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しっぽで恋して!  作者: 笛吹葉月
番外編

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21/31

ハンバーガーを食べるだけ

本当にそれだけの話です。

たとえば怖いものを見た後の、お口直しになりますように!

「ハンバーガー食いてえな」


 ソファーで、わたしを後ろから抱きながらふと呟いたノエルさん。手足が長いので、いつも腕の中にすっぽり収まってしまう。あったかくて安心する。

 何をするでもなく、ただ座って喋っていただけの休日の昼下がり。素敵な提案に、しっぽが思わずもぞもぞ動いた。


「お坊ちゃんでもそういうの好きなんです?」

「あぁ?」


 目を細められるけど、機嫌を損ねたわけじゃない。ちょっと頭のてっぺんを顎でぐりぐりされ、いて、いててて!


「ごめんなさ、ふふっ、くすぐったい!」


 甘い匂いにドキドキ。視界の端でぱたぱたと、チョコレート色のしっぽが楽しそうだ。


「だってだって、ご実家でも食べてたんですか?!」

「いやまあ、食卓には出なかったけど」


 ほらー! きっと、おフランス料理のフルコースみたいなメニューばかりだったに違いない。これは偏見です。

 ノエルさんはばつが悪そうに茶色の頭を掻いた。


「兄さん達がこっそり買ってきてくれてたんだよ。親に内緒で、三人でよく食ってた」


 あの金ピカなネロリさんと銀ピカなバインさんが? いかにも貴族っぽい雰囲気の美男子ズだったのに、亜人は見かけによらないなぁ。


「うまいんだよな。ふかふかのパンに分厚いパティ」

「ごくり……」

「少し焦げた甘い玉ねぎと、さっぱりしたピクルス。ああ、ベーコンもいい」

「はわわ……」

「トマトとアボカドなんかも挟んで、とろけるチーズもたーっぷり」

「じゅるる……」


 ぐう、とお腹が鳴った。


「わたしのお腹もイイネって言ってます」

「さっき朝飯食ったばっかだろ」

「別腹です」

「んなことある?」

「だって」

「せめてデザートだな」


 顔を見合わせ同時に噴き出す。ノエルさんも食いしん坊だ!


「よし、決まり。作る」

「作る?!」


 てっきり、そのへんの屋台で買ってくるものだと思ってたのに。

 不服そうに、柳眉がきゅっと寄った。ハァそんな表情もカッコいいっ。


「俺の手料理じゃ不満?」

「いえむしろ食べたいですぜひ!」

「ん。そうと決まれば買い出しだ。いい具合に腹も減るだろ」

「はーい!」


 張り切ってショッピングバッグを手に取ったわたしを見て、ノエルさんは幸せそうに笑うのだった。




「まずはパンの耳に牛乳をしみこませておく。あ、先にピクルスも作っとくか」

「作れるんですか?」

「意外と簡単だぜ?」


 パン屋さんでもらった端っこをちぎり、ボウルで浸す。手際よく食材を処理していく姿は、まるで魔法使いみたいだ。


「本当はパンから焼きたかったが、時間かかるからまた今度。次は肉の準備」


 言いながら、かたまり肉を刻んでひき肉や卵と混ぜる。パンの耳も加えてこねこねと大きな手で練っていく。


「てっ手伝います!」

「お、助かる」


 市場でも、何を買うかはノエルさんが全て把握していたし。この程度できらきらの笑顔を向けてくるのは、自分で言うのもなんだけど甘すぎると思います。

 ぺたぺたと空気を抜きながら一緒にハンバーグを作る。粘土みたいで楽しいよね。ノエルさんとわたしとじゃ手のサイズが違うので、全然バラバラの大きさになっちゃったけど。「手作りならではだな」って笑ってくれるの、優しくて好き。


「あとは蒸し焼きにして……トマトも切って」

「な、何かやることありますか?」


 スパスパと生み出される真っ赤な円盤たち。

 また暇になってしまった。おろおろ、うろうろしていると、「んー」と深紅の瞳がこちらを見た。艶っぽい流し目にキュン!


「そんじゃあ、踊ってて?」


 おど……おどる?!

 一瞬、呆気にとられたけど。なんだかこのままからかわれっぱなしというのも少し悔しい。むむ、予想を裏切って全力でピエロになってやろうかしら。


「ではでは、うまく焼けるようにお祈りの舞をば!」


 大好きな旦那様がご所望とあればいくらでも!


