表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しっぽで恋して!  作者: 笛吹葉月
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

娘さんと幸せになります

 どんな田舎から出てきたのかと思ってたが、こいつの実家は意外と、馬車で半日もかからない辺りにあるらしい。

 持っている中で最も仕立ての良いジャケットを身につけ、手土産を携えて。しっぽだけはどうしようもないが、今さら隠したところでな。


「緊張、してますよね? やっぱり」


 隣で揺られるエマは俺よりもそわそわしている。


「そりゃあな。大事なお嬢さんを誑かした悪い男なんだから」


 ぽんぽんと膝を叩けば、黙って乗っかってきてくっついてくれる。はー可愛い。なんで乗合馬車にしなかったかって、このために決まってる。


「すんすんすん」

「なに嗅いでんの?」

「悪い男を補給してます」


 ぱふんぱふんと揺れているしっぽ。キスしたらさすがに怒られるか。


「なあエマ。番ってのは互いに認めたならそれでいいんだ。家族がゆるすゆるさないの話じゃねえんだけど」


 極論、周りが反対しようが替えがきくものでもない。かといって駆け落ちのような真似をするのは、きっと大事にこいつを育てただろうご両親に申し訳ないと思う。

 恐らく歓迎はされないだろうが……まあ、俺が我慢すればいいだけの話だ。


「つまんねえプライドに付き合わせて悪いな」

「そうなんですか? ええと」

「エマが俺でいいなら問題ないってこと」

「ノエルさんが、いいです」


 腕としっぽと、全身で抱きついてくる。


「他の人じゃ絶対、ぜーったいに。やです」

「ん。ありがとな」


 シワになっちゃいますね、と名残惜しそうに離れる。別にそのままでも良かったんだけど。


「最近はお仕事忙しそうでしたね」

「ああ、新しいケーキを考えてて」

「えっ! 食べたい……」

「言うと思った。つまりこの手土産は?」

「ほんとですか?! やったー!」


 やっと完成した、あのチョコレートケーキ以上の自信作。

 けど、慣れないことをしたせいで今回ばかりは少し不安だ。果たして喜んでもらえるだろうか?




 のどかな田園風景の中を進んでいくと、赤い屋根の家が見えてきた。見事な花壇は家族の誰かの趣味だろう。


「お父さん、お母さん、ただいまっ!」


 出迎えてくれたご両親はどちらも背が低く、父親の大きな尾は薄いグレー、母親の側はほんのりピンクがかっている。俺もそうだが、この二人からあの純白が生まれるってのは、なかなか不思議なもんだよな。


「はじめまして。ノエル・ガルニールです。本日はお時間をいただきありがとうございます」


 信じがたいものを見る眼差しで俺の尾を凝視していた二人は、やっと視線を上に動かした。目が合い、あからさまに狼狽える。エマの演技下手は血筋か。


「あー、エマ? おまえの、あー、えー、お相手の方というのは」

「この人だよ! すっごく素敵でしょ?」

「……」


 うん、気持ちはわかる。かわいい一人娘、しかも奇跡みたいに綺麗な尾を持つ美人が、こんなに濃い色をした尾の雄を連れてきちゃあな。

 母親はまだしも、父親のほうは今にも卒倒しかねない青ざめっぷりだ。


「と――とりあえず。せっかく来てくれたんだ、中へ入りなさい」

「はい、お邪魔します」


 にっこり。ま、この程度は慣れている。


 リビングに通され、向かい合ってソファーに座る。幼い頃のエマが作ったものか、幼児が工作したような木工品が棚に飾られていた。

 番を連れてくると聞いて、彼らだってものすごく楽しみにしていたはずだ。期待を裏切ったことは申し訳ないとは思うが、あいにくと俺も、落ち込むような可愛らしい精神性は持ち合わせていない。

