずれ女...」
(フォティノス)
「失せろデカ物!」
(永道)
「(あーヤバイヤバイヤバイ...怖すぎだろッ!!)
ま、まあフォティノス一旦落ち着いて...」
(ヴァルガス)
「そ、そうだぞテテュス...
お前も少しは自重を覚えた方がいい」
(フォティノス)
「主様...!!」
(永道)
「は、ヒャイッ!!」
(フォティノス)
「私のことはどうぞ”フォティ”とお呼びください!
これも一種の愛情表現ですから...ね!」
(永道)
「は、はい...」
(テテュス)
「ヴァルガス...!!」
(ヴァルガス)
「は、ヒャイッ!!」
(テテュス)
「ウーラとの戦いで無計画で特攻していったお前が、自重を語るな...
私の言うこと...間違っていないよな...なぁ!!」
(ヴァルガス)
「は、はい...」
(ハデス)
「貴様ら、少しは緊張感を持たぬか!
まったく騒がしい...
それはそうとて、永道...
貴様、こんな面倒な女を連れているなんて...”趣味が悪いぞ”」
(永道、ヴァルガス、フォティノス、テテュス)
「あんたが言うなッ!!」
そして、俺たちは暗く不気味な雰囲気を漂わす神殿の奥へと、足を進めていくのだった。




