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5、イタズラ



 アイリス視点



 冬の日の朝。

 

 息を大きく吸ったら胸がズキズキするくらいに寒い。

 布団の中にずっと入っていたいのだけど、頑張って引き剥がして起きる。

 そうしないと、シスターのお手伝いができない。


 孤児院はいつも十人だけ。

 なんでも入ってくるお金から考えて、これ以上子どもを増やしたら生活ができなくなるらしい。

 昔、悲しそうな顔をしたシスターから聞いた。

 それに、十五歳を過ぎたら自立しないといけないから孤児院を去る。

 去年は二人出ていったのだが、それで私たちは最年長になったのだ。


 だから、まだ小さい妹や弟たちの手本にならないといけない。

 そのために、先ずは私たちが早くに起きてシスターの手伝いをする。

 それに、いつも頑張って私たちを育ててくれてるシスターの負担を少しでも軽くしてあげる。

 ちょっとでも楽ができるように、私たちには頑張る責任があるのだ。


 ちなみに、私たちっていうのは私以外の最年長。

 アレンとクララの二人。

 

 アレンは落ち葉みたいな茶色の髪の、背が高い男の子だ。

 力が強くて、落ち着いた性格をしている。

 どんなことも率先してやってくれるし、私と同じで他の弟妹たちを指示したりして、色んなことを教えてあげたりもする。

 皆が頼りにしてる、素敵なお兄ちゃんって感じだろう。


 クララは夜みたいな黒色の髪の、小さい女の子。

 いっつもボーっとしてて、何を考えてるのかよく分からない。

 でもでも、嬉しいと嬉しそうにして、怒ってるとムスッとする。 

 無表情だけど雰囲気で分かりやすい。

 歳は同じでも、何となく手がかかるところが、アレンと違って妹みたいに思わせる。


 そんな二人だが、



 「おーい!クララ、起きて!」



 アレンは既に起きていたみたいだ。

 布団はすでに畳まれており、彼の姿はどこにも見えない。

 きっともう働きに行ったのだろう。

 本当に頼りになる男の子だ。


 だが、もう一人はそうでもない。



「おーきーてー!私たちが早く起きないでどうするの!?」



 まだ他の弟妹たちが眠っているため、あまり大きな声は出せない。

 小さい声の範疇をでないように、できるだけ大きな声で呼びかける。

 揺さぶって、叩いて、布団を剥がそうとするのだが、ビクともしない。

 普段は力が弱いくせに、この時だけは怪力を発揮する。

 


「あと、あと五分………」



 寝ぼけた声が布団の中から聞こえてくる。

 ホントにこの娘はどうしてこうマイペースなんだろう?

 


「は、や、く、お、き、な、さ、い!」


「ふみゃっ!」



 全力で布団を引っぺがすと、ようやく姿を現した。

 今日はクビになった働き口をまた探さなければならないというのに、クビになった原因がいつまでも寝ているとはどういうことか?

 ホントに誰のせいでこんなことになってると思ってるんだか。

 自力でちゃんと起きなさい。

  


「あれ?」



 布団からガサリと何かが出てきた。


 これは、紙?

 何かがビッシリと書かれた紙。 

 場所と、バツ印と、小さな文字が埋め尽くしている。

 なんでこんなものをクララが?


 文字がまちまちにしか読めない私は、この紙に書かれた内容が難しすぎて読めない。

 クララのきれいな字と、誰かもう一人の丁寧な字が、目がチカチカするほど細かく刻まれている。

 クララの字はいつも見ているから分かるが、もう一人はアレンだろう。

 字を書けるのはシスターとクララと、彼しかいない。


 私ではコレが何か理解できない。

 でも、クララもアレンも頭が良い。

 彼らにとっては意味のある何かなのだろう。

 


(……取り敢えず返そう)



 そう思ったところで、気付く。

 クララは未だに寝転がりながら眠い目をこすっていた。

 朝に弱い彼女は、まだ前が見えいないようだ。

 

 そこで、ちょっとした腹いせを思い付いた。


 彼女はこれを隠していた。

 きっと大切なものに違いない。

 そうでなければ、わざわざ肌見離さないように布団にまで持ち込むなんてしないだろう。



 なら、返すのはちょっと待つ



 きっと大慌てになる。  

 慌てふためく彼女もちょっと見てみたい。

 これまで散々迷惑かけられたお返しと、可愛らしい彼女を見たいという好奇心だ。

 後でちゃんと返して上げるから大丈夫だろう。

 アレンにも迷惑をかけるかもしれないが、ちょっとしたイタズラは許してくれる。

 だから大丈夫だ。

 


 お姉ちゃんのカワイイいたずらである。  

 


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