#5
バッティングセンターの後は併設されていた打ちっぱなしのゴルフも体験し、それからまたリムジンに乗りこんでゲームセンターでも遊んだ。
なんだかんだと楽しんでいればすっかり正午を過ぎていて、俺と咲は少し遅い昼食をとるため、近場のカフェに入店する。
そこにはテラス席があり、空いていたしせっかくと解放感と共にランチを味わって、そうして腹を満たし終えたところで、咲が席を立った。
「お手洗いに行ってきますわ」
「おう」
店内のトイレへと向かう連れを見送る。咲が戻ってくるまで時間を持て余す俺は、氷が溶けて量の増えたお冷をなんとなく口に含む。
その時、向かいの椅子が引かれた。
「えっと、こんにちは、比良人くん」
咲の座席にそう挨拶して座ったのは、蒼だった。
彼は少し息が上がっていて、チラリと確認すれば、店先に見覚えのあるママチャリが停まっている。
「俺をつけてたのか?」
「えっ!? あ、あーえぇっと……」
カマをかけてみれば分かりやすい反応を見せる蒼。相変わらずの不審な行動にはもう突っ込むことはしなかった。
それと、どうやらもう一人はいないらしい。
念入りに周囲に視線を巡らせていると、蒼が気を取り直して声を掛けてくる。
「その、比良人くんに聞きたいことがあって」
「またか?」
「ゴメン。でもいいかな?」
辟易と俺が返すと蒼は謝って、それでも譲れないとばかりにこちらを見つめてきた。
その瞳は、とてもふざけているようには見えなくて、俺は返事をせずに質問を促した。
そして蒼は、俺に問いかける。
「前に言ってた、黒髪ショートの人って、きみのことを探してたりしないかな?」
何の脈絡もない、今までとも毛色の違う問いに、俺は思わず眉をしかめる。
「は? どういう意味だ?」
「えっとじゃあ、突然消えたり——」
俺が疑問で返すと蒼は追加情報を並べようとして、だがその続きは遮られる。
「蒼さん、そこはわたくしの席ですわよ?」
不意を突いた指摘に、蒼はビクリと体を跳ねさせ、ものすごい勢いでその場に立ちあがった。
そして、睨んで来る咲に引きつった笑みを向ける。
「お、お邪魔しましたー……」
そろーりとその場を離れ背中を向けた途端、蒼は猛ダッシュで逃げ出した。停めていたママチャリに飛び乗ると、車にも追いつきそうな速度で消えていく。
咲は存外落ち着いた様子で自席に戻り、蒼の姿が消えていった方をしばらく眺めていた。
「やはり、蒼さんがライバル……」
「そう言うわけじゃないと思うけどな」
話の内容を知らない咲の呟きに、一応否定をしておく。
それから結局蒼については何も分からず、俺たちはカフェを後にするのだった。