「ふんふ~ん、今日はおいしいハンバーガ~、たまねぎにんじんピクルストマト~、残念にんじんは入ってないんだぜルンルル~ン」


 即興のヘンテコな歌を歌いながらクニャクニャと踊る。ノエルさんは声をあげて笑っていた。


「ははっ、手が離せねえのに可愛いことすんのやめてくれ。あとそれただの野菜サンドじゃねーか!」

「じゃあもっとやりますね。んんっ、それでは聞いてください、次の一曲はアイ・ラブ・マスタードの歌ッ!」


 ご機嫌な歌謡ショーはハンバーガーの完成まで続くのだ。フフン、バカップル上等!


***


 肉汁にケチャップと赤ワインを入れて煮詰めつつ、皿を持ってきてくれたエマの頭を軽く撫でる。ぱふんぱふんと振られる白い尾。これが見られるならいくらでも撫でてやるさ。


「もうすぐ完成だぞ」

「やったー!」


 まあ、あれだな。ちびっ子が親の手伝いをしたがるみたいなもんだろ。

 とはいえ、気付いたら調理器具が洗ってあったり、落ちてきた袖を捲ってくれたり。色々と気が利くので、実はこっちも助かってる。あと、うろちょろしながらくっつくタイミングを計ってるのもかわいい。


「ノエルさんて、昔からお料理は好きだったんですか?」


 俺の手元を覗きながら、またゆさゆさと尾を揺らす。さっきの珍妙な歌とダンスは何から何までクソ可愛かったから、もうちょっと続けてくれても良かったんだが。


「うまいものを食べるのが好きだから、自分で作れたほうが早いと思ったのはある」

「なら、コックさんじゃなくパティシエになったのは?」


 ……こういう時は鋭いんだよな。

 明るい碧眼が上目遣いに見つめてくる。別に他意はないのだろう、自覚もないんだろうけど。


「……俺の家、宝飾品をよく商品として扱ってて」


 やや恥ずかしいが、隠すほどのことでもない。皿に盛り付けながら言葉を続ける。


「昔からキラキラした綺麗なもんが好きだったんだ。でも、こんな尾だろ? 自分じゃ似合わねえから、せめて、作る側になりたくてさ」


 ネロリ兄さんも宝石鑑定士になったし。

 兄さん達はどっちもすげえカッコよくて優秀で、近所のしっぽ族の間では有名人だった。二人が盾になってくれてなかったら、俺はもっと生き辛かっただろう。


「ま、今じゃ他種族相手に顔で売ってる始末だけどな」


 毒にも薬にもならない話をほどほどのところで締めくくる。

 すると、それまで黙って聞いていたエマが、後ろからぎゅうと抱きついてきた。前に回ったしっぽが、そわそわと太もものあたりに触れる。


「似合いますよ」


 すり、と額を背中に擦って。


「ノエルさんはキラキラしてカッコいいです。都会っぽくてオシャレさんで、それに、いつもお仕事がんばってるすごいひとなので」

「もう気にしてねえから。でも、ありがとな」


 半生をかけて刷り込まれたコンプレックスは根深いが。自分を卑下しすぎるのは番にも失礼だと、こないだ兄さん達に叱られたばかりなのを思い出す。


「さて! 食おうぜ」


 気を取り直し、二人分の皿を食卓へ運ぶ。歓声をあげて素早く着席したエマは、目の前にそびえる具だくさんのハンバーガーに少したじろいだ。


「これ、えと、どこから食べたら……?!」


 あわあわと左右から覗き込む姿も愛おしかったが、せっかくの出来立てだ。俺も腹減ったし。


「上品に食うもんでもねえだろ」


 んあ、と大口を開けてお先に一口。うん、我ながらなかなか旨い。

 エマは覚悟を決めた表情で巨大ハンバーガーを掴むと、同じように思い切りかぶりつく。かわいい、ほんとうにかわいい。めいっぱいに頬張って、途端に笑顔になるこの瞬間が、まじで大好きだ。


「んんんっ、おいひいー!」

「はは、口の周りがえらいことになってる」

「へへ、ベタベタですね。おそろいだぁ」


 こいつの笑顔が見られるなら命だって懸けられると思う、冗談抜きで。ああ、次は何を作ってやろうかな。

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