7、部外者からの干渉
アイリス視点
バイトの時間だ。
とはいっても、前の薬屋はクビになった。
子どもなりに頑張って働いて、そこそこのお金を貰えていたが、結局それもダメになる。
あの薬屋は金払いが良かったのに、クララのせいでまとめてつまみ出されることになってしまった。
いつもそうだ。
ある程度仕事を続けた所で、必ずクララは何かする。
ドジで抜けているのは知っているが、それにしたって仕事となると一段抜ける。
ずっとボーっとして、小さい子みたいに手がかかる娘だ。
アレンと私以外の子には話しかけもしない。
心配で仕方がない。
同い年なのに私がお世話しないといけないんだ。
でも、嫌というわけではない。
彼女の世話は私がする事が当たり前になっていたし、一緒にいて嫌だった事より、楽しい事の方が多い。
だから、離れるのも、飢えさせるのも嫌だ。
私が働かないと他の皆も、クララも死ぬかもしれない。
私のする事は決まっていた。
働かないと飢えるのだ。
今日は、ちゃんと仕事をさせてくれる所を見つける。
クララと一緒なら、必ずクララがやらかすから、アレンのように私だけの仕事場を探す。
「…………」
で、どこに行こうか?
正直、どこに行っても駄目な気がする。
色んな所で仕事をしてきたけど、子どもとあって渋る所は多かった。
ここで躓くのはいつもと同じだ。
けど、いつもはクララが雇ってくれそうな優しそうな所を見つける。
悩んでしまう。
薬屋は駄目だった。
道具屋と、武器屋と、肉屋も駄目だ。
どうすればいいのだろうか?
シスターも言っていたが、無理なら教会で家事をしてもいいのだ。
仕事を任せられる年齢になったとはいえ、まだ子どもだ。
なかなか了承してくれる所も少ない。
むしろ、これまでのクビになってはまた働きだすという、クララとの時間が異常だった。
う〜ん、本当にどうしようか?
大体の店は回った気がする。
下町から、普通市民が住む本町に行けばもっと店があるけど、孤児が行っても煙たがられるだけだ。
明らかに怪しい店は流石に行けないし、他の所も雇われてクビになった後だった。
教会に戻ってもする事もない。
ある程度の家事は小さい子に回さないと覚えないし、私があの子たちの仕事を取る訳にもいかない。
なら、祈りを捧げるくらいか。
シスターから聖職者の才能があると言われていても、実際に成れるのは十五歳からという年齢制限がある。
今したいのは、修行ではなく仕事だ。
本当にどうしたものか……
「あれ?」
この道、見た事がある。
というか、この辺り一帯が、なんというか知っている気がする。
まだ働いたことのない、雇ってもらえそうな店を探して遠くまで来たのに。
なんというか、知っている。
「あ、そうだ!」
私はポケットにしまっていた、クララの紙を出した。
広げて、しっかり見る。
朝にちらりと見ただけだったから、今まで分からなかった。
凄い、コレ街の地図になってる!
孤児院を中心にして、危ないから行ってない路地までぎっしりだ。
いくつかあるバツ印が目立つが、本当に忠実だ。
それにしても、何でクララがこんな?
いや、別に今それは良いだろう。
重要なのは、これを使ったら働けそうな所を見つけられるかもしれないという事だ。
アレンの字もあるから、彼の知っている情報もある。
バツ印の所は多分、もう働けなくなった所。心当たりがいくつかあるから、おそらく間違いではない。
そして、まだバツ印の付いていない、お店っぽい場所は……
「そこの君」
「ひゃっ!」
突然後ろから声をかけられた。
若い、男の人の声。
ゆっくりと後ろを振り向くと、
※※※※※※※※※※
アレンとクララは、アイリスを探していた。
二人で話をしている間に、もう出かけたというアイリスを聞いて、飛び出していくように後を追う。
二手に別れ、近くをクララが、遠くをアレンがという形になった。
時間が経過し、昼になろうというかという頃合いだ。
アレンは走る。
もしもアイリスが紙を持っていたら、そしてそれを誰かに見せてしまったら、と。
クララの予見はおそらく当たる。
バカ正直に答えれば、孤児院はどうなるか分かったものではない。
やはり止めるべきだったと今更後悔した。
残念なことに、利が分かっていたのだ。
この情報を孤児院で伝えていけば、誘拐される弟妹たちが減るはずだと信じた。
見た事があるのだ。
昔、兄貴分だった少年が孤児院に戻らず、悲しむシスターの姿を。
そして、その彼は後日、死体として発見された事を。
クララを危険に晒すこともどうかと考えたが、彼女は自分とは違うから、と。自分はどうなっても大丈夫だから、と甘えてしまった。
まさか、危険が他に飛び火するとは思わなかった。
走る
焦る
走る
とにかく、早く見つけなくては、と。
こんな事はもうしない、と心に誓い、走る。
走って、走って、走って、それから……
「あっ!」
見慣れた金髪を見つけた。
間違いない。
目当ての少女に違いなかった。
「アイリス!」
汗を流して、必死になって、叫ぶ。
見たところ無事だが、まさかはあり得るのだ。
恐怖と焦燥で心を揺らしながら、一秒でも早く辿り着かなければ、と走る。
これまで、曖昧にしかしてこなかった祈りが初めて真剣なモノになった気がした。
「……アレン?」
その声を聞いて、緊張が解けた。
ゆっくりと止まり、膝に手を付き、息を荒らげる。
アイリスを見る余裕はなかったけれども、もう焦る必要がないと分かると、どうしようもなくホッとした。
「アレン、そんなに焦ってどうしたの?」
「はあ……はあ……、いや、ちょっと、聞きたい、事が……」
「もう、ちょっと落ち着いてから喋って。どうしたのよ、本当に」
これまでにない様子のアレンを気にかける。
こんな引きずり回るように走り回る人ではないのだ。
よほどの事が起きたのか、と思うアイリスであったが、アレンの上がった顔を見て落ち着いた。
安心しているような顔が、なんとも言えない。
本当にどうしたのか、と疑問だけが彼女の中で募った。
「アイリス。君、紙を見なかったかい? 色々書き込んでる地図みたいな」
「え、う、うん。ていうか、持ってるけど……」
「…………! 誰にも見せてないよね?」
アレンはガッとアイリスの肩を掴む。
声こそ小さく抑えていたが、迫力は満載だ。
思い切り怯えるアイリスであったが、疑問の方が勝ったために何とか答えた。
彼、いや、彼らにとっては微妙な事実を。
「見せちゃった……」
「! だ、誰に見せたの!?」
「騎士様……?」
その答えに顔を歪めるアレン。
手遅れだったか、という絶望ではなく、どうすればいいのか、という思い悩み故である。
騎士?
何故騎士?
どういう状況なのか?
いや、はじめにやる事は……
「とにかく、一度孤児院に戻ろう。後で説明するから……」
クララに相談しなければならない。
アレンは状況が呑み込めず、呆然としていたアイリスの手を引きながら歩く。
今どうなっているのか、状況が良いのか悪いのかも分からなかった。




