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Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~  作者: 落光ふたつ
第6話「未来を恐れた少女」
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#6

「咲、今まで何してたんだよっ」

 久しぶりの姿に比良人は思わずそう問い詰めたが、咲は取り合わないとばかりに背を向け車内へと戻っていく。


「話は車に乗ってからでお願いしますわ」


 今までにない、突き放したような口ぶり。いやそれは、中学時代、まだお互いが心を許していない時と似た仮面を被っているようにも思えた。

 知らない内に何かあったのか。それを伝えるのも、車内でと言うことだろうか。

 比良人と繋は顔を見合わせ、リムジンへの乗車を決める。


「エミ、お前も来てくれるか?」

「……うん」


 足を止めていた彼女の手を比良人は引っ張る。そうして開かれたドアから入ったところで、更なる久しぶりの顔を見つけた。


「行ちゃん!? なんでここに!?」


 先に乗車していた繋が驚愕の声を上げながら、ようやく出会えた己の体へと詰め寄る。

 車体後部と側面に沿って据え付けられたソファのようなシート。その側面後方寄りに行は座っていた。

 彼女は不服そうな顔で祖母の問いに答える。


「……ユーカイされた」


 半目で睨む対象は運転席寄りに座る咲で、繋の見開いた目も向けられて、咲は誤解を解こうと口を開く。


「協力していただいただけですわ。未来の情報源は貴重でしたので」

「……でっかいおじさんに後ろからコウソクされた」

「それが一番、効率の良い方法でしてよ」


 なんの悪びれもなくサラッと告げる咲に、どことなく今までの幼馴染らしさを感じ比良人はホッとしていた。


「お前、相変わらず強引だな」

「目的のため、手段を選ばなかっただけです。それがわたくしですから」

「……そうか」


 目を合わせない返答にどことなく強がりを見て取って、比良人は用意していた追及を飲み込む。


 そう言えば結局、咲からの求婚には答えを返していない。


 あの言動の理由がやはり打算的だったと知らされてはいるものの、返事は告げるべきだと頭の中の自分が訴えている。ただ明らかに、今ではないだろう。

 それに、と比良人は、今もエミの手首を握る己の左手を見てしまった。咲が現れてから黙りっぱなしの彼女から、なんだかこの体温を離せないでいる。

 すると咲へ向けるべき表情が分からなくなっていて。

 けれど繋が質問をしてくれたおかげで、とりあえず必要なのは耳だけで済む。


「というか、今どこに向かってるの?」


 繋は孫娘が酷い目に会ったと知ってから、彼女を守るように抱きしめている。行も嫌な顔はせず受け入れていて、加えて率先的に祖母の問いに答えていた。


「研究所。今までそこでカンキンされてた」

「正式には軟禁ですわ。狭い施設とは言え、それなりの自由は与えていましてよ?」


 心外だとばかりに咲は言うが、対する行の視線から不満は取り除かれない。

 なんとなくその間に気持ちが整理出来た比良人は、平静を装うためにも問いを投げる。


「てかお前んちの研究所ってなにしてんだ? ベッドの開発とかじゃないのか?」


 神楽咲寝具はその名の通り、寝具を売る会社だ。それ以外にもアロマ等、睡眠に関わる事業には大体手を出しているらしいが。

 事前知識を引っ張り出してもピンと来ないでいると、咲が明瞭に答えをくれた。


「寝具開発の方は本社で行っていますわね。これから向かうのは、公にはしていない父の私用研究所です」

「私用って……プライベートってこと?」

「ええその通りです。父が私的に、夢について、研究している施設ですの」


 夢と聞き、確かに睡眠に関わることではあるかと納得する。

 そして夢と言えば、以前にも彼女の口から聞いた覚えがあった。


 それから咲は、これから長話をするとばかりに喉を潤す。

 シートと対面するように備え付けられているテーブルに、用の済んだ飲み物を置き直すと、丁寧に語り始めた。


「わたくしの叔母が予知夢を見るとは伝えたと思いますが、そこの未来人も、夢に関わりがあるようでして、現在、彼女にとっては過去へとやってきているのも、一種の夢を見ている状態なんですのよ」


 いまいち理解が追いつかず疑問符を浮かべる。それは繋も同じだったようで、大人しく黙って続きを待った。


「皆さんも経験があるとは思いますが、夢で過去の記憶を見ることがあるでしょう? 夢は記憶の整理とも言われていますが、では、まだ見たことのない光景を目にする、正夢や予知夢とは何なのでしょうか。見たという人は少なからずいます。記憶の整理にしては説明がつきません。ただ一つ、どちらとも説明がつく仮説があります。

 それは、意識が時間を移動し、実際に過去や未来の景色を目の当たりにしているというものです」


「ど、どういうことだ?」


「意識。魂と呼んでもいいでしょう。その、肉体とは別に存在する非物理的存在は、時間に囚われないのです。ただし肉体には繋ぎ留められてしまい、起きている間、活動している間は、脳などを動かす電源やスイッチのような働きをさせられています。ですが、体が休む就寝時には、しがらみなく自由に動けるようになるのです。そう分かったのも、行さんから二種類の脳波を観測出来たからですわ」


「二種類の脳波って、脳ミソが二つあるってこと?」


「と言うより、脳機能と表した方が正しいですかね。物理的な脳機能、いわゆる脳ミソとは別に、意識自体にも簡易的ではあれど脳に似た機能が備わっているのです。

 ただしそれは容量や性能が低いため、記憶をすぐ忘れてしまったり愚かな選択をしてしまったりします」


「それが、夢ってわけか」


「その通りですわ。二種類の脳波は恐らく誰しもが持つ物です。今まで観測出来ず、行さんからは観測出来たのは、彼女の体と意識が別々だからです。そのズレがグラフで見て取れた。そしてズレた意識の脳波は時折消失し、行さんから聞いてみれば、その間に時間を移動していたと分かりました。一般の方では、意識が時間を移動し観測出来なくなっても、元々グラフが重なっているので分からない、というわけですわ」


 その後半の語りはどことなく溌溂としていて、彼女は研究者気質だったのかもしれないと思わされた。

「とまあこれは、わたくしの研究成果の発表みたいなもので、正直どうでもいい所です」

 話をまとめた咲は一呼吸を入れる。

 そうして視線を鋭くすると、とある人物へと突き刺した。


「記憶に留めておいて欲しいのは、意識が持つ機能は脆弱で、揺らぎやすいということですわ」


 見つめられるエミは、応えず黙りこくったまま。

 静寂が車内を埋めた時、車の振動が止まる。


「さて、着きましたわ」

 窓の外を確認した咲が、車内を見渡しそう告げた。


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