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あたしは、去っていく背中を追いかけなかった。
その体はあたしのもの。でもその中に入っているのはあたしの孫娘。
見た目は高校生でも、中身はまだ十二歳の女の子だ。
けれどあたしなんかよりずっと大変な人生を生きていて、ずっと頑張っている。
今まで何度も彼女の言動に口出しをしていたけれど、本当はそんな資格なんてないのだろう。
あの子が言ったみたいに、あたしは目の前の問題に対して、どうでもいい、と思っているのかもしれない。
「どうすればいいんだろ……」
未来で数日過ごして、多少なりは過酷さを知った。お世話になった人だっている。
それでもあたしは、行ちゃんのようになりふり構わない行動は選べなかった。
今でさえも、自分の立つ場所が崩れてしまわない方法だけを探している。
それは、必死になれていない証拠なのだ。
比良人くんを殺すという突飛なやり方は間違いだと判明した。そのことで行ちゃんはすごく焦っている。ようやく見つけた手段が消えてしまったのだからそうだろう。
対してあたしは、焦ってなんかいない。
そもそもまだ選んですらいなかったから、手段はまだどこかにあるんじゃないかと、馬鹿な希望を抱いてしまっている。
……どうにかして、全部丸く収まんないかな。
浮かべるのもそんな、投げやりにも感じる言葉。
しばらく夜道に立ち尽くしていたアタシはようやくに家へと帰ることにした。あたし、夜風繋の家ではなく、今お邪魔しているこの体の猪皮くんの家へと。
歩いている際中もずっと行ちゃんの顔ばかりが浮かぶ。
追いかけなくてよかったのか、彼女が喜ぶ案は出せないのか。そんなことをずっと考えてみるけれど、何だか空回りしているように思考は進まない。
……あたしは、誰の力にもなれていないな。
ため息を吐きながらふと思い出して、右手でズボンのポケットをまさぐった。
「きみなら大丈夫、か……」
取り出した右手に乗っているのはノートの切れ端。
そこに綴られる文章の最後に、読み上げた一文は書かれていて。
それは、あたしがこの体に入ってからずっと肌身離さず持っている物。
もう随分と話していない彼が残してくれその置手紙は、今のあたしにとって唯一すがれる、お守りだった。




