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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

短編小説

ベルの音

作者: とり
掲載日:2023/03/23

 







 ――やっと終わった。


 マンションの戸をしめると同時、おれは息をついた。


 警察の聞きとりをうけていたのだ。っていっても、「かたちだけ」ってかんじのだったけど。


 彼らは「事故」と断定(だんてい)したらしい。捜査(そうさ)もそっちの方向(ほうこう)ですすめていくって口調(くちょう)だった。


 ――きのう隣(となり)の部屋で「転落(てんらく)事故」があった。

 三才の女(おんな)の子(こ)が死んだ。

 母親は当時不在――買いものにいっていて留守(るす)だった。父親は仕事。


 三才の女の子はおひるねしてたみたいで、起(お)きてきたときに母親をさがして、ベランダに出て、てすりをのぼってコンクリートの地面(じめん)に落(お)ちた。即死だとか。


 まあそーなるわな。ここ十五(じゅうご)階だし。


 女の子が死んだとき、おれはベランダで読書をしていた。

 屋外(おくがい)のデッサンでつかう野外用(やがいよう)の椅子(いす)にすわって、おひさまのしたでのんびり本(ほん)を読(よ)むのが、おれの最近(さいきん)の余暇(よか)のすごしかたなのだ。


 ――一回目(いっかいめ)はぐうぜん。


 ズボンのベルトにつっている『ベル』が鳴った。ちっちゃい「ハンドベル」みたいな形で、かるく振れば執事(しつじ)でもくるのかって感じのやつ。ずいぶんまえに『百円(ひゃくえん)均一(きんいつ)ショップ』でみかけて買ったものだ。


 キーホルダーなんだけど、かぎはつけていない。なんとなく腰にぶらさげている。

 おしゃれなのだ。おれ流(りゅう)の。


 それが、脚(あし)を組みかえたときに鳴った。思(おも)いのほかつよく。


 ――すると女(おんな)の子(こ)がやってきた。

 三才の子って、ほんとにベランダのかぎをひとりであけれるんだなって思った。


 隣(となり)のベランダとこっちを仕切るパーティションがあるんだけど、くもり硝子(がらす)みたいになっていて、小さいかげが「きょどきょど」動いているのがわかった。


 母親をさがしてるんだなって判った。

 ときどき隣(となり)から壁越(かべご)しに「ちりんちりん」って音がして、女の子がはしゃいでいるのを知ってたし、親(おや)がじょうだんめかしてベルを鳴らして(これがまたおれが持ってるのと同じなんだ。色ちがいだけど)、廊下でぐずる子どもをよんでいるのを見たことがあったから。


 だから二(に)回目(かいめ)はわざと。


 女の子はベランダの柵(さく)に寄(よ)ってきた。

 パーティションがあっても、おれがのぞきこめばすがたが確認(かくにん)できる位置。


 たぶん、このまま放(ほう)っておけば――おれがもう何(なに)もしなければ――女の子はあきらめて部屋にひっこんだだろう。


 ――おれは三回目(さんかいめ)を鳴らした。


 女の子は手すりから身(み)をのりだした。

 たしかおとなりはプランターがあったから、そこを足場(あしば)にしたんだろう。それにしてもがんばり屋だと思う。


 女の子は落(お)ちた。


 おれは自分(じぶん)のベランダからそれを見(み)ていた。


 ――動機(どうき)?


 「ひまだったから」かな。







 ※このものがたりはフィクションです。




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 読(よ)んでくださったかた、感想(かんそう)を書いてくださった方々、ありがとうございました。



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