きゅ、急展開すぎてついていけません!
荒い息をするノエルさん。頬が紅潮してるし目が潤んでるしで、なな、なんかものすごくエロいんですけどー?!
まさかわたし、酔い潰れた?! うわああ穴があったら埋めてくれ!
「あの、こ、ここ、ここって?!」
「俺の部屋」
「オゥフ」
飲みにいって、気付いたら彼の部屋。
「ひょっとしてお持ち帰――」
「心外だな。手は出してねえよ」
「ほ」
「まだ、な?」
「わぁお」
うーんと……女の人がノエルさんに声をかけてきて。無性に嫌だなって思って……そこから記憶が曖昧だ。うーんうーん?
「たぶんですけど、ご迷惑をおかけした……んですよね?」
「あー。いーよ、気にすんな」
わしわしと頭を撫でられる。手は優しいのに、思いっきりしかめ面だ。んんん?
「水、飲んできていい?」
「あ、はい」
あら、カウンターキッチン。広いお部屋だ。
インテリアはモノトーンで統一されてて、イメージぴったりのオシャレな空間。物の少なさは男の人っぽいけど、ランプの灯りが暖色で落ち着く。こだわりを感じるなぁ。
当たり前のようにわたしにもコップを渡してくれる。なぜかすごく喉が渇いてたので嬉しい。
「そういえば……さっきの女のひと、美人さんでしたね」
「あん?」
ソファーに戻ってきたノエルさんは、どっかりと背もたれに体を預けて長い脚を組んだ。かっこよ。意味わからん。
「エマのほうが可愛いだろ」
「えぁ……」
うれしいけど、少しは照れてくれないと不公平だと思います!
「はー焦った。人前で急にしっぽを触るもんだから」
ん?
首を傾げたら、でっかいため息が返ってくる。
「……あのな? まさかと思うが、知らなさそうだからいちおう教えておくぞ」
「はい」
「しっぽ族の尾は、あー、ハッキリ言うと、いわゆる性感帯のひとつだ」
「せいかんたい」
走馬灯のように両親の言動が脳内を駆けめぐった。苦笑されていたモフモフの自給自足、公園で見かけたカップル――
「え」
気絶しろわたし。即刻!!
「だだだって! しっぽを相手の体に巻きつけるとか! それってすっごくハレンチってことじゃないですかッ?!」
「外であれだけ抱きついておいてよく言うぜ」
「はわわわわん」
ショックであわわわ泡吹いて倒れる! 熱すぎて今なら顔面で目玉焼き作れる! ビックリ人間フェスティバルだフゥー!
「わたたた、わたし、めっちゃ痴女ですね?!」
「ぶはっ」
ノエルさんはとうとう噴き出した。
「アッハハハ!」
「ううう、笑い事じゃ」
「別に、亜人にとっちゃそこまで恥ずかしいことでもねえよ。人間の基準なら、そうだな……耳を甘噛みするみたいな?」
「痴女ですねぇえ?!」
ケラケラと腹を抱えて笑われる。く、くそぅ!
そうか、ノエルさんもアンティークショップでは色々とおさわり(?)してきたけど、ナナちゃんとモモちゃんしか見てなかったから?! ていうかあの二人のしっぽを絡める仕草ってぇ?!
「ぐすん、もうあのカフェいけない……」
しかし、めそめそしている暇はなかった。
「そういう訳で、だ」
チョコレート色の尾に引き寄せられる。がっしりとホールドされ、勢いでノエルさんの膝の上にのる形に。
「俺もかなり、我慢してたんだけど?」
「ヒエッ」
「これだけのことしといて、やっぱ無し、なんて言わねえよなぁ?」
肉食獣じみた、凄みのある笑顔が恐ろしい。こいつはまあまあキレてらっしゃると見た!
「あの、ノエルさ」
「エマ。俺と番になるのは嫌なのか?」
ひゅっと息を呑む。つがい。これ以上沸騰したら頭がはち切れ、いやその前に心臓が爆発四散する。ドッドッドッと大きく鼓動しててずっと痛い。
「いっ嫌なわけ、ないじゃないですか」
「しっぽ、動かねえから」
「へ?」
「まさかそれも……?」
はああ、とため息。怒る気力も失せちゃったみたいだ。
「いいか? 俺達が尾で抱くのは特別な相手だけ。だから、相手が同じように尾を体にまわしてくれたんなら、それがオッケーの合図になる」
ええと?
