表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/66

第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜⑭

 校舎屋上での死闘(?)が行われた週明けこと――――――。


 針本針太朗(はりもとしんたろう)は、週末に起きた出来事の一部始終を養護教諭に伝えるため、保健室を訪ねた。


「ご苦労さまだったな、針本。キミのことは、ウチの姉からも報告があったぞ」


「はい、安心院(あじむ)先生のお姉さんのアドバイスのおかげで、ボクも、真中(まなか)さんも、東山(ひがしやま)先輩も、なんとか無事に危ない場面を切り抜けることができました。ただ、ボクが、もっと早く先生たちに相談していれば、こんなことにはなっていなかったかも知れないんですが……」


 保健室の丸椅子に腰掛けた針太朗(しんたろう)が、神妙な面持ちでそう語ると、保健医は、軽くため息をつきながら、男子生徒に苦言を呈する。


「そこは、針本(はりもと)に反省してもらわないとな……学院に外部の魔族が侵入したおかげで、その事後処理に、私たちは、おおわらわだ……しかも、相手のオノケリスは、学院の外に逃亡してしまった様だしな……」


「あの……反省してます。本当に申し訳ありません」


 そんな、殊勝な態度で謝罪する針太朗(しんたろう)のようすに、なにか感じるところがあったのか、幽子(ゆうこ)の表情は、すぐに柔和なものに切り替わり、

 

「まぁ、それでも、キミは仁美(ひとみ)の危機に駆けつけて、あの()を助けてくれたんだったな。その点には、教師としても、あの()を見守る立場としても、あらためて、お礼を言いたい。ありがとう、針本」


そう言って、頭を下げる。そんな養護教諭の言葉に、


「いえ……ボクは、逆にアイちゃん……真中(まなか)さんに助けてもらったようなモノなので……」


と、恐縮して返事を返すと、保健医は微笑みながら楽しげに語る。


「ほぉ……キミは、あの()をその愛称で呼ぶようになったか……これは、なかなか興味深い展開だ」


「い、いやいや! 先生が考えてる、そういうことじゃないです」


 妖しげな笑みを浮かべる幽子(ゆうこ)に、針太朗(しんたろう)が慌てて返答すると、保健医は男子生徒をからかうように問い返す。


「ふむ……()()()()()()とは、どういうことなのか……ここは、じっくり聞かせてもらおうじゃないか?」


「ちょ……もう十分ですよね? わかってくださいよ……」


 ロサンゼル市警の専任捜査官に無茶振りをされた屋台の店主のように、困惑顔で返答すると、窮地の彼を救うように、ノックもなしに保健室のドアが開いた。


「シンちゃん、あのね! 昨日、ウチに帰ってから、すぐに脚本を改稿したから読んでほしいんだけど!」


 息せき切って、あらわれたのは、真中仁美(まなかひとみ)

 針太朗(しんたろう)にとっての救世主と思われた来訪者は、まさに、話題の渦中の人物でもあった。

  

「うむ……ウワサをすれば影がさす、というが……ちょうど、良いところに来たな。それにしても、シンちゃんか……これは、仁美(ひとみ)にも、ジックリと話しを聞かせてもらわないとな……」


 突然の闖入者である女子生徒の言動を注視していた幽子(ゆうこ)が、姉の妖子(ようこ)と同じくらい妖しげな笑みでつぶやくと、仁美(ひとみ)も、自分の行動が少し軽はずみだったことを自覚したのか、照れ隠しに苦笑しながら、針太朗(しんたろう)に問いかける。


「あの……私、なにかしちゃった?」


「あ〜……うん、そうだね」


 乾いた表情で返答する針太朗(しんたろう)に対し、幽子(ゆうこ)が身を乗り出して、追及を再開しようとすると、


ガラガラガラ――――――


と、ふたたび保健室のドアがノックなし開け放たれ、声がかけられる。


「シンタロー! 保健室に居るって聞いたけど、大丈夫?」


針太朗(しんたろう)くん、その後、ケガはないか?」


 二人の新たな来訪者に真っ先に反応した針太朗(しんたろう)が返答する。


「ケイコに、奈緒(なお)さん! 大丈夫だよ。ケガをして診てもらってるわけじゃないから、心配しないで」


 隣のクラスの女子生徒と同様に、息せき切ってあらわれたクラスメートの北川希衣子(きたがわけいこ)東山奈緒(ひがしやまなお)をなだめるように、できる限り、落ち着いた口調で答えたのだが……。


()()()に、()()さん……? シンちゃん、いつの間に、二人とそんなに仲良くなったのかな? 私、()()()()()()()()()()()()()()()()()が、できたんだけど……」


 あくまで、生徒たちとのコミュニケーションの一環として興味を示していたに過ぎない養護教諭と違い、演劇部の女子生徒の表情は、微笑みを浮かべているようで、その実、まったく目が笑っていない。


「いや、そのそれは……」


 思ってもいない方向から追及の手が上がったことに焦る針太朗(しんたろう)の肩に手を掛けた仁美(ひとみ)は、自転車のブレーキを握るように、徐々に握力を強めていく。

 

 そして、彼の肩に爪が食い込まんばかりに圧力が強まった瞬間、


 コンコン――――――


と、丁寧に保健室のドアがノックされ、針太朗(しんたろう)のクラスメートの男子生徒があらわれた。


「失礼します! 一年二組の針本(はりもと)は居ますか? 彼を探している生徒が居るんですけど……」


 そう言って、ドアから顔を覗かせたのは、放送メディア研究部の部員でもある乾貴志(いぬいたかし)だ。


「あっ、針本(はりもと)! やっぱり、ここに居たか。キミに会いたいっていう女子を連れてきたよ」


 そして、彼のあとについて、保健室に、高等部一年と中等部三年の女子生徒が入ってくる。針太朗(しんたろう)たちとは隣のクラスに所属する三組の南野楊子(みなみのようこ)と中等部の西田(にしだ)ひかりだ。

 さらに、彼女たちに続いて、ニコニコ笑いながら、


「なんだか、面白そうなことが起こりそうだから、見学させてもらって良いですか?」


と、クラスメートにして友人の辰巳良介(たつみりょうすけ)まであらわれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