ポーション販売
アンリ王子は半年後にはレベル10からレベル30まで到達した。
ゴールドがポーション販売を始めた時、アンリの元に王宮から武官、文官、メイド、侍女、庭師、コックなど50名がやってきた。
この時点でアンリは誰よりも強くなっていた。
特にポーションの威力は凄まじく初めて体験したナウマンは絶句した。
一度だけアンリと模擬戦をしたのだ。
ゴールドがアンリ王子は貴方より強くなったと言ったからだ。
刃が無い鉄剣で戦った。
ナウマンのレベルは32だ。
ローム王国では10本の指に数えられる強者だ。
ナウマンはアンリの実力も知っている。
レベルの概念はまだ無かったが、自分の半分以下の実力だとは知っていたのだ。
先ず剣を構えて驚いた。
そこには自分とほぼ同じつわものがいた。
ナウマンは2度剣を上からと横に振るった。
アンリはその剣を受けた。
キンキンと音がした。
そしてアンリは麻痺ポーションをナウマンに降り掛けた。
ナウマンは何をされたのか分らなかった。
意識はあるのだが、身体が痺れて動けなかったのだ。
アンリはナウマンの咽喉に剣をつけた。
そして状態異常回復ポーションをナウマンに降り掛けた。
ナウマンは起き上がった。
「ナウマン様、今のが神のポーションです。ヒドラでも一降りで貴方と同じ状態になります。」
「ヒドラがですか?」
「はい、そうです。これがその時倒したヒドラです。」
アンリはゴールドから貰った異空間収納袋から3首ヒドラを出した。
ナウマンは後ろに尻餅をついた。
目の前にヒドラが現われたのだ。
3首ヒドラは1対1なら確実にやられてしまう魔物なのだ。
ナウマンでも例外ではない。
それが目の前に出されたのだ。
そして何もない空間から出されたのにも驚いた。
「いま、どこから出されたのですか?」
質問してナウマンは可笑しくなった。
実際3首ヒドラは体長4mもあるのだ。
何処からか出せる大きさの魔物ではない。
「この袋は勇者さまから頂いた袋なのです。」
「勇者さまから?」
「はい、この袋は物を入れていても腐らない袋だそうです。これで馬車5台分の物が入れられます。」
「そんな袋、聞いた事もありません。」
「この袋には神の二つ目の贈り物、魔法が使われているそうです。」
「魔法ですか。」
「はい、では次魔法をお見せいたしますね。」
「アンリさま。」
「はい、何でしょうか。」
「魔法とは勇者さまが王都で使われたピカピカ光る魔法でしょうか?」
「いえ、あれとは違います。私が教えていただいた魔法は風の魔法です。では、剣を構えてください。」
アンリは左手1本で剣を構え右手で風魔法Lv2ウインドカッターをナウマンに向けて放った。
ナウマンには何も見えなかった。
風魔法は魔法使いでないと見えない魔法なのだ。
それでもナウマンは身体を捻ってウインドカッターを避けて見せた。
流石である。
しかしアンリのウインドカッターは一旦ナウマンの後ろに飛んでグルッと回って後ろからナウマンを襲った。
ナウマンの腕を1cmぐらい切り裂いた。
アンリはヒールポーションをナウマンの傷に振りかけた。
傷は徐々に塞がり出し30分ぐらいで完全に治った。
ナウマンは騎士だけに、この薬の凄さに気付いた。
これさえあれば、永遠に戦い続ける事が可能だ。
またアンリ王子の魔法にも驚かされた。
あの魔法を使われたら、一般の兵士など何人いても倒されるだろう。
見えないのだ。
アンリは先ず錬金工房の部屋を作り、ゴールドから教わったヒールポーション、スタミナポーション、癒しのポーション、呪い解除のポーション、状態異常解除ポーションの作成に取り掛かった。
ゴールドは、この頃ポーション販売の為、ローム王都を尋ねていた。
そしてアデリナ姫とカルメンの会話に続くのだ。
「あの勇者ですか?」
「そう、あの勇者です。」
あの勇者とはゴールド、湯川博士の事である。
ゴールド、湯川博士は日系アメリカ人で32歳で天才と言われたAI研究の第1人者だった。
地球歴2222年2月22日午前2時22分22秒に仕事のしすぎで死亡した。
その時、ユグドラシルの神、ムーン シルバーからユグドラシルに転生か?
