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#06

 せっかく一緒に映画を見てきたので、翌日からその時に感じたこと告白の言葉にして送ってみた。


――『感受性が豊かなところに惹かれた』で、どうかな?

『いい映画でしたね。でも、涙をボロボロ流していた夏目君の感受性には勝てません。ハンカチではなく、タオルを用意していくべきだったと反省しています』


――『ご飯を美味しそうに食べる』は?

『それも単なる感想です。食べているところを真剣な顔で見られていたので、食べ過ぎているのかと心配になりました。女性を見る時は気を付けてください。……でも、私を見ていたくなる気持ちなら理解できますね』


 高峯凛花を納得させる告白が出来る気がしなくなる。


――中学の時、僕は告白出来なかったけど、もし告白してたら何を言うつもりだったのかな?


 告白できなかった相手は、別のクラスではあるが今も同じ高校に通っている。彼氏になった男は不合格になってしまい、別の高校に通っていた。

 入学した当初は廊下で擦れ違う時も複雑な心境にさせられていたが、今は全く気にしていない。高峯凛花への告白を考えている内に、本当にその子のことが好きだったのかさえ分からなくなっていた。


 そして、学校で文化祭の準備を終えて片付けをしていた時、


「夏目君、ちょっといいかな?」


 その相手、榎本聡美が僕たちのクラスに来ていた。高校に入学してからは初めて話をするが、話し掛けてくるとは思っていなかったので少し焦ってしまった。


「えっ?……何?」

「うん。明後日って、アルバイトあるのかな?」

「明後日?……明後日はお店が休みだから、バイトはないけど……」

「そうなんだ。良かったら、皆で一緒にプール行かない?」

「プール?……僕も?」


 榎本聡美は明るい顔でウンウンと頷いていた。あまりにも自然に、僕に何をしたのかも忘れている態度で誘いに来ている。

 本命と付き合えることになった時、彼氏になった男から「夏目と仲良いよな?」と言われた榎本聡美が「あっちがしつこいだけ」と言ったことも僕は知っていた。


「せっかく同じ高校に通ってるんだから、遊びに行きたいなって思ってるの」

「……そうなんだ」


 僕は一緒に遊びに行きたいとは思っていない。ただ、同じ中学だった男友達も傍にいて「暇なら行こう」と言ってくる。そんな状況に嫌悪感があった。


 僕が黙って聞いていると、少し離れた場所で掃き掃除をしていた高峯凛花が視界に入ってくる。高峯凛花はホウキで床を掃いたり、ホウキで床をトンと叩いたりを繰り返す。

 その動きは一定の法則を持っていて、僕はすぐに理解した。


――イ、ツ、チ、ヤ、タ、゛、メ。……『行っちゃダメ』?


 何度もホウキでモールス信号を送っていたらしい。ホウキで遊んでいるように見えてしまう高峯凛花の動きを見ていて笑いそうになってしまった。学校では完璧な美少女で周囲の目を気にしている高峯凛花には珍しいことになる。


「……ゴメン、やめとくよ。誘ってくれてありがと」


 嫌な気持ちも吹き飛ばされて、軽く断ることが出来た。残念そうにしてはいたが榎本聡美たちも諦めて、引き上げてしまう。


 だが、後日その話を高峯凛花にしてみたところ、


「私は掃除をしていただけですよ」


 と言われてしまった。


「えっ?……何度もやってたから『断れ』って言ってるのかと思ったんだけど?」

「夏目君の錯覚ですね。私が夏目君の行動を制限する必要なんてありませんよ?」

「でも、正確に文字変換できたんだ」

「ちょっとホウキで遊んでいただけです。文字に置き換えるつもりなんてなかったんですから偶然ですね。……お店でもモールス信号を聞いてるから、夏目君の感覚がおかしくなってるんですよ」

「偶然なのか?」

「そもそも、夏目君が何を話してるのかも聞いてなかったんですよ」

「……そっか。あの距離で聞こえるわけないよな」

「ですが、行かなかったのは正解ですね。危うく夏目君のランクが落ちてしまうところでした」

「どうしてランクが落ちるんだ?」

「だって、フラれた相手に未練があるみたいじゃないですか?そんなのはランクが落ちてしまう原因になります。夏目君のランクが下がれば、私に告白してくる人のランクも下がるので迷惑ですね」


 珍しく苛立ったような話し方だったが、聞いている僕自身も同じことを考えていた。もし榎本聡美の誘いを受けるようなことになっていたら、自分のことを嫌いになっていたかもしれない。

