#7
「ん……」
その少女は、ゆっくりと瞼を開けた。
光を断っていた瞳は、少しずつ眼前の輪郭を捉えていって。
しばらくして、彼女を囲む四人を見つけた。
「起きましたわっ」「……」「起きた!」
三人の視線。それは、彼に近づく者として夢想した人々。つじつま合わせで集められた彼女らだけれど、それぞれにはちゃんと意志があって。
今はもう、他人としての恐れは抱かない。親しみすら覚えている。
そして彼も、顔を覗き込ませてくれていた。
「エミ、大丈夫なのか?」
比良人に声を掛けられ、少女——エミは、ゆっくりと上体を起こす。
「……大丈夫、なのかな?」
問われたことに自分でも分からないと首を傾げる。すると咲がすかさず問い詰めた。
「未来への不安は消えまして?」
「どうだろう。まだ、少しはある気がする。でも……」
胸の内の暗闇。それはどうしたって消えはしない。
それを理解しながら、明確に火が灯っているのを感じていた。
その温もりは視線の先。
四人に繋がれているこの自身の手から生まれている。
「こうして握ってもらえたら、もうどこにも行っちゃえないね」
冗談めかしたように彼女は笑った。
比良人はその瞬間、この表情を見たくて名付けたのだとハッキリと納得する。
そして、彼女の笑顔に見惚れたのは他の三人も同様で。
大切な人物と重なった表情に、咲は思わず顔を赤らめながらも、調子を取り戻そうと視線を逸らしつつ声を発する。
「まあ、ひとまずは安心と言うところでしょうか。ですが結局、未来がどうなるかはまだ分かりませんわ」
「それは、俺らが全力で防ぐしかないだろ」
「……。格好良いことを、格好良い顔で言いますね?」
咲が比良人のキメ顔を茶化すと、途端に彼は照れくささで顔を奇妙に歪める。そんな様子にエミと咲が噴き出す中、申し訳なさそうに挙手が割り込んだ。
「あのー、ところでなんだけど、あたしの体はいつ戻るんでしょうか……?」
猪皮蒼の体。けれどその中に入る意識は性別すら違う夜風繋で。
「そこら辺は行さんの力ですから」
と咲の発言に釣られ皆が、猪皮行が入っているはずの夜風繋の体を見つめた。
しかしその体は、今までには浮かべそうもない苦笑を見せる。
「あーごめん。僕がこっちの体に戻っちゃったみたい」
その声は確かに女性であるものの、どことなく男性的な口ぶりで。正体に真っ先に気づいたのは、一番付き合いの長い友人だ。
「お、お前、蒼かっ?」
「えっ、蒼くん!? 戻ってこれんだた! 良かっ……て待って!? あ、あたしは、このままってことぉ!?」
驚き喜び嘆き、と一瞬の内に何度も表情を切り替えた繋は、現実を受け入れられずに取り乱すように声を荒げる。
「意識の交換は血の繋がりがある者同士でしか出来ないらしいので、戻すには一旦、行さんと蒼さんが入れ替わってから、蒼さんがまた繋さんと入れ替わらないとダメでしょうね」
繋自身は入れ替わりを操作出来る力はなく、他に頼るしかない。ただ、期待の目を向けられる蒼は顔を引きつらせていた。
「えっと僕、いまいち何で出来たか分かってないんだよね。多分、行ちゃんの影響が一時的に残っててって感じだと思うし……」
「え、まっ、ちょっ。……じゃあっ、あたしの体を、しばらく蒼くんが使うって、こと……?」
驚きすぎて、ゆっくりと事実を確認する繋に、咲は冷静に指摘した。
「あなたも使っているではありませんか」
「そ、そりゃあやむなく色んなところ見ちゃったり、興奮しちゃったりしたけどさぁ!?」
動揺している繋は、勢いで思わず余計なことまで漏らしてしまい、遅れてハッと本人に聞かれていると気づく。
「んー、どうすればいいかな? こういう時の僕の反応」
「ほ、本人の前で暴露させないでよぉ!?」
「思いっきり自爆ですわよ」
「というか僕のこと、名前で呼んでくれるようになったんだねー」
責任転嫁する繋に咲は半目を向け、当人であるはずの蒼はまるで心配ないとばかりに別の事柄を喜んでいる。
そうして、憂いなどまるでなくなったような空間に、比良人もつい笑ってしまいながら、未だ手を握り続けているエミを見つめた。
「俺も将来に不安はあるけどさ。こうして過ごしてたら、きっと忘れちまうよ」
「……うん。私も今は、何も考えてないや」
彼女の笑顔はやっぱり、晴れ晴れしていた。
もう、不安なんてないかのように。
これからどうなるかは分からない。
けれど世界は動いていく。
多くの発見で、色付きながら。




