#5
蒼の様子がおかしいのは翌日になっても続いていた。
休憩時間に急に飛び出すことは減ったが、その反動とばかりに俺への凝視の圧が増している。
それに加えて、あからさまな違和感が一つ。
「……っ。は、はぁっ」
「お前、どうしたんだ?」
「い、いやっ、何でもないんだけどねっ?」
次の授業は体育。そのため教室で着替えていると、蒼はやたらと周りを気にして顔を真っ赤に染めていた。
何も異性がいるわけではない。教室を使っているのは男子だけで、女子の更衣室はまた別に設けられている。
それなのに彼の反応は、羞恥に苛まれているかのようで。
蒼はなぜか、皆が制服を脱いで上裸になる中、一人だけ席に座って動かないでいる。俺が体操服姿になった後も変わらず、「先に行ってて」と送り出された。
訝しくは思うものの、別にわざわざ待つほどではないかと俺はさっさと体育館へと向かうことにする。
すると、
「三付比良人……!」
廊下で夜風が立ちはだかっていた。
今までは恐らく蒼に妨害されていたからだろう。俺を前にした彼女の瞳は、待ちわびたとばかりに興奮しているようにも見えた。
「何の用だ……?」
正直、感情的な相手とは関わりたくはないが、さすがに聞かざるを得ない。
周囲には同学年の生徒も複数いて、異様な雰囲気で向き合う男女に好奇心で視線を寄せている。
その注目は夜風も煩わしいようで、話し声が聞かれないようにと顔を近づけて言った。
「ここじゃ人目多いからついてきてっ」
そう誘われるもとっさに拒絶する。
「いや、今から授業だし」
「そんなのどうでもいいでしょ!?」
当然の主張を理不尽に怒鳴られるが、流されるわけにもいかない。何のために学校に通っていると思っているんだ。
頑として授業を優先する姿勢を貫けば、夜風は苛立ったように歯噛みしていて。
というか、夜風ってこんな性格だっただろうか。
元々話す方ではなかったし記憶は明瞭でないが、もう少し大人しかったような気がする。
とは言え断言は出来ないでいると、夜風が別案を出してくる。
「じゃ、じゃあ。ジュギョー終わってからでもいいからっ」
「……何をそんな切羽詰まってるんだ?」
「せ、せぱ? あんまむずかしい言葉使わないでよッ! とにかくジュギョー終わったらね!」
一方的に告げると、夜風はそそくさとその場を去っていく。その後ろ姿を眺めていると彼女の友人が現れ、「また授業サボろうとしてなかったー?」と教室に引き戻していった。
嫌そうにする夜風の声を聞きながら、俺ははたと気づく。
……どこ行きゃいいんだ。
来いと言われたが場所を指定されていない。とは言え、こちらから聞きに行くのも気が乗らない。
……まあまた来るか。
楽観的にそう結論付け、俺は体育館へと急いだ。
そもそも怪しいのだから、出来るならついていきたくはないのだが。