 その点では高峯凛花の存在に感謝していた。


「確かにね。……それに、僕を誘いに来た時に同じ中学の男友達も連れて来てただろ?あれが断り難くするためしているようで、ちょっと不愉快だった」

「そうなんですか?」

「高峯さんは僕の弱味を握って脅してくるけど、誰かに頼ることはしてない」

「……すごく人聞きは悪いんですけど、否定はしません」

「あの時、榎本さんが一人で誘いに来てくれていたら、もう少し迷ったかな?」


 僕の言葉で高峯凛花は少しだけ不機嫌になる。


「迷う必要はありません。……あっ、もしかして水着姿が見たかったんですか?」

「だから、それは誤解だって」

「いいえ。例え告白の練習でも普通は女の子にあんな言葉を送ったりしませんよ。夏目君は「おっぱい」好きです」


 言葉が思い浮かばず、不用意に送ったラインをいじられ続けてしまう。


「それに、彼女より私の方が絶対に大きいと思います」

「……そうかな?」

「夏目君は、私への『コレ』が足りていないんだと思います」


 そう言いながら高峯凛花は自分の「目」を指差していた。


「『見る目がない」って言いたいの?」

「……もういいです」


 今日の高峯凛花は機嫌が悪いと感じていた。ただ、ホウキの信号が錯覚であったとは考え難く、高峯凛花の行動が理解出来なかった。


――それに誘われたのがプールって知ってるじゃないか……


 よくよく考えたら、『水着』が出てきた時点で気付くべきことである。



 そんなことがあった数日後に高峯凛花から話があり、


「3日後の勉強は中止です。……友達と遊びに行くことになりました」


 と聞かされた。別に意外なことでも何でもない話で、友達と一緒に買い物に行ったりしていることは何度かある。


「そうなんだ。……勉強が中止ってことは、ラインも送らなくてもいいんだよね?」

「えっ!?最初に心配するのはソコなんですか?」

「違うの?……それなら、『どこ行くの?』とか?」

「遊園地らしいです。……でも、質問するのはソコでもありません。『誰と行くの?』って聞かないと意味がありません」

「誰と行くの?……って、友達でしょ」

「他のクラスの男子も一緒なんですよ?」

「まぁ、遊園地とかならそうなるだろうね。高校生の夏休みに女友達だけで遊園地はないと思う」


 すると高峯凛花は不満気な顔で考え事をした後、僕を見て言った。


「……怒ったりはしないんですか?」

「怒る?……どうして?」

「先日、榎本さんの誘いを断ったじゃないですか。それで私が遊びに行くなんて」

「断ったのは僕の意思だよ」


 ホウキで送ったモールス信号を錯覚と言っておきながら、そのことを気にしているあたりが「やっぱり見間違いじゃなかった」と確信させてくれる。

 僕は高峯凛花への抱いている感情の変化もあったが、高峯凛花も最近は何かが違っているように感じていた。


「やっぱりやめておきます。ちょっと面白くありません」

「どうして?……せっかく誘われたなら行けばいいのに。高峯さんも店の手伝いばっかりで、あまり遊びに行ったりしてないでしょ?」

「それなら、夏目君の次の休みに遊びに行きましょう」

「どうしてそうなるの?」

「あっ、『おっぱい』が大好きな夏目君だとプールに行きたいんですか?」

「はぁ?」

「でも考えてみると変なんです。……夏目君は『太もも』か『お尻』が好きだと思っていたんですよ」

「どうしてそうなるんだよ」

「私が授業中に『太もも』の上で指先を動かしていたんですよ。それをジッと見ていたなら、『太もも』か『お尻』好きなはずなんです」

「それは指先を動かしてた場所の話でしょ?関係ないよ」

「それなら、やっぱい『おっぱい』好きなんですね。……でも、いやらしい目で見られたくないのでプールはダメです」


 これ以上、余計なことを口にしてしまえば、僕はどんどん変態にされてしまう。僕は高峯凛花の胸に注目している男にされているのかもしれない。


「……そんな目で見ないって」

「えっ?いやらしい目で見てくれないんですか?……せっかく明日は水着で勉強してあげようと思ったんですけど、それならやめておきます」

「見られたくないんでしょ?」

「はい。見られたくありません」


 結局、その話の真意は分からないまま、一緒に遊園地に行くことになった。

 僕としては、高峯凛花には別の男友達と遊びに行ってほしいと思っていた。僕が彼氏になれないことは確定しており、僕が告白をした時点で今の関係は終わってしまう。そんな日を迎える前に気持ちの準備をして慣れておきたかった。



――『一緒にいることが当たり前になってしまった』……、かも。

『少しだけドキッとしました。でも、告白をする前の気持ちを維持することの方が大切なんですから、『当たり前』と思って油断してはダメなんです』


 その日に送ったラインの返事は、いつもと少し違うダメ出しになっていた。告白の言葉を注意されている感じではない。

 僕としては、現状に対する単なる感想になってしまっていたので「これは告白の言葉ではありません」と返信があると予想していた。ところが「ドキッとしました」となっていたことに驚かされる。


 ただ、その言葉は僕の本心であり、押し殺しておくべきものだったかもしれない。

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