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77、憎悪の炎でその身を焼いて

遅れました


 何もかも、事態は人間の思い通りにはいかない。

 それを思い知ったのはいつの日か?


 目の前で少女の体の大部分を斬られた時?

 その少女が手足を斬り落とした犯人の家を殴り込みに行った時?

 歳下の少年少女の才能に恐れ慄いた時?

 

 いつかは分からない。

 でも、僕はずっと知っていた。自分などよりもよほど凄まじい人間たちが居て、彼らが作り出す流れから抜けられないと思い知った。

 化け物はどこにでも居る。

 僕程度の力では、どうにもならない事はいくらでもある、と。

 

 だから、僕は鍛えた。

 限界の限界の、さらに限界の果てまで、全てを使い果たして倒れるまで己を虐めた。勿論、仕事がある日はそちらを優先したが、何もない日は必ずそうした。

 取り憑かれたように体を動かした。

 クララたちが居なくなってからもそれは変わらず、むしろ彼女らに会う時間が減った分酷くなったように思う。

 がむしゃらに強くなろうと足搔いて、これまでの鍛錬では決して生まれる事のなかった熱が宿った気がした。

 

 何故そうしたのか?


 問われればこう答える。

 自分が情けなかったからだ、と。

 

 自分が大した事はないと知っていた。

 クララという埒外の化け物と比べれば、僕はなんと浅く、下らないことだろうか。

 彼女が何かをしようとしている、努力を重ねているのは知っていた。会うたびに身に宿せる神聖力の量は大きくなっていったし、扱いも上手くなっていた。

 強くなっていった。

 なのに、僕が何もしない訳にはいかない。張り合うつもりはなかったが、彼女が脅威に備えているのに、僕が胡座をかいている暇などないと知ったんだ。


 それから、僕は戦った。

 彼女のような化け物を相手にしても、それでも僕が勝てるように必死になった。

 思えば、怖かったのかもしれない。

 あの日見た、圧倒的な暴力の片鱗を恐れた。


 そうやって時間を過ごしている内に、あっという間に王国最強なんて言われた。

 天才だなんだと言われもしたが、本物の天才を見てきた僕からすれば笑い話にもなりはしなかった。

 クララだけではない。彼女の隣に居たアイリスの神聖も、アレンの成長も、僕という人間を上回ったものでしかなかった。

 だから、常に僕は上を見続けた。


 

『どうしてそんなに頑張るの?』



 それを最初に言われたのはいつだったか?

 多分だけど、同僚の誰かだったと思う。

 頑張るのは確かに苦しかった。周りの誰よりも努力してきた自覚はあるし、その分周りの誰よりも苦しかった。 

 でも、関係ない。

 あの子どもたちに追い越されないようにするには、これくらいはしないといけない。

 ふとした瞬間に思い出すのは、クララの暴力。触れたものを誰彼構わず切り刻むような、恐ろしい刃のような力。

 あの危うさを見れば、あの脅威を見れば、止める人間が居ないのは危険だと思うだろう。もしも彼女が何かを求め、暴走したのならば、誰かが止める人間が居なくてはと思ったんだ。


 彼女なら、何でも壊せる。誰でも殺せる。

 もしもの時のために、僕は備えないといけない。もしもが起こった時に、彼女を止めるために備えないといけない。

 僕の方が早く生まれ、天才だ何だとおだてられてきたというのに、怠けている間に差を埋められるなど情けなすぎる。

 そんな事は許されない。

 僕自身がそれを許せない。

 そう思ったのは、間違いなく理由の一つだ。


 だから、強くなった。

 ずっと上を目指してきたから、ずっと強くなろうとしたから、ずっと追い抜かれたくないと思ったから。

 必死になって、頑張ってきた。



『どうしてそんなに頑張るの?』



 ………………



 それを()()に言われた時、改めてどうしてか考えた。

 どうしてこんなに頑張っているのか?

 何がたのしくてこんな事をしているのか?


