#3
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「それで、もういいんだよね?」
その会話は、猪皮家の一室にて行われていた。
六畳の空間に、勉強机とちゃぶ台が置かれた質素な部屋だ。
向かい合っているのは同い年の男女。中世的な顔立ちをした少年——猪皮蒼と、一見地味な少女——夜風繋。
二人の間に漂う空気は、どこか険しかった。
「いやっ」
問いかけに対して猪皮蒼は首を横に振りかけ、しかしその返答は許さないとちゃぶ台が強く叩きつけられる。
「……いい加減にしてよ、おばあちゃん」
夜風繋は、鋭い瞳で対面の少年を睨んだ。
明らかに見た目とはそぐわない名称に、猪皮蒼は訂正をすることはなく、どうにか荒立つ相手を収めようと言葉を並べていく。
「え、えっとね、この時代じゃそんなに簡単なことじゃないし、それにっ、比良人くんだってそんな悪い人には思えなくて——」
だがその語り掛けは、まどろっこしいと遮られた。
「おばあちゃんには、あっちがどれだけ大変か分かってないんだ!」
「あ、あたしだって見てきてっ」
「じゃあ!」
夜風繋はまた、強くちゃぶ台を叩いた。
膨らんだ大きな感情に、猪皮蒼は思わずビクリと肩を震わせたが、すぐに眼前の瞳から光が溢れているのを知って、愚かな自分を責める。
どっちつかずで、どうにかなるだろう、と楽観する自分を。
猪皮蒼はこの時、自分が抱く使命感は彼女に対して限りなく薄いのだと理解した。
「邪魔、しないでよっ。アタシは、絶対にみんなを助けるんだからっ」
鼻声の少女の想いに、猪皮蒼は何も言えない。
「そのために……」
だから、続く言葉を分かっていながら、遮る事も出来なかった。
「三付比良人を、殺す……!」
その選択が正しくないと決めつけながらも、彼女は、やはり他を思いつけはしなかった。




