購買+チャイム=開戦のお知らせ
――現在時刻 11:47
昼休みまで残りあと3分
4時限目の終りを告げるチャイムが秒読みに入る頃――
一部の生徒たちは真剣な面持ちでそれが鳴るのを待っていた
中には鳴るまでの時間を腕時計で正確に測っている生徒までいる
彼ら、彼女らの狙いはただ一つ――
この高校の購買部で一番の人気を誇るカレーパンがその標的である
このカレーパンはコンビニなどで売っているものとは桁違いなぐらい美味しい
どれぐらい美味しいかというと某番組の取材で来た某アイドルグループのメンバーがあまりの美味しさに大絶賛するほど
そんな激うまカレーパンは水曜日の時だけ数量限定で売られるので水曜のお昼になると毎回激しい争奪戦が繰り広げられる
その一部の生徒たちにとって聖戦ともいえる戦いのゴングが4時限目終了のチャイムなのである
「……………………」
このクラスのムードメーカーであり普段から笑顔でいることが多い鵜宮翔太も、この時ばかりは笑顔ではいられない
その戦績は入学してすぐの頃から数えて47戦中22勝25敗
運動能力には自信のある翔太ではあるが、ライバルが多い分負け越してしまっている
「チャイムまで残り30秒前……」
腕時計で残り時間を測っていた生徒が小声でカウントダウンに入ったことを独り言のように呟いた
その小さい呟きは小声ながらも戦いに望む戦士達の耳に届き、みないつでも走り出せるように体を廊下の方に向け始める
先生ももう慣れたのかそれとも諦めたのか、注意する事無く授業を進めている
「残り10秒前………5秒前。4、3、2、1、」
キーンコーンカーン―――
カウント通りに鳴ったチャイムの音を掻き消すかのように校内が一気に騒がしくなる
教室を見渡すと2割もの生徒が既に走り出した後であり、姿はもう見えなくなっていた
「いつもの事ながら、ほんとよくやるねぇ……」
その様子を見ていた工藤辰久は呆れながらそう口を漏らした
カレーパンを求め猟犬の如く走り出した号令係に代わり、委員長が「きりーつっ」と号令をかけ、残った生徒たちが立ち上がる
「礼っ!」という掛け声と共に授業が終わり、昼休みが始まる頃――
購買部前は人で溢れ、その人波はどんどん勝ち組と負け組に分かれていった
戦に敗れ、別のパンを買っていく人たちを尻目に翔太は意気揚々と購買を後にした
鵜宮翔太、今回の戦果
カレーパン1個、コロッケパン1個、いちご牛乳1パック