 義務感を覚えていたのは昔の話だ。

 今となっては彼女らと距離が出来て、思い出すという過程を経なければいけないくらいの時間が経った。

 あの頃も、僕は自分を磨き続けた。

 記憶が薄れて、理由を忘れていたとしても、何ら不思議ではないはずだ。でも、僕はずっといつでも変わらない、いやなお多くの努力を重ねた。

 強くなった分、かなり無茶が効くようになったから。僕は高みを目指し続けた。

 

 剣はより速く、魔術はより強く。

 右に出る者はいない、という段階はとうの昔に過ぎている。それでも、僕は高めることを止めなかった。いつでも鍛錬、どんな時でも修行、ありとあらゆる状況は自分を強くするためのチャンスでしかない。

 僕の生活に休息はない。

 鍛錬の時間も休息というか、休息が鍛錬というか。

 もう訳が分からなくなるほど鍛えた。

 僕の動作には無駄というものは一切なくなった。


 いつだったろうか?

 どこかの誰かに、『最も美しい騎士』だの『教本騎士』だと呼ばれるようになったのは。

 僕をお手本にして兵士たちは鍛えられ、僕をお手本にして魔物の対策をした。僕は誰よりも強くて、誰よりも上手だった。

 でも、考えたこともなかった。

『もういいんじゃないか?』なんて、ただの一度も。


 改めて理由に向き合ってみたのはそれが初めてだった。

 もはや生命活動と一緒だ。

 暑ければ汗をかく、寒ければ体が震える、生きていれば鍛錬をする。

 でも、一番始めの理由を考えてみれば、クララたちを追い越させないという理由の、そのさらに根底を考えていけば、落ち着いてみればすぐに思いついた。


 先も言ったが、情けないからだ。

 何もせずに追い抜かれ、追い抜かれたまま終わるなど、嫌だった。

 そう、嫌だった。

 成長した弟分や妹分に、『ああ、なんだこんなものか』と思われるのが嫌だった。


 思ったよりも、僕はカッコつけだったのだ。




 ダメだね……。僕は立派な理由なんて全部後付けのものだ


『それのなにがいけないの?』


 …………。騎士だからね。多くの人を助ける、立派な人間じゃなくちゃ


『そんなややこしい事を考えなくても……』



 

 カッコつけたい。

 自尊心なんて無かったと思っていたが、思ったよりもずっと強かったらしい。

 僕は自分の力を誇示したかった。

 凄いと思われたかった。

 誰彼構わず、見知らぬ者に凄いと讃えられたいと思いはしなかったが、少なくとも尊敬されたいと思う者には、力を見せつけたかった。



『私は、貴方を浅ましいとは思いません』



 彼女との出合いは、僕の人生の宝だ。

 

 違法奴隷を扱っていた闇商人。

 その倉庫にある薄暗い檻の中で、他の奴隷たちよりも綺麗に整えられていた彼女。

 他の、犯罪組織に押しかけた同僚たちに嘘を吐いて、彼女の存在を隠した。ずっと、彼女だけを見ていたくて、彼女に笑いかけてほしかった。



『何が目的なんです?』



 そんなことを言われた事もあったか?

 でも、意味と言われても惚れたからとしか言えない。だがまあ、そんな小っ恥ずかしい事を言える訳もなく、あの時は何か適当言って誤魔化したんだ。

 騎士をやりながら、彼女の事を守ってきた。かなり器用に過ごさなければいけない日々だったが、僕がそんな事でトチる訳がない。

 かなり上手くやってきた。

 でも、恋なんてやった事がなくて、彼女を隠しながら仕事をしながら養うよりもずっと難しかったんだ。

 だから、僕が彼女に恋してる事なんて、しばらく生活していたら簡単にバレてしまった。


 

『……話でもしますか?』



 それからお互いの事を話すようになった。

 どんな人生を送ってきたか、どんな事が好きとか嫌いとか、色々話すようになった。

 いつの間にか一緒に食事を取るようになった。

 時間が経つごとにどんどん距離感が近くなっていって、いつの間にか手を握るようになって、彼女のために騎士を止めたのは初めて同じベッドで寝た時だった。


 彼女に触れてから、僕はもっと違う感情を抱いていたように思う。

 強くなることが目的だった。

 それより先など考えたことはなくて、ただ強さだけを求めてきた。

 でも、強さは手段になった。 

 守りたい、などと思ったことはなかった。

 その存在がどれだけ世間に受け入れられないものだったとしても、僕は彼女を守ると決めた。


 月日は流れる。

 確か、彼女と出会ってから四、五年経った頃だっただろうか?

