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Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~  作者: 落光ふたつ
第4話「五分前」
24/63

#2

「よう」


 小学校から家へと帰る道の途中だった。

 ほぼ毎日通る河川敷。その緑の坂から、粗野な声を投げられた。


 そこにいたのは、見ず知らずのオッサンだ。


 身長は170㎝ちょっとで筋肉は若干ついていて髪は少し短め。凡庸な特徴の中年男性と言った感じで。

 ただ一つ印象的だったのが、どことなく疲れて見えた瞳。

 今座っているのも、何かを中断して休んでいるように見えて。

 だからだろうか。

 怪しさの塊な相手に対して俺は、安心と言うか、親近感じみたものを得ていたのだ。


「ちょっとこっち来て、話さないか?」


 ポンポンと隣を叩かれ、誘われるがままオッサンの横に腰を下ろす。


「それで、どうだ?」


 曖昧過ぎる問いに俺は応えなかったと思う。

 返って来た無言に、オッサンは思わずと言った様子で噴き出していた。


「悪いな適当な質問で。そうだな……なんか、学校で楽しいこととかあったか?」


 具体性を持った問いに、それならと俺は無邪気に返す。

 何気なく、他愛無い話。

 クラスメイトの初めて知った一面だとか、教師が言い間違えた言葉が面白かっただとか。

 小学生らしく思いついたことを勢いで語って。ちゃんと伝わったとも思えないのに、オッサンは嬉しそうに相槌を打っていた。

 ひとしきり話題が尽きたところで、今度は俺からもオッサンに、何か面白い話はないのと尋ねた。


「んー、笑える話はないかもな」


 応えられない自分を恥じるように苦笑する。

 悲しそうな眼だ。その感情が不意に、自分の胸の内にも流れ込んだ気がして。

 それからオッサンは口を閉じ、川の方へと視線を向ける。

 この日常を噛みしめるように、遥か彼方を見つめていて。

 そして少しして、ポツリと零したのだ。


「幸せを見つけたら、離すなよ」


 助言のような言葉ながら意図が分からず首を傾げるも、オッサンは構わずに続ける。

「離れて行かないよう、その手でしっかりと握るんだ」

 俺に語り掛けながら、悲し気なその瞳は、空虚な自分の右手を見つめていた。



 この言葉がどういう意味だったのか、高校生になっても未だに分かっていない。

 それでも俺は、今も忘れないでいる。



「……っ!?」

 突然、オッサンが立ち上がった。

 そのせいで先ほどの助言の理由も聞けず。

 必死さを思い出した形相は、河川敷の上、歩道と車道の境が曖昧な道へと向けられていて。


「エ、ミ……」


 何を見ているのか気になり振り向いて、俺はそこに一人の女性を見つけた。


 黒髪ショート。


 年齢は、高校生から成人ぐらいだろうか。その容姿はなぜか、ハッキリとしない。

 後でどれだけ思い出そうとしても、モヤがかかったようにボンヤリしていて。


 でも、目が離せなかった。


 妙な胸の高鳴りすらあって、これが一目惚れだったのだろうか、と今は思う。

 そんな風に俺が固まってしまっていると、隣で地面を蹴る音がした。


「待ってくれ……ッ!」


 焦がれる声。それにつられて手は伸び——



 パッ、と。



 あまりにも一瞬のこと。

 オッサンと、目の離せなかった女性。

 二人は目の前にいたはずなのに、途端に消えていた。

 そして、代わりにとばかり俺が道の上で立ち尽くしている。


「……あれ?」


 まるで直前まで夢を見ていたような感覚があり。

 伸ばしていた右手をしばらく眺めて、奇妙な喪失感を覚えた。



 不思議な出来事。

 この日のことは、今でもよく思い出す。

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