それともこのまま時の輪廻の中に入って死んでいくか?の提案を受けた。
ゴールドは、この提案を受け、死んだ時の記憶と神が作った体をもらって1年前に惑星ユグドラシルに転生したのだった。
アデリナ姫はカルメンに先ず癒しのポーションとヒールポーションを一緒に飲ませるように言った。
そして熱が下がったらスタミナポーションを飲ませるようにと言ってポーションを渡した。
カルメンは神様のお導きと信じアデリナ姫の言葉に従って、さっそく家に帰り息子マッケンジー、ジョーダン3歳にポーションを飲ませた。
いままで高熱にうなされ、息もあらくしていた息子がポーションを飲んだ瞬間に息が安らかになり、熱も下がった。
飲んだ瞬間にだ。
カルメンは神に感謝した。
「神様、ありがとうございます。」
この話はまたたくまにローム王国に広まって行った。
一年前のロームの奇跡の再現とされ、誰もがポーションを求めた。
アデリナ姫は勇者のメモ書きを見た。
危険な魚だがとっても美味しい魚が取れる。
護衛の騎士に漁師を連れてくるように言った。
そこにいた青年が手を上げた。
「オラァ漁師だ。」
フェン、ラッセル25歳、赤髪のラッセルと呼ばれている真っ赤な髪の青年だ。
アデリナ姫は勇者のメモを見せた。
青年は少し考えてナムネス、イールと呼ばれている麻痺毒を持つうなぎだと思った。
ナムネス、イールは比較的浅い川にいてたまに捕獲されるうなぎだ。
しかし、強力な麻痺毒を持ち、川に入ってくる牛や羊、人を麻痺させ喰らう獰猛なうなぎだ。
魔物も喰らい尽くす。
いままでは誰も捕獲しようとは思わなかった。
命あってのものだねである。
たまに罠にかかり弱っている所を捕獲された。
体長1m、ヌメヌメの体液の中に麻痺毒をもっている。
しかし肝が強力な精力剤になり、身が非常に美味い。
蒲焼にすると高級魚になり高値で取引されている。
フェンは状態異常回復ポーションを一本もらい家に帰った。
妻のシーレ、ラッセル22歳に事情を話し協力してくれと頼んだ。
シーレはナムネス、イールを捕獲しにいくと聞いて猛烈に反対した。
死ににいくようなものだ。
フェンはシーレを説得した。
あの勇者のポーションを頂いたのだと話した。
シーレはポーションを見せてもらった。
フェンはアデリナ姫から聞いたポーションの効果を説明した。
飲んでいれば1日、状態異常にならない。
最初一匹でいいから試させてくれ。
夫の真剣な頼みにシーレは折れた。
明日一緒に川に行く事にした。
翌日は朝日が出て良い天気だった。
フェンとシーレは川の上流にやって来た。
先ず肉の餌をつけた大きな釣り針を川に投げ入れた。
イールは川の岩の流れが淀んだ窪んだ地形にいる。
普通は避けて通る場所だ。
投げ入れて30分、ロープに当りがあった。
フェンは状態異常解除ポーションを飲んだ。
そしてロープを引っ張りあげ出した。
手ごたえ十分である。
大きさ80cmぐらいのイールが掛かっていた。
川淵まで降りてロープを引っ張った。
イールの尻尾がフェンに当たった。
普通、これで痺れて動けなくなるはずだ。
しかしどうもない。
近くまで引き寄せ、銛で頭を突き刺した。
そして空のエール中樽に入れた。
ここまで2時間だ。
後一匹捕獲する時間は有りそうだ。
30m先の淀みに釣り針を投げ入れた。今度は直ぐに当りがあった。
引っ張ると前回より重い。
大物だ。格闘すること30分、やっとの事で仕留めた。
体長1m50cmの大物だった。