 騎士だった頃と比べればあまり良い暮らしとは言えなかったけれども、僕も彼女も満足していた。

 田舎の村で用心棒をして金を貰っていた。村人たちも彼女を快く受け入れてくれたし、順風満帆というか、不足のない人生を送ろうとしている最中だった。

 

 僕らの子どもが生まれた。

 雪が降りしきる冬の日。

 彼女は、僕らの愛の結晶をこの世に降ろしてくれた。

 僕はその時気が気じゃなくて、でも生まれたあとは笑顔を浮かべすぎて顔がツルかと思ったくらいだ。

 元気な女の子で、僕譲りの金髪をした赤ん坊。

 彼女があの子を抱いた時に、こぼした熱い涙はきっとずっと忘れない。



『良かった……貴方に似てる……』



 どれほどの想いが込められていたか分からない。

 ずっと、それこそ生まれた時から迫害の対象だった彼女の、子どもが自分に似てなくて良かったと言った彼女の、静かで濃い想いを推し量れない。

 彼女が愛おしくて、子どもが愛おしくて。

 彼女を、家族の事だけを考えるようになって。

 あの田舎で、僕は人知れず死にたかった。娘が独り立ちして、長い時間を彼女と人生を共にして、彼女を看取って、最期に人知れず死にたかった。

 英雄と呼ばれなくてもいい。山のような財宝も、誰もが羨むような地位も、一切合切必要ない。

 ただ、平穏を求めていた。

 なんでもいいから、幸せに、ただのんびりと、彼女と時を過ごしていたかっただけなんだ。

 でも、不思議なことに僕は鍛えることを止めなかった。

 彼女が不思議そうに、娘を腕に抱く中で、僕は手にした模造剣を振るわない日は絶対に作らなかった。

 予知していたんじゃない。

 あの日の事が分かっていたなら、もっと他に手を打っていた。

 ただ、予感していたんだ。

 きっとこんな日が来るだろう、と。



『なんで、こんな……』



 あの優しい村が滅びたのは、どうしてなのか?

 血と炎に包まれた景色を尻目に、僕は二人を抱えて必死に逃げた。全力で、かつてないほど強い『死』を感じながら、必死に走った。

 突如として現れた化け物。

 思えば、あの日は朝からずっと冷や汗が止まらなかった。なんとなく、アレを感じ取っていたんだと思う。

 間違いなく、アレが異端審問官だ。

 絶対強者のプレッシャー。かつて戦った誰よりも強く、圧倒的だった。その肉体から何まで、全てが只者ではない、凄まじく強い男だった。



『フハハハハハ! フハハハハハ!』



 その笑い声は雷のように轟く。

 行われた惨殺はえげつない。素手で、人体があっという間に引き裂かれる。

 野菜をくれた親切な老人、娘を取り上げてくれた女性も、村を走り回っていた子どもたちも、誰も彼も死んだ。

 しかも、誰も逃げられなかった。

 村をずらりと取り囲む、白いフードを被った人間たち。彼らが行く手を阻んで、男から逃げようとした村人たちを武器をもって切り裂いた。

 強さも相当なもので、抱えた二人を傷付けないようにするには、どうしても他を切り捨てなければならなかった。


 誰かの悲鳴が聞こえた。

 誰かの怨嗟が聞こえた。

 誰かの慟哭が聞こえた。


 誰も、何もかも救えなかった。

 男が身に付けていた、黒くて枯れた白磁草のブレスレットを覚えていた。



『私達は貴方たちの味方です』



 それから、彼らに声をかけられるまでは時間はかからなかった。

 彼らは教会に否を唱える組織で、神の打倒を目的としているらしい。僕たちの村に派遣されたあの男も、神の指示で動いている、と。

 確かにアレは異端審問官の証だった。

 そして、派遣された理由も分かる。

 


