・1・
——ガチャリ
鍵を閉める音が、やけに近くで聞こえました。
まるで自分の心が鳴らしたようにも思え、電灯を点けたのに部屋が明るくなったと感じなかったのも、似た理由だったのかもしれません。
わたくしは改めて鏡に己の姿を映し、思わず笑ってしまいます。
「こんなことまでする必要は、なかったんですわね」
惹かれようと変わってみましたが、事情が変わった今では全くの空振りだったと分かりました。
とんだ道化ですわ。
それからわたくしは着替えを済ませ、いつものように寝る準備を行います。
支度を終えベッドの上に座ったところで、はたと叔母に連絡を取っていなかったと思い出しました。
彼の部屋を出る際にそう宣言したのですが、すっかり記憶から抜け落ちてしまっていたようです。ですがもう時間も遅いですし、明日にした方がいいでしょう。
やることもないしすぐに眠ってしまおうと考え、ふといつもの癖でベッド脇に置いてある写真立てを手に取ってしまいます。
それは、中学生の頃の比良人さんとわたくし。
嫌がる彼の腕を無理やり抱き寄せて記念に取ったもので、当時の彼は小さくて可愛らしいです。
そんな思い出を振り返り微笑みを浮かべる、その一連までが自分の習慣ではありましたが、今思えば馬鹿らしい行動ですわ。
わたくしは写真立てを倒して元の場所に置きながら、ふと一人の女性を思い出していました。
比良人さんの隣にいた女性。名前はエミさん。
どこか浮世離れした雰囲気の持ち主で、わたくしも多少なりは容姿に自信がありますが、あの方には敵わないでしょう。
それに何より、彼の態度がまるで違っていました。
それもそのはずですわ。彼女こそが、彼との将来が約束されている本来の女性ですもの。
なら、わたくしの家を存続させるための策略はもう無意味というわけで。
「全く、今まで無駄なことをしていましたわね」
わたくしはベッドに横たわりながら、過去の自分をあざ笑いました。
滑稽だと惨めだと、愚かな自分を高慢ちきに罵ります。
そう。わたくしは今、笑っていますわ。口角だって、上がっています。
「……っ」
だから、この感情の方がまやかしなんですの。
どこかの誰かが不細工に鼻をすすっています。
女性として、あるまじき音ですわ。