今まで誰も取らないのだ。大物がいても不思議ではない。
フェンとシーラは手押し車を押して、いつも魚を卸している漁師組合に持ってきた。
買取職員、ノース、トラーネ28歳にイールを見せた。
ノースは2匹のイールを見てびっくり。
一ヶ月ぶりのイールだ。それも2匹。
直ぐ、組合長のコッホ、カウスマン37歳に連絡した。
コッホも2匹のイールを見てびっくりだ。
80cmが中銀貨1枚1000ロム、1m50cmは肝が高値で売れるので大銀貨1枚5000ロムでの買い取りになった。
中銀貨1枚1000ロムは一般家庭の1人分の生活費の10日分だ。
フェンとシーレ二人なら5日分の生活費になる。
大きいイールが5000ロムだ。
今回だけで2人の生活費30日分だ。
今まではフェンの稼ぎは一回の漁で3日分ぐらいだった。
それも晴れた日だけしか漁は出来なかった。
雨が降れば川が暴れ出すのだ。
フェンの家ではフェンが取ってきた魚がいつものおかずで残りをここ組合で買い取ってもらっていたのだ。
フェンとシーレは家に帰って来た。
シーレほくほくである。
フェンは言った。「後ポーションは4本残っているとアデリナ姫が言っていた事。効能期限は3ヶ月、一本銀貨7枚だ。今からポーションを買いに行っていいか?」
シーレは今貰った大銀貨1枚をフェンに渡した。
フェンは修道院に急いだ。今日もアデリナ姫はおられた。
フェンは先ずお祈りをした。
そしてアデリナ姫の下に行き、「状態異常解除ポーションを買いたい」と言った。
アデリナ姫はにこっと笑って1本ポーションを差し出した。
フェンは「残り全部買いたい」と言った。
アデリナ姫は不思議な顔をした。
銀貨28枚は一般の家庭では大金だ。
アデリナ姫は王族だが修道院に長くいるのでお金の価値は大体分かるのである。
それで「4本ありますが銀貨28枚ですよ」と言った。
フェンは大銀貨1枚を差し出した。
これにはアデリナ姫びっくりである。
それでフェンは「イールを捕まえて高値で売れました」と言った。
アデリナ姫は勇者のメモ書きを思い出した。
危険な魚だがとっても美味しい魚が取れるだ。
納得して護衛の騎士を呼んで、お釣りの銀貨22枚と残り4本のポーションをフェンに渡した。
フェンは姫にお礼を言って次回のポーションの入荷を尋ねた。
この分だと明日には全て売れてしまうだろう。
「次回は一週間後だ」と姫は言われた。
フェンは「ありがとうございます」と礼を言って帰って行った。
フェンの家族は妻のシーレと長女カレリン5歳と長男アルゲッタ3歳の4人家族だ。
急にお金が入ってきたがシーレは贅沢をしなかった。
いままで食べる事だけは出来ていたのだ。
今のこの状態が長く続くとは思われなかった。
それで生活はそのまま、漁に励んだ。
今までだれも取れなかったイールなのだ。
貴族はもちろんお金持ちの人々に精力剤の需要が思ったより多かった。
獲れただけ売れに売れた。
一回の漁で6000ロム、今回4本のポーションで24000ロムを稼いだ。
毎週5本のポーションを買って稼ぎに稼いだ。
一月でポーション代を差し引いて106000ロムを稼ぎ出した。
シーレの手元に中金貨1枚、大銀貨1枚、中銀貨1枚があった。
中金貨1枚は貴族用の馬車が買える金額だ。
ラッセル家では今まで1000ロムで5日を賄っていた。
1日200ロムだ。
まあ、フェンの稼ぎから食べるだけでやっとだったのだ。
100,000ロムは500日分の生活費だ。
現代の価値で300万円ぐらいだ。
