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Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~  作者: 落光ふたつ
幕間「未来から来た少女」
38/63

・2・

 アタシにとっては一年前のこと。

 世界にとっては、約五十年後のこと。



「ミツ食べすぎでしょ! カイにも分けたげなよ!」


 みんなで集めた食べ物を取り分けていると、一人だけ明らかに量多くお皿に盛っている男子がいて、アタシは堪らず指摘した。

 けれど同い年のソイツは、対照的に軽そうなお皿を持つ年下の子の肩に腕を回して自慢げに言う。


「今日はオレの方が多く見つけたからいいんだよ! 勝負だからこれ!」


 賭け事に負けたらしいカイも、納得はしているという感じだ。

 そしてミツは、好戦的に笑ってアタシにも挑発を仕掛けてくる。


「何なら夜の分、お前も競いっこするか? 食べもんだけじゃなくていいから、よりすごいもん見つけた方が勝ちな!」

「……フン、ばからし」


 そうアタシは大人ぶりながらも、心の中ではこのお調子者を黙らせてやろうと、ヒッソリ計画していたのだった。



『猪皮家』は、荒れ果てたこの大地で助け合いながら生き延びようとする人々の集団だ。最初に指揮を執ったのがアタシのおじいちゃんとおばあちゃんだったらしいから、その家名で呼ばれることが多い。

 今この世界にどれだけの人が生きているかは分からないが、『猪皮家』は増えては減ってを繰り返し、ここ数年は五十人前後を保っている。

 食糧難や病気なんかで多くの家族が死んだ。アタシのお母さんと上のお兄ちゃんもそうだった。

 いつでも食料や病気の治療は子供が優先され、そのため『猪皮家』の半分以上が十歳以下。アタシは小学校で言うところの六年生に当たり、小さな子の面倒を見る役割だった。

 アタシよりも年上になると十九歳と結構離れていて、体がしっかりしている大人たちは力仕事で毎日忙しい。

 それと、『猪皮家』には同じ場所に三日以上は留まらないという方針があった。行く先々で食事と寝どころを確保しなければいけないから、みんなの疲れは中々休まらない。

 でも、そうしないといけない理由がある。

 辿り着いた先を安住の地として町なんかを興せば、『誘発』させてしまう恐れがあるらしいのだ。


 それは、『楽園』と大人たちが呼んでいるもの。


 その現象こそが世界をこんな風に変えてしまった原因で、『楽園』が起こった周囲一帯は何もかもなくなってしまい、空気すら薄く生き物が生き辛い環境に変わる。

 その痕跡は、旅をしていればいくつでも見かけられた。

 元々は商店街だったらしい通り。客を迎え入れる門から一歩進んだ先は、突然むき出しの荒野になっていた。

 当然商店街に限らず、公園、団地、駅の周り。そう言った、人が多く集まっていた土地はほとんどが消えてなくなっていた。

 巻き込まれていなくなった人は大勢いるのだろう。

 ただアタシは、まだその『楽園』がどういうものなのかをちゃんと知らなかった。避けるように旅をしていたから幸いに、消失前の姿を見ることがなかったのだ。

 それに話を聞いても、知らない言葉だと上手く想像出来ないことが多く、毎日が大変なのもあって調べるのは放棄していて。

 だからその時、目の前の光景がそうなのだとは分からないでいた。



 アタシは『ソレ』を見つけて、しばらく呆けていた。

 見たことのない景色に目を奪われて、それからすぐ、少し前に思いついた計画にピッタリだと、来た道を引き返す。


 立体駐車場。

 併設されていたマンションは一部が消え崩れてしまっているが、停まっている自動車にまでは被害が及ばなかったようで。それなりに広い上に三階建てと雨風を凌ぐには十分なこの敷地は、今回の『猪皮家』の拠点になっていた。


「ミツ! すごいの見つけた!」


 食べ物の泥を落とし晩ご飯の準備をしている子たちの中で、一つ背の高い男子にアタシは前置きもなく言い放つ。


「んあ? おっ。オレと競いっこする気になったか!」

「べ、別にそう言うわけじゃないけど、たまたま見つけたから、ねっ」


 くだらない遊びを受け入れたと思われるのは癪で、変に強がりながらもアタシは、ミツと一部の興味を持った子供たちを連れ、興奮を覚えた場所へと案内した。


 そうして、拠点から少し離れたそこへアタシたちは辿り着く。

 すると予想通りにみんなは、アタシと全く同じで呆けたように固まっていた。お調子者のアイツも、すっかり言葉を失っている。


「……にしても、こんな場所あったか?」

「遠目で確認しただけだから何とも……」

「とにかくすごいでしょ!?」

 我に返って不思議がる男子に、アタシは言い聞かせるように声を上げた。


 煌びやかな光。心躍る音。

 人も見当たらないのに賑やかなそこは、見ているだけで楽しくなってくるような不思議な空間だった。

 見上げるような高さの建物がいくつもあって、ウネウネするレールの上を物凄い速さで列車のようなものが走っている。更に奥の建造物は円形で、周りに吊るしている箱を、上へ下へと運んでいた。

