#3
——♪
音楽が鳴っている。それに合わせて馬が回り、見ている者を誘った。
「あれ乗ろうっ」
彼女はメリーゴーランドを指差して提案する。返事を聞く前に走り出していて、無邪気に馬の背に乗っていた。
「あははっ」
笑い声が響く。
「楽しいねっ」
彼女だけの笑い声が響く。
誰もいない遊園地。いるのは彼女だけ。
けれど楽園は彼女を歓迎し、機能する。
光を発し、音を鳴らし。
人が少ないと思えば、どこかから呼び寄せられる。
賑やかさで、より楽しくなった。
いつの間に、人を恐れなくなったのだっけ。
いつの間に、笑えるようになったのだっけ。
そういえば、この名前を付けてくれたのは彼だった。
笑えない自分を、笑えるようにと願いを込めて。
彼がいてくれるから、自分は幸せなのだ。
楽しい感情で満たされる。
これは全部彼のおかげだ。
だけど気づいてしまう。
彼がいない。
語りかけても返ってこない。分けようとしても受け取ってくれない。
じゃあ何で、自分は笑っていたのか。
自分でない感情が頭の中を満たしていることに気づいて、恐ろしくなった。
今、自分は何をしている?
どこにいる?
彼はどこ?
途端に音楽が止む。光が消える。
彼女を中心に回っていた楽園は唐突に消失し、荒野だけが広がった。
彼女は探し始める。
この不安を払拭してくれる人を。
それは、何度も繰り返されていた。
この世界には幸せが満ちている。
目を閉じている限り幸せなのだ。
けれどどうしても見てしまう。
嫌な想像を。不幸な現実を。
不安が、どうやっても消えてくれない。
あの頃はどうだっけ。
あるいは、もう一度やり直せるなら。
彼女はそうして、逃げたのだった。




