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しっぽで恋して!  作者: 笛吹葉月
番外編

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28/31

年のはじまりをご一緒に

 この世界にも、誕生日にはケーキを食べる習慣がある。それにバレンタインという名前じゃないものの、真冬のとある日は『愛の日』とされて、チョコの贈り合いが発生する。

 ただ、年末年始は家族とゆっくり過ごすことを推奨されていて、クリスマスだの正月だのの概念はない。だからノエルさんは特別忙しくなるわけじゃないけど……やっぱり実家には帰っちゃうのかな?


「くりすます? なんだそれ」

「ええっと」


 日本人が唐突に、『ペペラチョモ』みたいな意味不明ワードを言われたのと同じ感覚だろう。いや、ペペラチョモというイベントが実在するならごめんなさいだけども。

 異なる世界で、宗教絡みの話は説明が難しい。しどろもどろ、身振り手振り。こんなことならもっと雑学を身につけておくんだった。


「ふうん。知らねえ奴のことを祝うの?」


 そういう言い方をされると元も子もない。釈然としない表情に、創立記念日みたいなものだと伝えれば、ようやく尾の先がぱふぱふと軽くソファーの座面を叩いた。「わかんねーけど、わかった」時のクセ。愛しの旦那さまは優しいし賢い。


 ホットチョコレートのマグカップを両手で包む。ノエルさんはいつも、わたしのにだけマシュマロをのせてくれる。心も体もあったか~い。ズモモモモ……


「エマは実家に帰る?」

「うーん、このまえ帰ったばかりだし迷ってます……ノエルさんは?」

「まあ、さすがに少し顔は見せようかと思ってるけど。兄さん達も帰省するらしいし」


 やや歯切れの悪い返事。ノエルさんは、家族は好きだけど、地元はあまり好きじゃないと前々から言っている。でもせっかくのお休みだし、家族の団らんは邪魔しちゃ悪いよねぇ。できれば一緒にいたかったけど、ここは我慢しよう。


「うんうん、親御さんもお兄さま達も喜びますよ。それならわたしも帰ろうかなぁ」

「……もし、エマが良かったらなんだけどさ。年始の休みはふたりで過ごさないか? 早めに戻ってきて」


 思わずぱちぱちと瞬いた。エスパーか?


「いいんですか?」

「俺がそうしたい」

「ンフフフ」

「んだよ」

「いえ、気が合いますね」


 カップに口をつけてニヤニヤ、埃に構わずしっぽもばふばふ。モコモコ靴下の爪先をもちょもちょと動かす。うれしい、うれしい!


「可愛い娘さんを独り占めしちゃあ、ご両親に恨まれるかな」

「お互いさまですよ」


 そっか、と笑って飲み物をすする。穏やかな目元が好きだなと改めて思う。


「さっきの、くりす……ナントカってやつ。俺達も、記念日とかつくる?」

「そういうの大事にするタイプですか?」

「あんまり気にしたことねえけど」

「んーとえーと。番になった記念日、はじめてデートした記念日……」


 試しにわたしが指を折ると、濃赤色の目がまるくなる。


「憶えてんの?」

「おぼっ……えて、ないです」

「だよなぁ」


 当然、スケジュール管理アプリもないし。しっぽも下向いてしょんぼり。


「好きな日を記念日にしようぜ。そしたら、たくさんケーキも食べられる」

「すてき! あ、でも、ノエルさんはわたしにたくさん特別な時間をくれるので、毎日が記念日になっちゃうかも?」


 呆然としたようにこちらを見たノエルさんは、やがてくすぐったそうに笑ってわたしを抱き締めた。


「採用」

「ンへヘェ」


 じゃあ、今日は『記念日ができた記念日』だ!





 行く時よりもお土産で重くなった鞄を両手で持って、足元に気を付けながら馬車からおりる。途端に風が吹き付けた。うぴーっ、寒い!

 ホリデーシーズンのソワソワした空気はどの世界でも共通らしい。何となく賑やかな町を見回したところで、ぱふっと自分の尾の先が背中を叩く。雑踏の中でもすぐわかる。しゅっとしたコートとマフラーを身につけた姿、きゃーカッコいい!


「ノエルさん!」


 ぶんぶんと手としっぽを振ると、軽く片手を上げて応えてくれる。一足先に戻っているのは聞いていたけど、実物を目にした安心感と喜びでしっぽの付け根がうずうずした。


「ただいま、ノエルさん」

「おかえり。俺もただいま」

「はい、おかえりなさい」


 外なのに、近づくと甘い香りがする。番特有だというその匂いだけでドキドキしてしまう。


「馬車は揺れた?」

「ちょっとだけ。ご家族の皆さんはお元気でしたか?」

「うん、変わりなく。どうしてエマを連れてこないんだって言われたよ。つっても、他人の実家なんて気ィ遣うよな」

「あはは」


 自然に鞄を持ってくれる。なんて紳士! フリーになってしまったので、空いているほうの手を繋ぐ。大きくて固い手が冷えていたから、少しでも温かくなったらいいなと、力を込める。


「そうそう、実家からお土産にって、果物をもらってきたんです」

「この重たいのはそれか。俺も家から酒もらってきた」

「嬉しいけど、ぽっちゃりになっちゃう……」

「どんなエマでも可愛いから」

「ひゃん!」


 新年から夫の攻撃力がすごい。初デレいただきましたァ!


「おい、ちゃんと前向かねえと転ぶ……ん?」

「あ!」


 ぴと、と鼻の頭に冷たい感触。暗い空からちろちろと、街灯に照らされて降る欠片が見える。


「降ってきましたねぇ」

「夜中のうちに積もるかもな。ま、どのみち引きこもるから関係ねえか」

「ふふっ、ですね」


 明日は二人でゴロゴロすると決めている。なーんにもしないお休み、サイコー!


「腹は減ってる?」

「もうグーグーのペコペコです!」

「ハハ、なら良かった。夕飯つくってあるんだ」

「本日のメニューは何ですかシェフ?!」

「トマトのパスタ、蕪のクリームスープ、ベーコンとポテトのマスタード炒めでございます、お嬢様?」


 紅白なんて、縁起がいいね。偶然だろうけど嬉しくなっちゃう。

 一緒にふざけて、二人で笑う。寒いけど心はポカポカで、手をしっかり繋ぎながら幸せを噛みしめる。


「ローストポークも仕込んだから、それは明日な」

「やった! じゃあお皿洗いはわたしに任せてください。それからマッサージもします!」

「移動で疲れてるだろ。気持ちだけ受け取っとくよ」

「でも」

「癒してくれるなら……帰ったらエマのことぎゅってしていい?」

「も、もちろん! いくらでもどーぞ!」


 ノエルさんの尾が、少しだけわたしの尾に触れる。ふと笑った表情がとろとろに甘くて、思わずニヘヘと笑い返す。


「今年もよろしくな」

「はい、これからもずっとよろしくお願いします!」

「うん」


 また幸せな一年の始まりだ。さあ、早くあったかいお家に帰ろう!

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