 その他にも、いくつも並んだ馬の模型が回転していたり、悲鳴の聞こえる不気味な屋敷があったり、兎と熊を足したような動物が風船を持って体を揺らしていたりしていて。

 この荒廃した世界には不釣り合いなほど賑やかで。


 そこが、かつては多くの人を集めた『遊園地』という施設なのだとは、当時のアタシは知らなかった。


 無性に高揚感を煽る設備の様々に、アタシは興奮を収められないでいる。


「これはもう、ミツの今日の晩ご飯は全部もらいよね!」

「お、おい待てよ! 確かにすげーけど、飯抜きはさすがに……」

「じょーだんじょーだん! でもこれからはあんま、くだらない遊びはしないことね!」

「お前も乗り気だったんじゃねぇのかよ……」


 ミツの不満そうな視線は無視をする。勝負に勝った方が絶対なのだ。

 そうして得意げになっていると、不意に裾を引っ張られてそっちを見る。


「あそこで、遊んでいい?」


 そう言うのは、いつもは引っ込み思案な子。自分から意見を発することはなかったのに、今ばかりはその瞳を待ちきれないとウズウズさせている。

 そしてそれは他の子も同様で、気づけば年長者であるアタシに、許可を出してくれと言う訴えの視線が集まっていた。


「えっとぉ、まずはやっぱり大人に言った方がいいかな……」


 年長者の自覚を思い出してそう判断しようとした時、同い年のミツが考え直せとばかりに背中を強く叩いてきた。


「ばーか! 言ったら荷車に使えるとかでバラバラにされちまうって! バレるまでの間に楽しめるだけ楽しんどこうぜ!」


 男の子らしい短絡的な考え。そのままミツは、慕ってくる男子を連れて、走り出し行ってしまった。

 アタシはそれを止められず。残った子たちはアタシの指示を待っている。


「……みんな、遊びたいよね。いいや、行こ!」

「「「やったぁ!」」」


 深く考えるのを止めて、みんなの手を引っ張る。

 アタシだって、遊びたくてしょうがなかったのだ。



 でもそれは大きな間違いで。

 ちゃんと正しくあれたなら、失うことなんてなかったんだ。



「きゃーっ!」「アハハ! なにこれーっ!?」


 悲鳴とも笑いとも取れる楽しそうな声があちこちで聞こえる。

 二十人近い子供たちは、各々の遊具で遊び方も分からないままに楽しみ、日頃の疲れを吹き飛ばしていた。


 空を走る列車。地上を見下ろせる箱。追いかけ合う馬の群れに、不気味なビックリ屋敷。


 アタシたちを楽しませる設備はいくつもあって、全てを制覇してもまだ足りないとみんなは気に入った遊具を繰り返し堪能している。

 その、いつにもない笑い声が嬉しくて。

 ふと一息ついたアタシは、敷地内を見回し満足感を味わっていた。


 と、その時だった。

 子供とは違う、見知らぬ人影が視界に入る。


 それは一人の女性。

 年が離れているようにも限りなく近いようにも感じる、不思議な女性だ。


 てっきりここにはアタシたちだけかと思っていたけれど、その人はみんなと同じように遊具を楽しんでいるようで。

 ただ奇妙なことに、一人きりなはずが、まるで連れがいるかのように隣に笑いかけている。

 その様子が異様に変な感じがして、そのせいか、アタシは女性から目を離せなくなっていた。


 女性はベンチに座り、渦巻き状の食べ物を食べている。その座る位置は左寄りで、二人で並んでいるようではあるが、どう見ても彼女一人だ。

 しばらくすると女性は、食べかけを空白の隣へと差し出す。

 けれど当然、それは誰の口に入ることもないまま、ベチャリとベンチの上へ落ちた。

 その瞬間。


「……あれ」


 女性の声が漏れる。

 隣に誰もいないと気付いた様子で、突然立ち上がる。

 必死な形相で辺りを探し始め、けれど一人きりのまま。


 辺りに探し人がいないと分かるとその女性は遊園地を出ていき、アタシもなんとなく追いかけていた。

 見慣れた荒れ地。

 気づけば女性の靴が脱げていて、後ろからついて行っていると傷だらけの足裏が見えた。


 それはまるで、何時間も何日も、あるいはそれ以上走り続けたような傷で。


 血の滲んだ足跡をアタシは踏んで。

 突然、眠気に襲われた。



 ——ぼんやりとしていた。

 ——気分がフワフワしていて、でも何も不思議とは思えなかった。

 ——目の前に女の人がいる。

 ——キレイな服を着ていて。よく見れば周りにも同じ服を着た人がたくさんいる。

 ——その人が振り向いて、思わず目が熱くなった。

 ——もう会えないと思っていた人に、とてもよく似ていたのだ。

 ——「おかあ、さん……」

 ——そう言うと、その人は困ったように笑う。

 ——その仕草がまた思い出を呼び起こし、どうしようもなく胸が締め付けられた。



 それは夢だった。

 眠気から覚めればすぐに分かった。

 あの曖昧な感覚も、あり得ない人との再会も、夢だからこそ。

 そう理解して、改めてアタシはいつもの荒野に立っていると知り。


『比良人、どこ……?』


 不意に聞こえた声。

 それは、さっきまで追いかけていた女性のもので。


 でもその女性は、もうどこにもいない。


 ……何だったのだろう。

 地面を見下ろせば足跡だけは残っていて、不思議ながらも、その疑問を解決しようとは思えなかった。

 頭の中が寝起きのような感覚だ。

 数秒立ち尽くし、それからみんなの所へと戻ろうと思い立つ。

 もう夕暮れ。遅くなれば大人たちに心配されてしまう。

 そうして来た道を振り返り。


 けれど、後ろには何もなかった。


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