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Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~  作者: 落光ふたつ
第2話「夜風繋」
15/63

#7

 終礼を終え帰り支度を整えていると、隣席の蒼が話を振って来た。


「今日、夜風さん変だったよね」

「ああ。何だったんだろな一体」


 ある授業中、突如俺を探していると叫び現れた夜風繋。目は合ったはずだが、俺に気づかず彼女は別の教室へと向かって行った。

 顔見知りぐらいではあると思っていたが、どうやらそれは俺だけだったようで。

 あれからしばらく経つが、教室内で飛び交う噂によれば、夜風は学校中を走り回り、挙句校長室にまで押し入ったのだとか。


「本当に心当たりないの?」

「ねぇよ。むしろお前こそ、夜風から何か聞いていないのか?」

「えっと、最近は話してないから分かんないかな……」

「そうか」


 話題に出ないと思えばやはり関わりが減っているようだった。教室が違えば話しかけるハードルも上がるのだろう。


「まあ探してるならまた来るだろ」

 俺はそれ以上は会話を広げず、堂々と構える姿勢を見せる。対して蒼は、どことなく不安や疑念のような感情を拭いきれないようだった。


「比良人さん、帰りましょうっ」

 離れた席の咲が準備を済ませてやってくると、蒼が俺たちに気を遣うよう立ち上がる。

「じゃあ僕はこの辺で」

 今日もバイトで忙しいのだろう、早々に蒼が片手を上げた——その時、


 ——バンッ!


 教室後方の戸が勢いよく開かれた。

 デジャブを感じた光景はまさに記憶のままに、同じ者の姿を映す。


 夜風繋。


 相変わらず鬼のような形相。右手は何かを持っているのか背中に隠していて。

 そしてハッキリと、俺を睨みつけていた。



「三付比良人ぉおおおおおおおッ!」



 大絶叫を上げ、夜風繋が一直線に飛びかかってくる。思わずギョッとなった俺は体をのけぞらせ、突然のことで思うように動けなくなった。

 一体何をされるのだ、嫌な想像がいくつも浮かび、けれどそれは鋭い声にかき消される。


「てぇえええいっ!」


 咲の裂帛。

 その声を原動力にするように、長い右足が蹴り上がり。

 それは、飛びかかる夜風繋の浮かんだ両足を高くすくい上げた。


 夜風の下半身は跳ね上がり、上半身はシーソーの要領で急降下。

「んげぇッ!?」

 結果、夜風繋は奇妙な断末魔と共に顔面を床に強打した。

 遅れてぼとりと下半身が落ち、それから気絶したのか動かなくなる。


「夜風さんっ!?」


 クラスメイトたちも動揺している中、真っ先に駆け寄ったのは蒼だった。彼はすかさず夜風繋の体を起こし、意識の有無を確認している。

 しばらく呆然としていた俺は、一人だけ全く気にした様子もなく悠然と足を下ろす幼馴染に引きつった顔を見せた。


「お前、やりすぎじゃないか……?」

「比良人さんの身の危険を感じましたので、止むを得なかったかと」


 悪気はないとばかりにそう言う。

 危険を感じたのは確かにそうだが、しかし真実も分からない内に伸びてしまった相手を前に、助かったと感謝はしにくい。

 だから俺は褒め言葉のようでそうでないため息を吐いた。

「お前、すっかりたくましくなったな……」

「腹筋が割れてからトレーニングは抑えていますわ」

 前は走るのも苦手だったのに、今はその頃の面影は一切ない。


 などと幼馴染の変化に想いを馳せるのはいささか場違いかと、俺は誰よりも早く負傷者の介助を行っていた蒼に声を掛けた。


「蒼、夜風は大丈夫そうか?」

「ああうんっ! 多分ね!?」


 俺の接近に急に驚いた蒼は、慌てて何かを足の裏に隠す。その様子を不審に思いつつも、蒼が手当てを再開したので追及はやめておいた。


「……もしかして、関係してるのかな?」


 大量に垂れ流す鼻血をポケットから出したティッシュで拭き取りながら、蒼は何やらブツブツと呟いている。

 その意味はよく分からなかったが、とりあえずと俺は提案する。

「救急車呼んだ方がいいんじゃないか?」

「だ、大丈夫だよ! いやっそうでもないかもしれけど……た、多分大丈夫」

 煮え切らない発言に俺がまたも首を傾げていると、その疑問を遮るように、蒼は声高らかに胸を張った。


「とにかくっ、夜風さんのことは僕に任せてっ!」


 それから、いそいそと気絶した女子を背負う蒼。

 その小柄な体に見合わず筋力はあるため苦労した風はない。とは言えその筋力を身に着けた要因のバイトは、今日もあるはずだ。


「お前、バイトあるんじゃないのか? それなら俺は手、空いてるし」


 現実的に状況を判断したつもりで、俺は手を差し伸べたのだが、その行いは予想に反して背後から肩に置かれた手に止められる。


「……比良人さん、気になる相手が無防備な状態でいるのを、他人には任せられませんわ。……それに、蒼さん自身もやりたい放題ですしね?」

「別に変なことはしないよ!?」


 間違った同情を笑みにして浮かべる咲に、蒼は慌てて否定する。

 とは言え夜風の介抱を譲るつもりはないらしく。

 ここで引き止めればなんだか邪魔者みたいになりそうだったので、咲の言葉を鵜呑みにした俺は引き下がることにした。


「そ、それじゃあ頑張れよ」

「男気を見せるところですわよ蒼さんっ」

「だから普通に手当てするだけだから!」


 咲のアドバイスを律儀に訂正しつつ、蒼は負傷者を背負い去っていった。

 一部始終を見ていたクラスメイトたちも騒ぎの原因がいなくなると元の時間を取り戻し。

 俺と咲は一応、騒動で乱れた椅子と机の位置を直して、いつも通り、一緒に帰宅したのだった。

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