#6
体育の授業が終わり昼休みに突入。
授業開始前に夜風から、人目の付かない所に来いと言われたのだが、具体的な場所を指定されていなかったので行くに行けず。
すると当然のように体育館を出てすぐ、夜風の怒り混じりの視線を感じた。
けれど彼女は近づいてまでは来ず。
その理由は多分こいつなのだろう、と俺は並んで歩く友人との関係性を見出し始めていた。
「あのっ、どんな幼少期を過ごされてましたか?」
教室に戻る道中。明らかにおかしな口調で問いかけてくる蒼。前の授業にも散々質問責めされたのに、俺の情報はまだ足りないらしい。
「別に普通だと思うが……」
「ヤンチャでよくケンカしてたとか。逆に根暗で、世界を滅ぼしたい、とか考えてなかった?」
「ねーよ。なんだその例は」
挙げられた二択を否定すると、相槌を打つ蒼の表情は何とも言えないものになっていて。
「なあ。そろそろ何で色々聞いてくるのか教えてくれないか? 夜風ともなんか関係あるんだろ?」
「なななないよっ!? 色々聞くのも、興味があるから聞いてるだけでっ!」
あからさまな動転は、嘘と言っているようなものだ。とは言えどれだけ問い詰めても、蒼の口は固く真相を語ろうとしない。
その強情さになんとなく、咲の求婚理由もそうだったなと思い出し、俺の胸にはモヤモヤが加算されていった。
そうしている間に、男子更衣室にもなっている教室へと辿り着く。
するとその途端、蒼の体が固まった。
「………っ」
「どうした?」
「い、いやぁ」
教室に足を踏み入れれば、体育終わりで着替える男子ばかり。
蒼はまるで男の肌を視界に入れないようにと足下に視線を固定して、それから早足で自席に戻ると速攻着替え、教室を後にする。
「ぼ、ボクっ、ご飯買って来るねっ!」
言い残し去っていく蒼の顔は、なぜか若干赤らんでいた。
……ほんとに蒼なのかアイツ?
疑いは、現実的でない方へとも伸びていく。
なにより毎日弁当を手作りしていた蒼が購買なんてありえなかった。常に金欠だからどんなに忙しかろうが安くすませていたはずなのに。
怪しい。けれどクイズのように誰かが答えを明かしてくれるわけではない。
悶々とした感情のまま、俺も周囲に倣って体操着を脱いでいく。
別の更衣室で着替えている女子も戻ってくるので、男子は変なプレッシャーを背負いながらせかせかと着替える。
男子だって肌を見られたくない。羞恥心を刺激されないよう速やかな行動をしている者が多数の中、不意に数人のどよめき声が聞こえた。
それは教室入口から徐々に波及し、上裸の俺まで打ち寄せてくる。
「三付比良人……ッ!」
その声を聞き、なるほどと不在の隣席を見る。
蒼がいなくなったのを見てやって来たらしく、夜風は怒り顔で詰め寄ってきていた。
けれどある程度想定出来ていた状況に、俺は驚きなくとりあえずカッターシャツへ袖を通し、正当な言い訳をぶつける。
「言っておくが、お前が場所を指定しなかったから行けなかったんだからな?」
「じゃ、じゃあ今っ! 今ついてきて!」
勢いのまま夜風は俺の右手首をガシッと掴み、体をグイっと引っ張って。
「お二人で、どこへ行くのです?」
連行される直前、第三者に夜風の手首も捕まれ、俺の体勢は崩されずに済んだ。
ただ、第三者と夜風の接点からは、ギシギシと骨がきしむ音が鳴り始め。
「イタタタタッ!?」
「なんだか最近、妙な動きが目立ちますが、一体どういったご用件でしょうか?」
咲がニコリと問いかけるが、夜風はそれどころではないと叫び散らす。
「イタイイイタイイタイッ!」
「わたくしを差し置いて比良人さんに手を出すなんて……」
珍しく静かな怒りをあらわにする咲は、よりその握力を乱用した。
「助けてぇえ!?」
痛みに耐えかねた夜風はついに助けを請い、無意識に俺の手首も解放していた。
とはいえ、咲の憤りは収まらず、俺はつい口を出してしまう。
「……咲。そのくらいにした方がいいんじゃないか? 夜風、泣いてるぞ?」
「……イタイ、タスケテ……」
目を虚ろにし、左手だけが吊るされているように膝を地に着ける夜風。その様を見せてやると、悪気はなかったとばかりに咲は手を離した。
「あらすみません」
支えがなくなった夜風は、疲弊の余りそのままうつぶせに倒れ込んでしまう。俺は側にしゃがみこみ、息はあるかと声を掛けた。
「あー、夜風? 大丈夫か?」
「み、三付比良人……っ。あ、あたしについてきてっ」
力尽きながらも同じ文言を吐く。これほど連行したい用事とは一体何なのだろう。
俺は思わず同情で頷きそうになり、しかし咲が割って入った。
「わたくしもついていきますわ」
「ヒィイ!? 近づかないでぇえええ!?」
夜風はすっかり咲を恐怖の対象と認識し、また涙を流しながら必死に逃げ出す。安全圏を求めて、教室の外まで出て行ってしまった。
その情けない背中を見送りつつ、咲は俺を見る。
「比良人さん、気を付けてください」
「気を付けるって何を?」
「ご自身の身を、ですわ」
そう告げる咲の瞳は真剣そのもので。しかし俺は何の心当たりもないから頷けず。
反応に構わず咲は、いつものように昼食の準備を始めた。
「それより、わたくしの求婚はいつ受けてくださるんですの?」
「い、いや、まだ結婚出来る歳でもないしな?」
苦手な話題に切り替えられ、バツが悪く答えを濁す。そうして問い詰められながら弁当を食べ始めていると、蒼が戻ってきた。
彼は男子更衣室ではなくなった教室を見渡しホッとして、それから買ってきた総菜パンを自席に置いて座る。
そして、こちらを見てきた。
「ボクも、一緒にご飯食べていいかなっ?」
「……いいけど」
いつものことを今更確認する友人をやはり奇妙に思っていると、彼は自席を俺の席とくっつけてきた。
「今日は席、くっつけるんだな」
「えっ? あれっいつもくっつけてないっけ?」
「わたくしに気を遣って、距離を置いてくださっていましてよ?」
「あ、あー。そう言えばそうだったなー」
咲の指摘に蒼は誤魔化すも、さすがに下手な演技で俺でも見抜ける。
それからも、何かが変わった友人は、やはり俺を質問責めにしてくるのだった。




