人間向けの雑誌に載った
※頭を空っぽにしてお読みください。
「好きです!」
「どうした急に」
振り返ったノエルさんへ、わたしはソファーの上で雑誌を広げて見せた。
「今月の占いに、素直な気持ちを言葉にしましょうって書いてあったので」
「可愛すぎか?」
「ノエルさんのも見てあげますね。えーと……隠し事は早めに白状したほうがいい、って書いてます」
「んだよそりゃ。隠し事なんて――」
観葉植物に水をやり終えると、隣に座って紙面を覗き込んでくる。途端に端正な顔が強張った。
「おい待て、その雑誌」
「ふむふむ、『新進気鋭のイケメンパティシエ』……結構大きく取り上げられてますね!」
「勘弁してくれよ……」
「の割に、ノリノリで写ってるじゃないですか」
今月発売の女性誌。愛しの旦那さまが載っていると聞きつけ、もちろん秒で買った。数ページ分のインタビューの中では、お店で働く風景やオフっぽい服装も撮られているし、最高! 永久保存版!
「当たってますね」
「隠してたっつーか。そもそも人間向けの雑誌なんか、このへんの書店には置いてねえはずだよな?」
「ノエルさん情報は常に収集してるので!」
「え、怖。だったらこんなの引き受けなかったのに……ああもう」
「貸して?」なんて言われたけど「ぜったい返してくれなさそうだからイヤです」と断った。案の定、恨めしそうに小さく舌打ちをされる。これは家宝にするんだい!
しかしだからといって……
「これはどういうことですかッ?!」
特集が組まれているのはいい。ご尊顔を合法的に拝めるし、何よりノエルさんの仕事へのこだわりや情熱が広く知られるのはいいことだ。が!
「こんな記事が出るなんて聞いてないですけども!」
ありがちな、記事のタイトル部分をぺしぺしと叩く。ぬぁ~にが『オトナの余裕と優しい甘さ? ノエル・ガルニールくんに恋愛観をきいてみた(はぁと)』じゃい! キシャーッ!
「悪かったよ。付き合いがそこそこあるライターで、断りきれなかったんだ」
「フンスフンス、けしからん!」
「……結局読むんじゃん」
「何か言いました?!」
「いーえぇ」
両手をあげて降参のポーズ。ヒョン、とチョコレート色のしっぽも天を指す。
いやもう、きちんとね、チェックしないと! これは番の義務ですよ義務!
『――今日はインタビューを受けてくれてありがとうございます! ノエルくんとこういうお話ができるとは思いませんでした。』
『えーと、そういうことには疎くて。自分に自信がなくて、誰かを好きになるのが怖かったんです。でも最近は、少しだけ考えが変わってきたというか。力を抜いてもいいんだなって思えることが増えました』
ぬおお、我が番を気安く呼びやがって! でもカッコいいからオッケーです!
紙面上でもやさしくてあったかい言葉が、素敵だ。素直すぎるわたしの尾は、なんだかんだで上機嫌。ぺふんぺふんとノエルさんの脇腹あたりを叩いてしまっている。
隣をチラッと見たけど、本人はわざとらしく素知らぬふり。爪の手入れなんかを始めてしまった。ちぇ、いいもん。
『――お休みの日の過ごし方は?』
『まあ、家にいるより外に出かけることが多いかもしれないです。食べ歩きとか。こう見えて僕、けっこう大食いなんですよ』
『僕』! か゛わ゛い゛い゛!
「いつもお店で、自分のことなんて呼んでます?」
「え? いやまあ、客が相手なら私、とか?」
「それ!」
「あ?」
「それだけでキュンとする女性だっているんですよ、くれぐれも自覚を持つように!」
「何の話だよ……」
どんなノエルさんもイケメン、という話をしています。
『――理想のデートは?』
『憧れるのは、ベタですけど、テーマパークでまる一日遊ぶとかですかね。体力はあるほうだと思うので、朝から晩まではしゃげると思いますよ!』
よし、今度やろう。
「遊園地が好きなんですか? 言ってくれたらよかったのに」
「いやー、うーん。そういうわけじゃねえんだけど」
おや、と内心で首を捻る。なんだか妙に、さっきから煮え切らない。
『――ズバリ! モテた?』
『いえいえ、全く』
『――恋と仕事、どっちが大事?』
『仕事ですね、今は。いつか世界的なコンクールで一番を獲って、自分の店を持つのが夢です』
『――素晴らしい夢ですね! お仕事をしていてよかったなと思うことは?』
『手間暇かけたものが誰かの幸せに繋がるなんて、こんなに恵まれたことはないですよ。きっとどんな仕事も同じでしょうし、それはひととの関わりにも共通するかなと』
なんか、なんか……!
隣で気だるそうに脚を組んでるセクシーイケメンとは、印象が全然違うんですけどォ?!
『――で、好みのタイプはカワイイ系? それとも美人系?!』
『ルックスは気にしませんよ。当たり前のことを、当たり前にできる子が好きです。あとは、そうですね……甘いものが好きだと嬉しいかな』
雑誌をテーブルに置き、天を仰ぐ。
「解釈違いッ!」
「こら、近所迷惑」
「んむむむむぎぎぎ……!」
言葉にならない思いを込めて、ぽかぽかと二の腕を叩く。やさぐれ俺様風味なノエルさんがいなくなっちゃった!
すると、ぐっと抱き寄せられて。
「安心しろって。俺が好きなのはエマだけだ」
「ヒョワッ?!」
いなくなってなかった!
甘く囁かれて即、陥落。ぐぬぬ、やっぱり好きだぁあ。
「で……、でもでもだって、キャラが違う……!」
「台本に沿ってんだからしょーがねえだろ」
「エッ、そうなんですか」
「ある程度はな。じゃなきゃ、誰がこんな恥ずかしいこと……」
モニョモニョと言葉を濁す。
「このライター。実家からこっちに出てきたばっかの頃、町で声をかけてくれた人だからさ。菓子職人として食えるようになるまでは何かと面倒見てもらったし、頭が上がらねえんだ」
それって実質スカウトでは?!
まあそりゃあ、こーんな美形を垂れ流している(?)男がいたら放っておかないわな。わたしも鼻が高いです、えへん。
「余所行きのノエルさんも堪らないんですけどどれだけの女性を虜にする気ですかゆゆしき事態ですよこれは」
「わかったから、まずは鼻血を拭け」
「むぐぐ」
そう言って、またしても顔を拭いてくれる。
「くそぅ、わたしという番がありながら……そのライターさんには一言、物申したいです。あとお礼も言いたいです」
「ブレブレじゃねえか」
一際大きなため息をついたノエルさんは、観念したように頭をかく。ふいと視線も逸らされた。
「あー……番がいることはそいつも知ってるよ。むしろ、だからこうなっちまったというか、エマの名前を教えたのが間違いだったっつーか……」
「へ?」
テーブルに広げられたままの雑誌。自らの台詞に指を置く。んん?
「なんですか?」
「頭文字」
言われ、改めて読み返してみる。え、ま、あ、い、し、……
わたしは勢いよく顔を上げた。
「好き!!」
「……知ってるよ」
顔を背けたって、焦茶色の尾は大きく揺れていた。無論わたしのしっぽも大暴れである。ンッフフ、素直な気持ちを言葉にしたほうがいいので、ね!