 未だに父親は俺の尾が気になるらしく固まったまま。そちらは見ないフリをして、せっかく紅茶を出していただいたのでありがたく口をつける。ん、うまいな。


「エマちゃん。この人が、手紙の?」

「そうなのお母さん!」

「手紙?」


 母親がおもむろにバインダーを持ってくる。エマはご機嫌にしっぽを振り散らかしながら、「じゃじゃーん!」と中身を広げた。


「この子ったら、とても素敵なひとと恋人になれたーって。お手紙と一緒に、あなたが載った雑誌の切り抜きを送ってくれてたのよ」


 うっわぁ、これは……結構ハズい。

 店の宣伝になればと何度か取材を受けたことはあるが、こう、目の前で見られると余計にめちゃくちゃ恥ずかしい。

 けど……しっぽが写ってる記事もあるのに。ちゃんと取っておいてもらえたんだな。


「どんだけ集めたんだよ……」

「カラメリゼさんにお願いして、バックナンバーも取り寄せました。あっ、手紙のほうは見せませんよ? 照れくさいので!」

「へえ?」


 もじもじしつつも、ぴとりと体をくっつけてくる。撫でたいが我慢だぞ俺。


「…………エマ」


 ようやく重苦しい口を開く、エマの父親。グレーの立派な尾も、さっきから微動だにしていなかった。


「お父さんもお母さんも、何があってもおまえの味方だからな。正直に言いなさい」

「うん! ……うん?」

「脅されているんだろう?」

「ちっ、ちがうよ?!」

「やっぱり騙されたのか?」

「ちがうって!」

「胃袋をつかまれた?」

「ちが……ちょっとあるけど!」


 あるのかよ。


「ほ、ほんとにちょっとだけね! 素敵なところは他にもたっくさんあるもん。……あ、そうだノエルさん、せっかく持ってきたアレは?!」


 そうだよな、覚悟なんかとっくにできてるんだ。目線だけで頷くと、エマの表情がもっと明るくなった。

 立ち上がって手土産の袋から真っ白な箱を取り出し、ローテーブルの横へと跪く。


「最初にお渡しすべきでしたが……どうしてもこの手でお出ししたく、失礼をお許しください」

「あ、ああ。わざわざ気を遣ってもらって」

「エマさんからお話しされていたようですが、私はパティシエをしております。よろしければ」


 三者三様の視線を感じながら――濃いピンク色の、まるいムースケーキを取り出す。よかった、崩れてない。

 艶のあるグラサージュをかけた上には、クリームと食用花、それからイチゴを。タルト生地の土台にはホワイトチョコのガナッシュを敷いて、ラズベリームースの中にも酸味をきかせたジャムが入ってる。


「まあ! きれいねえ」

「う、うむ。確かに」

「へへん、ノエルさんがつくったんだからね!」


 甘酸っぱくてキラキラしてて、どこから見ても愛らしく、あるだけで楽しい気持ちになるような、そんなケーキ。


「このケーキの名前は『エマ』といいます」


 勢いよく振り返ったのは本人だ。碧眼をこぼれそうなほど見開いてる。ま、言ってなかったからな。


「私がこれまでの全てをかけて、彼女のために作ったケーキです。エマさんと、ご家族の皆さんにいちばんに食べていただきたくて」


 誰も、何も言わなかった。ただフォークでムースを掬って口に運ぶ。


「のえっ、う、さん」


 エマは……ぽろぽろと泣いていた。泣きながら、幸せそうに笑ってくれていた。


「おいひい……」

「よかった」

「せ、世界でいちばんっ、おいしい!」

「うん。ありがとう」


 ご両親も黙々と一口、二口。が、やがて手を止め、カチャリとフォークを置く音。


「ねえ、あなた。とても丁寧なお仕事ね」

「……そうだな」

「こんなにこの子の尾が動いてるのを見るのは初めてだわ」

「……」


 エマのお父さんは静かに息を吐いた。俺も、膝をついたまま向き直る。


「ノエルさん。先ほどは失礼な態度をとってしまい、すまなかった」

「いえ、不安に思われることは承知しています」

「はは、別に胃袋をつかまれたからというわけではないさ。我々の尾は嘘をつけないんだよ。君もわかっているだろう?」


 初めて笑顔を向けられて、実のところ、心底ほっとした。いいご両親だな。エマがまっすぐ育ったのも頷ける。


「苦労をかけると思うが、娘のことをどうかよろしく頼む」

「はい。一生、大切にします」


 途端に小さな体が飛びついてきて、思わず苦笑が漏れる。しっぽ以外なら人前で触ってもいいってことじゃ、ねえんだけどな。


「こらっ、あまりご迷惑をおかけするんじゃない――」

「だって嬉しいんだもん!」

「あらあら。エマちゃんは本当にノエルさんのことが好きなのね」


 世界一かわいい女は、俺に抱きついたまま満面の笑みを見せる。


「うん! お父さんとお母さんと同じくらい大好きで、とーっても大事なひとだよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