『貴方の家族も異端認定されているでしょう。どうです? 私達の仲間になりませんか?』



 頷くより他なかった。

 家族を守るためにはどうしても。


 彼らは戦力を求めていた。

 僕は彼らの眼鏡にかなう戦力を持っていた。

 それに、あの時の惨劇が、関係のない者たちが殺されるのは、本当に胸クソが悪かった。


 守るために。

 ただ、家族を守るために。

 けれども、



『これが、教会の真実です』



 アレを見せられれば、心から協力しようと思った。

 僕は彼らによって見せられたんだ。教会に、神によって引き起こされた、おぞましい地獄の数々。

 あの村の惨劇以上のモノばかり。血を見ない場面はなく、夥しい死体の上でしか終わらない。

 ある場面では燃えていた。

 あらゆるものが焼き尽くされて、灰になって、焼死体も残らない。

 ある場面では壊れていた。

 あらゆるものがその『力』によって潰されて、跡形もなくなっていた。

 あらゆる虐殺の場面が流れて、そこには必ずと言っていいほど、そこには黒く枯れた白磁草の装飾品を身に付けていた人物が居るのだ。

 

 一人はかつて見た大男。

 一人は真っ白な髪の女。

 一人は老獪そうな老婆。

 一人は好々爺とした男。

 

 コイツらを派遣したのが、元締めである神。

 人類最強の英雄として祭り上げられている神の使徒、異端審問官。

 逃げても、隠れても、奴らが地の果てまで追いかけてくる。何度だってあの惨劇が繰り返され、何もかもを壊しに来る。そして、僕が負けたときには僕の家族は絶対に殺される。

 

 震えた。

 絶対に逃げ切れないだろう。

 神の権能がどこまで届くか分からない。居場所なんて、今この瞬間も筒抜けかもしれない。そうでなくとも、一生アレから逃げられるなんて思えない。

 逃げて無駄なら、迎え撃つしかないじゃないか。

 こういう時のために、僕は自分を鍛えてきたんだ。彼女を迎え入れてから、僕はこの時のために強くなったんだ。


 それだけじゃない。

 教会にはアイリスが『聖女』をしている。

 あんなロクでもない所に、妹のように思っていた女の子がコキ使われている。人類のために命をかけろ、と強要されている。

 気付くのが遅すぎた。

 僕の戦いは既に始まっていたんだ。


 七年前のあの日から始まった。

 彼女を愛した日から激化した。

 今この瞬間、本腰を入れて戦うんだ。

 僕は覚悟を決めていた。家族を守るには覚悟を決めるしかなくて、現状を正しく受け入れた。


 だから、僕は協力したんだ。

 サルベ襲撃の時も、僕は全力で事にあたった。

 後戻りは考えたことはない。

 もう既に足は踏み入れていたのだから、もっと深くを歩くだけのこと。

 僕は神を倒すと決めていた。

 はじめは見せかけのために作り上げたものが、ただの意地で築いたものが、家族を守るために役に立っている。

 母の言葉を思い出す。

 弱い立場のものを考えろ、とは、最終的には自分が強くなって守れと言おうとしたのではないか?

 母は既に亡くなって久しい。だから真意はもう分からないが、僕はそう思うことにした。

 彼女を、娘を、妹分たちを守らなくて、いったい何のための力なのか?


 だから、クララ。

 そんな組織は抜けてしまえ。

 アイリスのためというのは分かる。心配だろうし、内部からの干渉なら一番自然に彼女を守れるだろう。

 でも、教会はダメだ。

 教会を手足として操る神によって、いったいどれだけの被害が出たと思ってる?

 どれだけの人間が殺されたと思ってる?

 サルベも、ほとんどが神聖術や魔術の実験のために捕らえられた、罪のない異端たちだ。捕まれば最後、おぞましい拷問の末に死ぬか、生体兵器として死ぬことも出来ずに利用され尽くされる。

 あんな邪悪は滅びるべきだ。

 君が、大切なんだ。



 宿屋に戻って、クララの部屋をノックする。

 すぐに『どうぞ』という言葉がして、すぐにがチャリと扉を開けた。

 見ると、クララは機嫌悪そうに足を組んで、眉間にシワを寄せながら座っている。

 確実に何かにブチ切れている。

 いつもなら、彼女に触れることなくやり過そうとするだろうが、今となってはそうはいかない。


 

「クララ」


「……フィリップさん」



 重苦しい声色だった。

 クララの声は特別高い訳ではないが、十七の少女が出すような声ではない。

 