今、ノエルさんのしっぽがわたしの腰に巻きついていて。ということは、ということは……?!
「初耳です……」
「だろうな。もう諦めたわ」
なんで誰も教えてくれなかったの?! と思ったけど、本能って、他人に教わるようなものではないのかもしれない?
「えと、それで言うとですね」
「うん」
「わたし、いつもノエルさんのこと、しっぽでぎゅってしたいなーとか思ってたんですが」
「……うん」
「このまえ怪我させちゃいそうになりましたし……それに、ノエルさんのしっぽにわたしのしっぽが触れると、痺れるような、変な感じがあって」
「……」
「いっ嫌じゃないんですけど! こんなこと、今までになかったから……っ」
地元でうんともすんとも言わなかったわたしのしっぽは、いつもノエルさんに対してだけ反応した。有尾族って、しっぽで恋をするのかな?
「してくれよ、ぎゅって」
わたしの頭を抱えるように優しく撫でてくれる。
「いいんです、か?」
「でなきゃこんなことしない」
恐る恐る……尾を絡めた。すり、と大きな手で優しく擦られる。
「たまんねえ、ずっと触ってたい」
「ひゃうっ……!」
ぞくぞくして、ドキドキが強くなって、訳がわからないくらい幸せな気持ちがどんどん湧いてくる。ノエルさんの顔も真っ赤だ。
「は、あ……っ。ほんと、やば……」
そんな色っぽい声を出されたらもっと意識しちゃうんですけどォ?!
「番でもねえのに部屋に連れ込んで、さ。嫌われたらどうしようって思ってた」
「嫌うなんてあり得ないです。先に好きになったのはわたしですよ?」
「そうか?」
「絶対そうです!」
ふっと笑ったノエルさんが額にキスを落としてくれた。すりすりと触れ合うしっぽから甘い痺れが伝わってくる。もうしっぽだけでなく両腕でもすっぽり体を包まれていて、わたしもそれに応える。
「今日、帰さなくていいか? ……いいよな?」
答える前に、唇を塞がれてしまったけど。
――目が覚めて、まず、見慣れない天井と向かい合った。ベッドの中だ? シーツからは知らない匂い。
「よう。お目覚めか?」
「んぁ……のえるさん……?」
部屋の入口で笑う姿がある。あーそうだ、昨日はノエルさんのおうちに泊まったんだっけ。
むにゃむにゃと目を擦りながら体を起こし――
「うわあーッ?!」
「んだよ」
「はだかですよ!!」
「見りゃわかる」
毛布をかき寄せ、大慌てで胸元を隠す。うおお腰いってぇー?!
ちょっとだけ恨めしい気持ちを込めて睨む。思い出したぞ! このお兄さん、妙に手慣れてたし大きかった! ナニがとは言わないけど!
「起きれるか? 朝飯できてるぞ」
「え!」
「え、ってなんだ。作るだろ飯ぐらい」
家事もできるの? まじでなんなんだ、このウルトラスーパー爆裂イケメン。
「ほあ……!」
食欲に屈して起きていくと、ホテルのモーニングか?って光景が広がっていた。籠に盛られたパン、見ただけでおいしいとわかるオムレツ、新鮮なサラダ、それに、ミルクとオレンジジュース。
エプロンを外したノエルさんが、また楽しそうに笑う。
「はは、ワンピースみたいだな」
「おっきいんですもん」
とりあえずでシャツをお借りしたものの、体格が違いすぎる。
裾を気にしていたら、頭上から名前を呼ばれたので顔をあげた。
「んっ……」
「ん……おはよ、エマ」
「おはようの、ちゅーですか?」
モフモフのしっぽにくるりと包まれる。あったかい、いいにおい。
「そんな顔されると、昨日の続きをしたくなる」
「ご……ごはんが冷めちゃいますけど!」
「それもそうか。もう番になったんだ、焦ることもねえよな」
イケメンこわい。ひとまず腰の危機は脱したらしい。
でも、わたしはきちんと理解していなかったのだ。亜人にとって番になるという事実が、どれだけガチなのかということを。
「で、」
付き合えちゃったのかぁ、と浮かれてモシャモシャと手作りパンを頬張るわたしに、ノエルさんは蕩けるような微笑みを向けてきた。
「結婚の挨拶はいつ行く?」
「え? けっこ……って、結婚ンンーッ?!」
展開、早すぎやしませんか?!