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Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~  作者: 落光ふたつ
第6話「未来を恐れた少女」
50/63

#2

 休日の朝。三付家食卓。


「今日は一緒に行ってくれるんだよね?」


 朝食を取っているエミは、隣で同じ釜の飯を食べる比良人へと問いかける。それに比良人は、咀嚼を終えてから答えた。


「まあ休みだしな」

「良かった」

 望みの返答に、エミは安堵を言葉にする。


 彼女は比良人が学校に行っている間、近所を当てもなく散策していた。世界のことは見て知っているとはいえ、実際訪れ触れたり、音を聞いたりすれば、感じるものはまた違った。

 ただ、一人での物足りなさがあり、それが原因で昨日は比良人の学校に潜入していて。

 比良人も散歩に誘われたことはあれど、今までは学校終わりで疲れているからと断っている。だが、休みの日なら疲れは言い訳に出来ない。


 どことなくエミの進める箸が早くなっているのを見て取りながら、比良人は気乗りしていない本心を隠しておいた。


「それで、どこ行くんだ?」

「私だけじゃ入れないとこ」



 やって来たのは最寄りの遊園地。

 三つ駅を超えた、海に近い街の端。敷地も大きくイベントも豊富で、いつも盛況なそこが休日となれば賑やかさはより一層だ。

 二人分のチケットを買った比良人は、片方をエミに渡しながら、行き先を知った時から浮かべていた疑問を投げる。


「入れないって言ってたけど、別に言えば金出したぞ?」

「いや、人が多くて入れない」


 その訂正と同時、丁度人が横を通り過ぎ、エミはとっさに比良人の体を盾にした。

 なるほどどうやら、彼女の人見知りは未だ治っていないようだ。

 しょうがないなと肩をすくめ、比良人は前に立って先導する。


「さてどこ回る?」

「全部」

 間髪入れない回答に、比良人はまたも苦笑をしたのだった。




 煌びやかな光。心躍る音。

 それらが包むのはいくつもの遊具たち。

 ジェットコースターと観覧車、メリーゴーランドにお化け屋敷と、人で賑わうその様にエミは高揚感を覚えていた。

 更に目が止まったのは、兎と熊を足したような動物の着ぐるみが体を揺らしながら客を出迎える姿。

 風船を握り子供たちに配るマスコットキャラクターをエミは指さす。


「比良人、あれ貰ってきて」

「あの風船、子供用じゃないのか? てか欲しいなら自分で、」

「……」


 ゴスッ。

 無言の圧力と共に背中に殴打を加えられ、比良人は顔を引きつらせた。

 しばらく動かないでいるも、エミの視線は絶えず望みを叶えろと訴えてきている。そう簡単に引き下がるつもりはないようだ。

 仕方なく諦めて、比良人は羞恥心を殺し子供の群れへと突貫していった。

 どうにか風船を手に入れ振り返ると、エミは人気のない木陰へと逃げていて、比良人はまた呆れながら戦果を持ち帰る。


「ほれ」

「さすが比良人」

「これっきりだぞ?」

「……せめて、ここ出るまでは」


 人見知りを克服するにしてもここはハードルが高い。そう命乞いにすら思える瞳を向けられ、比良人はなんだかんだと流されてしまう。


 そんな風に、二人は平穏に遊園地を堪能した。

 空を走る列車で絶叫し、不気味なビックリ屋敷で身を寄せ合い、地上を見下ろせる箱で語らい合う。


 周れた遊具はまだ半分。

 けれど少し疲れたと二人は、ソフトクリームを買い近くのベンチに座って一息ついていた。

 エミが左で比良人が右。人が多く行き交う園内を、少し離れた場所から眺める。


「……美味しい」

「良かったな、こっちもウマいぞ」

「私にも食べさせて」

「まあいいけど」


 エミが食べているのはバニラで比良人はチョコ。エミはチョコも気になっていたのか、感想を聞くとすぐに要求した。それに比良人は特に未練もなく差し出す。

 一口な、と言われ、エミは大きく口を開いて頬張った。


「おま、食べすぎだろ」

「ん、ほいひいね」

「ならいいけど、そっちのも食べさせてくれよ」


 クリームを半分近く持っていかれた比良人は思わず苦笑する。取られた分を取り返そうと提案すれば、エミもソフトクリームを傾けてくれるが、「少しね」と言い含めてくる。


 とその時、クリームが重さで倒れていく。

 それはゆっくりと、ベンチへ落ちようとして。


「おっと」


 すかさず比良人が顔面でキャッチした。

 エミの手の上からコーンを握り態勢を整えて、どうにか落とさないで済む。

 しかし、比良人の顔は口周りから鼻筋にまでクリームがベットリだ。


「汚いよ」

「……落とすよりかはマシだろ」


 なんとか救ったクリームを飲み込んで、心外な発言に文句を言う。とは言えエミも冗談で言ったようですぐに前言を撤回した。


「うん。食べてもらえてよかった」


 その素直な発言に、比良人は気恥ずかしさを覚え、表情を誤魔化すように口周りのクリームを指で拭う。


「ねえ、比良人が結構食べちゃったし、もう一本買っていい?」

 とエミが掲げるコーンの上にはもうクリームがほとんど乗っていない。とは言えまるで自分が悪者のような言い分には比良人も黙っていられなかった。

「まあいいけど、お前も俺の食ってたからな?」

「次のは二人で分けよう」

「はいはい……」


 丸め込まれたような気分になりつつも、比良人は新たなソフトクリームを買いに行くのだった。



 比良人とエミは駅を抜け、すっかり暗くなった道を歩く。


「楽しめたか?」

「うん、楽しめた」


 家までの帰り道。並んで歩くエミの言葉に、比良人は少し安心していた。


「比良人といると、やっぱり楽しいね」

「それならよかったよ」


 比良人は顔を逸らしながら相槌を打つ。

 彼の視線が向いていないとは知らないままにエミは、平坦な声音を少し弾ませた。


「今日は素敵な記憶になった。いつまでも思い出すね」


 これ以上のない感想を貰い、比良人は微笑みを浮かべて返す。

 けれどそれだけだった。


 比良人はまた、遠くを見つめる。

 心の内には申し訳なさがあって、その理由が、彼女と違って自分は心の底から楽しめていなかったからだというのは分かっていた。


 ……本当に、こんなんでいいのだろうか。

 ふと浮かぶ顔たちは、きっと今も頑張っているはずで。

 それなのに、自分だけは……

 どこにも行けない感情が、ずっと行き場を探している。


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