#4
「いやぁ、二年生になっちゃったねぇ」
しみじみと言う蒼に、俺も共感して頷く。
「ほんと時が経つの早いよな。まあ今年もよろしくな」
「うん、よろしくね」
と、男同士で友情を交わしていると、仲間外れにするなと割って入る声。
「ちょっと比良人さん、わたくしにもよろしくしてくださいなっ」
咲はむくれた顔で自己主張をしてきて。
そんないつもの様子に呆れながらも、俺はつい口元を緩めていた。
今年のクラスはこの二人と一緒だ。俺の友人勢ぞろい。
結局俺は、この一年間で他に交友関係を築くことは出来なかった。高校生とは言えやはり、咲との噂があれば近づこうとする生徒はいなかったのだ。
幸いと言っていいのか、二人も友人は少ない。
咲は一人仲良くなれた人物がいるらしいが今は他クラスで、わざわざ別教室まで足を運ぶほどお互いに過干渉ではないようだ。
蒼に関してはアルバイトで毎日忙しいため、誰もが遊びの誘いを遠慮して関係を作れなかった。俺は遊びに誘うこともなく休憩時間中の会話で満足していたから、気軽な付き合いを続けてこられていたが。
俺としては、二人がいれば授業で組を作らなければいけなくなった時に頼りとなる存在が出来て嬉しいばかりだ。
ただ蒼は、クラスメイトに物足りなさを覚えているようで、それを察して俺はからかってみた。
「残念だったな、夜風いなくて」
「い、いや別にっ」
「あら、蒼さんには好意を抱いているお方がいらっしゃるのですね。でしたらわたくしからクラスを変えてもらえるよう、教員に掛け合ってみましょうか?」
照れた様子の蒼に食いついた社長令嬢が発した気遣いに、俺は一応と忠告を挟む。
「金は使うなよ……」
「はい使いませんわ。そもそも金銭の場合は引け目を感じる人も多いものですが、物ですと多少和らげますし。加えて価値基準も曖昧になりますから、そちらの方が何かと都合が良いのですよ」
「そういうのも金って言うんだ!」
一般人の価値観をどうにか教え直すが、咲は理解していないふりをして蒼に「どうします?」と再確認している。優しさのつもりらしいが、さすがの蒼も「遠慮しておくよ」と引き気味に断っていた。
「お前、このクラスに入るのも賄賂渡したんじゃねぇだろうな?」
「失礼ですわ。一緒になれたのは偶然、いや運命ですわっ。それに、比良人さんはグイグイ攻めても全くなびいてくれないことは分かっております」
などと諦めている風に言いながら、腕に抱き着こうとしてきたので即座に避けた。
咲の成金ぶりは、中学時代に比べて落ち着いている。そもそも全てが俺へのアピールのためだったらしく、彼女は割と常識的に、無駄な浪費は嫌うようだった。
ストイックと言うかなんというか。線引きはしっかりしている。
そのせいもあってか、今も求婚の原因であろう『占いのようなもの』については、神楽咲家を守るためと明かされていない。
そんなことを思い返していると、始業のチャイムが鳴り始めた。
「朝礼始まっちゃうね」
「ああっ、比良人さんと席が遠いのは悲しいですわ」
「ははっ。出席番号順はどうしようもねぇだろ」
「いえ? わたくしたちの間の方々がいなくなれば、近づけますわよね?」
「怖いことはすんなよ!?」
「ほらほら二人とも、先生来ちゃってるよ」
蒼の言葉で我に返り、俺たち三人はそれぞれの席へと戻る。
高校二年生。
今年も平穏に……なんてことは、あるはずもなかった。




