#1
計己左之寸・
彼女を見つけた者の名は、三付比良人と言った。
座る河川敷のその隣。ふと動かした瞳が、彼女の存在を認めた。
「えっ、と……?」
比良人は、突然目前に現れた彼女に困惑していた。少なくともその場に座る直前まで、周囲に人は一人もいなかったはずなのだ。
しかし視線の先には紛れもなく女性がいる。そして何故か、その姿に妙な魅力を感じ、比良人は釘付けになってしまっていた。
華奢な体で背丈は160㎝程。年齢は比良人と同年代にも見えるし、幼くも年上とも取れる。その容姿はこれ以上ない程に整っていて、ただ、表情は酷く平坦だった。
更にはその髪型。
それは思い出の中にあるぼやけた姿と重なって。
彼女を見ていれば、曖昧だった輪郭が途端に明瞭になっていく。
その瞬間、いくつもの記憶が流れ込んで来る感覚に陥っていた比良人は、目の前の謎に追及することも出来ずにいた。
すると、彼女の方から口を開く。
「私は、どんな形をしている?」
「は? え、形? ひ、人の形?」
「そっか、なるほど」
比良人のとっさの回答に、一人で納得した様子を見せる彼女。その視線は、固定されているかの如く比良人から動かない。
見つめられ、なんだか照れ臭いのに比良人も顔を逸らしはしなかった。
まるで、そうすることを強制されているみたく。
「と、というかっ、さっきまでいたか? 全然、気付かなかったんだが……?」
「どっちだろう。いたというか、そもそもいなかったというか……とにかく、キミが見つけてくれたから、私はここにいられる」
掴みどころのない返答に、比良人の思考は余計に空回る。
加えて、彼の胸の内には抗えない高鳴りがあった。異常に熱も上昇していて、まるで目の前の女性に一目惚れしたと錯覚させるものだった。
真実、錯覚ではないのだが、比良人は認めようとしない。
河川敷で隣に座る男女は見つめ合って数分が経っている。傍から見れば、恋人同士にしか見えないだろう。
距離も近いまま、彼女は比良人へと要求を告げる。
「キミの名前、教えて」
簡単なその願いに、比良人は怪しむこともなく言葉を零した。
「三付、比良人」
「三付? 比良人? くん? さん? それとも敬称は不要?」
「は? ……あ、ああ、呼び方? 別に何でもいいけど」
「じゃあ親し気に比良人で行こう」
と、そのまま流されそうになった比良人は、抵抗するように立ち上がる。
「というかっ! あんたの方が誰なんだ!?」
問い詰めに対し、彼女は表情を動かさない。
視点の高さが変わっても、二人は見つめたまま。
そうして彼女は、答えがなくこう言った。
「キミが決めて」
どこまでも深い瞳から、やはり比良人は、目を離すことが出来ない。
ずっとそうしないといけないと、誰かが訴えていた。