「話があるならまたの機会にしてもらえませんか? 今ちょっと、考え事をしてるんです」


「済まない。火急だ。そのまま聞いてくれ」



 いつもなら押しに弱い僕が引く。

 それに、僕の真剣さを感じ取ったのだろう。いつもと違う感覚に、機嫌の悪さを少し抑えた。

 どうしたことか、と思っているのだろう。

 彼女はこういう時には聞いてくれる。

 ジャジャ馬で苛烈だが、人の話をまったく聞かないような利己的な人間ではないのだ。



「クララ、教会を抜けないか?」


「は?」



 分かっている。

 確かに意味が分からないだろう。

 急にこんな事を言われても、言った僕の正気を疑うのは間違ってない。けれども、本当に真面目に聞いてほしい。 



「クララ。教会は君が薄々勘付いている通り、良い組織ではない。むしろ邪悪そのものだ。英雄と讃えられる異端審問官たちは人々の虐殺もする」


「…………」



 言葉に熱意がこもった。

 真剣に説得しなければ意味がない。

 何でもいいから、あの映像を、組織が貯めてきた記録を見てもらわなければならない。

 一緒に来てもらわないと。

 あの地獄を、証拠を見せないと。どれほど教会がおぞましい悪事に手を染めてきたかを知ってもらわないと。



「僕の妻もそうだ。異端認定されて、そのついでで暮らしていた村を村民ごと全部滅ぼされた。罪のない人間も、虐殺されている」


「…………」


「とにかく一緒に来てくれ。アイリスもこのままじゃ危ない。神の手元に残しておくなんて、何をされるか」



 アイリスが大切なはずだ。

 きっとクララはこれで動く。

 僕の話を与太話と切り捨てるはずもない。ここまで言っているのに、動かないはずがない。

 クララなら分かってくれる。

 僕は彼女のことを信頼している。


 彼女が何もかもをアイリスに捧げようとしたのは、昔から知っているんだ。

 あの時は理解出来なかった彼女の想い、今なら分かる。愛する人のためなら、何を差し出しても構わない。その狂気にも似た感情は、ちゃんと分かってる。

 だから、頷く。

 時間がない訳じゃないけれど、準備の時間はあればあるほど良い。

 


「クララ」


「…………」


「クラ、ラ……?」



 思えば、彼女の顔はどこかのタイミングから俯いて見えなくなっていた。

 どんな顔をしているのか、何を考えているのか、僕には分からない。

 でも、おもむろに側に立て掛けていた巨大なメイスを掴んで、






 僕へ向けて振り下ろされた。






「!?」


「……避けた、か」



 危なかった。

 完全に油断していた。

 いや、それを抜きにしても振るわれた速度は恐ろしく速かった。

 分かっていたが、クララは只者じゃない。

 明らかに()()()人間の武器の扱い方だ。



「クララ?」


「まさか、貴方が異端だったとは」



 クララは胸元に手を突っ込む。

 本当にクララがしなさそうな動作だ。でも、今はそれに突っ込めない。

 いつもは無表情なクララでも、普段のような何かしら受け取れる無ではなかったんだ。

 その黒い瞳からは何も感じ取れない。

 恐ろしい、怪物の目をしていた。


 そして、胸元から首飾りが現れる。

 あの大男がしていたような、黒く枯れた白磁草の首飾りだ。



「異端は殺す」



 考えないようにしていた。

 七年前の時点で、膨大過ぎる神聖力を引き出し、その身に宿していたんだ。そして、神官として働いていた時点で、こうなるのは可能性としてはあった。

 でも、考えないようにしていた。

 絶対にそんな事はない、と根拠のない決め付け。そんな事はあってほしくない、という歪んだ裏返し。

 妹分と呼んだのは嘘ではない。

 大切な彼女と戦いたくないという願い。


 これまでずっと神を恐れていた。

 僕の家族を害そうとする超越の存在を、僕は強く恐れる他になかった。

 でも今は、



「神の、御心のままに」



 初めて、神を憎悪した。


面白ければブクマ登録お願いします。

下の☆を埋めていただけると嬉しいです。

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[良い点] フィリップさん主人公の物語があるなら、悲劇以外の何物でもないな…
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