#5
二年生になって、二か月ほど経った頃だろうか。
授業と授業の合間の休憩時間。トイレから教室へと戻っている俺は、歩く廊下の先に久しぶりの顔を見つけた。
夜風繋。
俺自身はそんなに関わりを持っていなかったが、蒼が気になっているというので若干の興味を抱いていた女子だ。他クラスになってから初めてその姿を見たような気がする。
彼女は、去年もよくつるんでいた友人と楽しそうに会話をしていた。見る限り、見た目にも変化はない。
そう言えば、蒼は何からのアクションを起こしているのだろうか。最近は彼からも夜風の名前を聞いていない。
などと関心はあるものの、さすがにここで声を掛けに行く間柄でもないしと、俺は何の反応もせずにすれ違う。
直後だった。
「どしたっ? 大丈夫っ?」
焦った声を発したのは夜風の友人。
思わず気になって振り向けば、力が抜けたかのように傾く夜風の体が支えられている所で。
体調でも悪いのかと思ったが、夜風はすぐに立ち直り「だいじょうぶ」と告げていた。
「それより今って、」
夜風は友人に語りかけながら、近くにいた俺が気になってか一瞬だけ目が合う。
その時俺は、なんだか妙な違和感を覚えた。
けれどその感覚は、瞳が見えなくなるとすぐに消え、俺自身も深く考えることではないかと判断し、その場は教室へと向かうのだった。
この時のことは、なぜか記憶に残っている。
特別に不思議な出来事ではない。ちょっとした疑念で当時もすぐ忘れていたのに、あとで思い返してみれば、鮮明な光景で映し出せた。
教室に戻った俺は、寄り道もなく自席へと座る。
隙あらば求婚してきていた咲は、最近ずっと浮かない顔でぼーっとしている。
その表情は、中学の時から何度か見たことはあったが、特にこの数か月は日に日に憂いが増しているようだった。
一応は、俺が見ていると気付けば微笑みかけて寄ってくるのだが、無理をしているようにも思えて、俺はそれとなく視線を向けないようにしている。
更には蒼も、俺に話しかけてくることが減っていた。
この前の席替えで隣同士になり、物理的な距離は近くなったのだが、なぜだか最近になって彼は読書にのめり込むようになり、ほとんどの時間、顔を上げもしない。
それに、文字を追う眼差しは楽しんでいるというよりも真剣で。
読んでいるジャンルを大別するなら、サバイバル系や科学関連。本人曰く「なんか必要な気がして」とのことだが、意図はよく分からなかった。
それぞれに、変化が訪れている。
その兆しをハッキリと感じながら、俺だけは、何をすることもなく授業の開始を待っていた。




