#4
授業が少し長引いていてクラスメイトは密かに文句を交わしていた。教師はその不満に気づきながらも、関係ないとばかりに教科書を読み上げている。
隣席の蒼も、チャイムを聞いた辺りからやたらとソワソワしていて。
「ハイじゃあ今日の授業はここまでな。ちゃんと聞いてただろうな? 私の授業では復習はしないか——」
「きりーつ」
そうしてようやく日直の号令が発され、数分遅れで授業が終わる。
「なあ蒼、」
自由になって真っ先に俺は、蒼へ声を掛けようとしたのだが、しかし既に隣は空席で。
「三付比良ひ——」
不意に夜風の声が聞こえて振り向けば、廊下からやってきたその体が、あっという間に蒼にかっさらわれていくところだった。
状況の処理に一時思考が停止して。
相手を失った言葉を引っ込めた俺は、どうしようもなく再度机上のそれを見つめるも、やはりわけがわからんと嘆息吐くのだった。
「あら、ため息なんてどうされたんです?」
「……いやまあ、蒼はどうしたのかねぇ、と」
昼休みに突入し、咲が弁当を持って近くの椅子を借りて座る。俺と咲との関係性が知れ渡っているから、周囲の同級生は気遣って席を貸してくれるようになっていた。
俺も昼食の準備をするため、机の上に広げていた教材を引き出しにしまっていると、咲が問いかけてくる。
「ところで比良人さんは、授業中、蒼さんとコソコソ何をやっていたのですか?」
その瞳はまるで浮気を疑っているかのようで、別に何をしていても裏切りではないのに、俺はなんとなく引け目を感じてそのままに話す。
「別に、ただ質問攻めにあっただけだよ」
証拠にと、しまいかけていたノートの切れ端、両面びっしりに問答が書かれた俺と蒼のやり取りを見せた。
「……ふむ。何やら比良人さんの将来についてばかり聞かれているようですが?」
「ああ。理由聞いても、なんとなく、としか書かないし、わけわかんねぇよな」
最後の一文は、『ゴメンもう大丈夫』と一方的に締められていて。
具体的に直接聞こうと思ったのだが、当人がいなくなってしまい諦めるしかなかったのだ。
「将来……未来、ですか……」
「ん? なんか心当たりあるのか?」
「いえ。夢はわたくしと家族になる、でもあてはまるのに、なぜ書かなかったのかと」
「夢じゃねぇからだっ」
何かあるのかと咲を見れば、返って来たのは相変わらずの発言。それにいつものようにつっけんどんに返しながら、今日も食事を共にしている。
そんなチグハグな自分に呆れつつも、やっぱり答えを出すのは後回しにしていて。
腹を満たし終え、余った時間は取り留めのない会話を繰り広げる。
「そう言えば、蒼さんと夜風さんが抱き合っていたという噂を耳にしましたわ」
その発言に俺は先ほどの、蒼が夜風を連れ去った光景を思い出す。担ぎ上げるようではあったが、抱き合っていると取れなくもない。
「ついに付き合いでもしたのか?」
多分違うのだろうと理解しつつも、そんな推測を口にして。
結局俺は、なんだか時を待っているかのように、何もしないままだった。