それを一ヶ月で稼ぎだした。
シーレは22年生きてきて中金貨を始めてみた。フェンも同じだ。
寝室でずっとその晩は中金貨を二人で眺めていた。
「シーレ。」
「何、フェン。」
「中金貨って重たいんだね。」
「ふふふっ、ほんとだわ。」
「何か夢を見ているみたいだよ。」
「つねってみる?」
「ああ、つねってみてくれ。」
シーレはフェンの頬をつねってみた。
「あたたたっ、痛いじゃないか。」
「夢でない証拠だわ。」
フェンはシーレの口を塞いだ。
右手で引き締まった腰を抱き寄せた。シーレは両手をフェンの首に回した。
月が夜空の真中に来るまで2人は愛し合って眠りについた。
翌日になった。
シーレは賢かった。
これまでの生活態度を変えなかったのだ。
それに組合長コッホも秘密にしてくれた。
組合も儲かったのだ。
買取職員のノースはボーナスが出た。
それで誰も気づく事がなかった。
一年間、稼ぎに稼いだ。
シーレの手元には今120万ロムの大金があった。
100万ロムは領主一月分の歳入額だ。大金持ちである。
それでもシーレは生活態度を変えなかった。
フェンもいままで通りの生活をした。
ポーションの秘密は意外な所からバレた。
海の向こう、ラームー海洋貿易王国の漁師が状態異常解除ポーションを使い、ナムネス、シー、スネイク体長1.5mとレツド&ブラックシースネイク3mを捕り、大もうけしたとの噂が舞い込んできたのだ。
この話はローム王都に瞬く間に広がりポーションに誰もが群がった。
半年前は勇者とアンリの二人でポーションを作成していた。
一年が経ち、アンリに弟子も出来て現在は10本のポーションの納品出来るまでに成っていた。
ポーションは作れば作れるだけ売れていた。
何処でも品薄だったのである。
ロームでは王家が管理していたので混乱は生じなかった。
そんなあるポーションの販売の日、シーレが修道院に買いに行った。
長い列がずっと続いていた。
シーレが諦めて帰ろうとした時、アダル第2王子様付きの騎士がポーションを一本分けてくださった。この一年ずっと買っていただいたのでこれからも1本だけだがお譲りするとの事だった。
シーレは涙した。アダル様にお礼を言って寄付分を合わせて中銀貨1枚1000ロムを渡して帰ってきた。
一回の漁で6000ロム、ラッセル家では30日分の生活費だ。
十分であった。
そしてシーレはフェンと話し合い、残りの日々を今まで通り魚を捕って生活する事にした。いままで稼いだ資金を使って小船を買った。
網も深い所で使用出来る網を購入、一月で6000ロムを稼ぎ出したのである。
また、これはフェンのアイデアだったが、今までのイール漁の経験から人を雇って罠を6箇所仕掛け、ある程度まで綱を引き上げて貰い止めを自分がやるという方法を試したのである。
また、一年間の経験からイールのいる場所もだいたいなら分かるようになっていた。
結果は人件費を引いて12000ロムの稼ぎになった。
日給1000ロムと破格の人件費を払ってである。
ラッセル家の収入は一月18000ロム、ほぼローム領都の兵士の2ヶ月分の給料を稼ぎ出した。
ここに来てシーレは生活態度を一変させた。
人を雇い、船を購入して漁を拡大して行ったのだ。
川だけでなく、海にも漁に出かけた。
子供達にもお金を使い勉強させた。
網元としてローム王都に家を買い、いち早くポーションに目をつけて貿易に乗り出した。ラッセル家は700年後にはロマーナ家と並ぶ大富豪となっていく。




