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しっぽで恋して!  作者: 笛吹葉月
番外編

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18/31

ノエルさんちで宅飲み

「ノ、エ、ル、さーーん!」


 持ってきた荷物を即、床に置いて、出迎えてくれた長身に思いっきり抱きつく。家主さまは部屋着でも色っぽくて見目麗しい。細マッチョ長身男子はいいゾ。


「おう、仕事お疲れさん」

「えへへへ、お邪魔します!」

「浮かれてんなぁ」


 ぶんぶんしっぽを振る。ノエルさんのしっぽも遠慮なくゆさゆさと揺れていて、外では見られないその様子が嬉しい。


「いい匂いがするのでっ」

「はは、くっついてたら飯までたどり着かねーぞ?」

「ノエルさんが離してくれないんですよ」

「うーん、エマが離したら離す」

「も~」


 両手と尾を使って、玄関口でぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。ずっと好き!

 こんな調子ではとても出勤できると思えないので、しばらくは一緒に暮らすことなく、たまの逢瀬を満喫しているというわけだ。


 名残惜しみながら離れると、先ほど置いた手提げの中を覗き込まれる。オオオ、軽率に鎖骨を見せるのはお止めになって?!


「なに持ってきたんだ?」

「じゃがいもです! ナナちゃんとモモちゃんの実家から届いたらしくって。大量にあるのでもらってきました」

「重かっただろ、ありがとな。ついでだし、そいつでなんか作るか」

「やった!」


 いそいそとわたしも部屋着に着替えている間に、早速ノエルさんはじゃがいもを茹で始めていた。キッチンに立つ姿はいつ見てもカッコよくて、思わずにやけちゃう。

 テーブルには既に、でかいタルトのようなものと、空のワイングラスが二つ並んでいる。


「タルトがある!」

「キッシュな」

「キッシュがある! 作ったんですか?」

「そう難しくはねえよ。具材も余り物だし」

「ヒョワー!」


 一人暮らし期間がそこそこあるからか、お坊ちゃんなのに家事はなんでもできるし、もちろん料理に関しては一生勝てる気がしない。

 でも、たまーにわたしがヘンテコな手料理を振る舞っても、おいしいって残さず食べてくれるんだよね。優しい。好き。


「わたし、何にもお役に立てないですねえ」


 しょも、と毛先が床に着いた。かなしいね、しっぽちゃん……。


「変なこと気にしてんじゃねーよ。傍にいてくれりゃそれでいいんだから」


 さらっと投げられた言葉が男前すぎる。

 ずるずると尾を引き摺ってキッチンへ向かう。フライパンでキノコを炒めていたノエルさんが、こちらを見下ろしフッと笑った。嗚呼、まぶしい。


「エマはかわいいのが仕事な」

「わ、がっ、がんばります……!」


 どうすればいいかはわかんないけど!


「じゃあ、働きたいエマさん? これをあっちに運んでくれ」

「アイアイサー!」


 名前のわからないオシャレな葉っぱにキノコのソテーをのせた、これはサラダかな? つまみ食いの誘惑に耐えながら食卓に運ぶ。うむ、働かざるもの食うべからず!


「ノエルさんノエルさん」

「んー?」

「くっついてもいいですか」

「あー、ちょっと待てよ……はい、どーぞ」

「失礼しまーす」


 腰に腕をわしっと回す。チョコレート色のしっぽがぱふぱふと悪戯してくるのがくすぐったい。

 前、包丁を使ってる時にくっついたら普通に怒られたので、以降はちゃんと許可をとるようにしています。


「いい塩漬け肉をマダムからもらってさ。まずはシンプルに焼いて食ってみよう」

「素敵ですね!」


 香ばしい匂いに胃液も唾液もじゅるるるる。


「で、この芋は……」


 いつの間にか半分に切ったお芋の、中身をどんどんくり抜いていく。皮部分をボート型に。


「余った中身はポテトサラダにしてパンに挟んでもいいし、塩味のクッキーを焼いてもいい」

「どっちもおいしそう!」

「そしたら、この皮の器に、昨日のミートソースの残り、キッシュ作った時に余ったチーズ、適当にバジルをちぎって……焼く!」


 アッアッ、これはピザ味だ! 絶対においしいやつー!


***


「じゃ、乾杯」

「かんぱーい!」


 エマは始終ニコニコしながら料理を頬張っている。はー、かわいい。何でも食わせてやりたい。むくむくに太らせて傍に転がしておきたい。

 ……んん、想像したらちょっと面白いな。


 開栓したワインは、このまえ一緒に市場で買ったもの。「オシャレなお酒が飲みたい!」とか言うもんだから、なるべくこいつの口に合うよう、甘口の飲みやすいものを選んだつもりだが。


「味見からにしろって」

「甘いれすねぇへへ」


 はあ、言わんこっちゃねえ。

 くぴくぴと飲み進めるにつれ、顔は赤くなるし、普段にも増してぽやぽやし始めるしで、そりゃもうわかりやすく酔っている。


「甘い酒ってのは危ないんだよ。ほら、水飲め」


 大して強い酒ではないから、酔い潰れはしないだろうけど。ふわふわした様子でくっつかれるのは、正直、だいぶ心臓に悪い。


「あまーいのえるさんがあぶないのとおんなじだぁ」

「エマにとって俺は甘いの?」

「あまいれすよぉ!」


 首筋に顔を押し付け、くんくんと嗅いでくる。あーやばい、抱きてえ。


「甘い匂いか、なんだろうな。香水?」

「からめり? からめらら?」

「カラメリゼ?」

「……にいるときもあまいれす!」

「そりゃ菓子の匂いだろ」

「んう」


 俺にとってもエマのにおいは『甘い』。料理中にトタトタと駆けてきたかと思うと「じゅうでん」とか言って、抱きついてはまたトタトタ去っていく度、しっぽが疼いて堪らない。

 当然、店で香水なんかつけちゃいない。たぶん番だからだろうとは思うが、面白いのでからかってるだけだ。


「のえるさんのおかしたべたから、わたしもあまくなってるかも」

「そんなかわいいこと言ってると食っちまうぞ?」

「へへ、めしあがれー?」


 ――こいつの煽り癖、なんとかなんねえかな?

 いやまあ、すぐ乗せられる俺も俺なんだけど。世界でいちばん可愛い番が無防備にしっぽを絡めてきたら、当然オスとして止まれないわけで。


「ん、ふっ……ちゅ、んん」


 堪えきれずに唇に噛みつく。甘ぇ。

 小さな体を膝に抱き上げて、鼻先やまぶたにも優しく口づけを落とす。エマも、じゃれつくみたいに俺の頬や首筋に熱い唇を押しつけてきて、




「……すぴーーーー」


寝た。


「………………まじかよ」


 とりあえず一度、天井を仰ぐ。大してありもしないシミの数をかぞえた。


「……ふう」


 首にもたれかかったままの位置を少しずらして、膝枕の格好にさせる。こうすればしっぽで包めるから、毛布がなくても冷えないだろう。


 ミルクティー色の髪に指を通してみたり、頬をつついてみたりするが、まったく起きる気配がない。

 気持ち良さそうに寝息をたてる顔を見たら、文句なんか何も言えなくなる。安心しきった顔しやがって。時々モニョモニョと口が動くのは、夢の中でも何か食ってんのか?


「可愛いな、ほんと」


 脚が痺れるまでしばらくこうしてるか。

 まるまった背中を撫でながら思わず笑みがこぼれた。このまま飲む酒も、悪くねえかな。


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