自分の会社
僕の出資で会社を作るように言われた。
グループの将来を考えたら、新しい会社を作るのは悪いことではないと思えた。
複雑化するFIT制度もそうだが、グループの成長のために足枷となっている銀行との関係をどうにかする必要があったからだ。
しかし、自分自身で出資して会社を作っていいのだろうか?という純粋な不安はあった。
『本当にうまくいくのだろうか?』
それは、事業自体に問題があるということではない。
よっぽど、大きな障壁を誰かが意図的に作らなければ、事業としては回っていくだろうとは考えていた。
もちろん、グループとの協力関係は保つ必要がある。
FITの権利はグループから買わせてもらう。これは大前提だから。
太陽光発電所の設計から工事の管理、部材の調達、自治体への許認可や土地の手配は自分でもできる。
販売先もグループのお客さまが、ずいぶん昔から首を長くして待っているから、それも大きな問題とはならないはずだ。
しかし、意図的に・・・
いや、意図的ではなくても、各々がそれぞれの利益だけを考えたら潜在的な障壁が、大きな障壁として顕在化されるのではないだろうか?という、漠然たる不安が頭をかすめたのだった。
いや、かすめたどころではない。
このグループの協力がなくなるかもしれないような、通常では考えられない大どんでん返しが起こる可能性を捨て切れないことが、大きな心配の種であった。
過去、グループで中心となるべく人物が、大きな流れの中で会社を去って行ったのを何度も見てきた。それは、意図的ではないのだが、自然とそのような状況ができていき結果として起こっていたのだった。
そして問題は辞めて去って行った彼らに対するその後の対応。
新しい会社に就職し、晴れてカワミー社に協業依頼をしにきてくれた元社員に、川「もう君がいた時代とは我々も違うからね」と優しく追い払った川上会長の冷たい言葉は鮮明な記憶として残っていた。
今、僕が代表取締役を務めている2社は、グループの子会社、川上会長の息子が株主と、川上会長の財布から作られた会社だった。だから、会社が切り捨てられる、というリスクは考えなくてもよかっただけだ。
今回、僕が出資して、自分の会社を作る、ということは、これまでとは大きく意味が変わってくる。
もしかしたら、過去の彼らと同じように、自身の思いとは関係なく、会社を去ることになるのではないか?と不安を胸に抱いたのであった。
10年近く苦労を共にした川上会長との信頼関係。
それを信じられるかどうか?ということなのだろうか?
『事業がうまくいっていれば、そんなこともないか』
と、曖昧な理由で自分を納得させつつ、グループのためだと、心の中の不安を有耶無耶にした。
そして、新会社を僕が作ることで発生する、もう一つの問題が頭の中に浮かんだ。
つづく
※この物語はフィクションです。
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