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46、俺は


 翌日


 リョウヘイが手も足も出ずに叩きのめされてから一つ日を跨ぐ。

 日が高くなり、腹が空き始める頃だ。

 場所は同じく第六鍛錬場。二人で使うにはやや広すぎる程度だが、使う二人は常人ではなく超人だ。広すぎるくらいが丁度いい。

 

 その内の一人、リョウヘイは緊張した表情で敵を見た。

 真っ赤な赤い髪に瞳をした、獰猛な獣を思わせる男だ。獲物は槍で、間違いなく魔槍。穂先が薄く紅く光るそれは、距離を取っているリョウヘイからも感じ取れる力がある。敵自身は自然体に近い形で構えており、それでもリョウヘイには隙があるようにはまったく思えなかった。

 彼は最強の槍使いの二つ名を継いだ天才、カイル。『勇者』の存在に待ったをかけていた、リョウヘイの敵だ。


 彼は獰猛に笑いながら、リョウヘイへ話しかける。完全に挑発していると分かる口調で。



「よく逃げ出さなかったな」


「…………」



 その後には、あれだけ力の差を見せつけられたのに、と続きそうだ。

 

 だが、リョウヘイがそれに乗ることはない。

 嘲笑と挑発の裏には、カイルの完璧すぎる体捌きが見えていたからだ。少しでも心を乱せば、その時点で自分は勝負という土俵を降ろされる。

 心身ともに万全も万全。絶好調の状態でなければ、初撃で組み伏せられる。絶好調でも初撃でそうなる可能性が高いのだから、何とも不平等だ。



「みっともなく逃げ出して、俺を切り捨てりゃ良かった。俺みたいな生意気で使い難い駒ぁゴミ箱にポイが正しい判断だったぜ?」


「…………」


「わざわざ俺に付き合わなくても、俺の代わりにお前と戦ってくれる奴はごまんと居る。痛い思いもしなくていい分、そういうのを探した方が良い」



 遠回しに、今からでも逃げろ、と言う。

 自分を勇者一行から除名するように、しつこいくらいに訴えているのが分かった。

 彼の狙いがどこにあるのか、その意思を向けられれば誰が見ても明らかだろう。それくらい、あからさまで露骨だ。



「もう勝負は見えてる。こんなことしても、時間の無駄だ」



 肩をすくめながら、過分なほどの警戒をその目に宿しながら、カイルは言う。

 言葉と口調と、体と意識がまったく合っていない。粗雑さと神経質さが入り混じり、リョウヘイから見ても奇妙に思えるほどだった。

 昨日まではあれほど怖かったというのに、もはや滑稽にすら見える。



「悪い事は言わねぇ、さっさと降参しな。俺が本気になればお前なんぞ……」


「やかましい」



 流石に、我慢出来なかった。

 あれほど恐ろしかったのに、あれほど凄まじかったのに、今はまるでそれを感じない。

 なんという体たらくだ。リョウヘイはカイルの威圧感も、凄みも、とても薄く感じる。

 カイルに対して、敵に対して、格上に対して、彼は深い失望を覚えていた。



「何をそんなに、腐ってやがる……?」


「あ?」


「ゴタゴタ言ってないで、かかってこい。叩き潰してやるよ、バカ野郎」



 リョウヘイが挑発仕返してきたことに戸惑いを隠せないカイル。

 意味が分からなかった。

 挑発なのに、間違いなく言葉に真味が込められている。嘘ではないことが、その失望が示している。

 カイルは挑発になど乗りはしない。だが、ここまで言われて黙っていられるほど気の弱い男でもなかった。


 睨むだけで人を殺せそうなほど鋭い視線だ。その剣幕をリョウヘイだけに向ける。



「誰も望んじゃいねぇぞ、そんなの……!」



 カイルの拒絶は、誰もが想定内だ。

 彼はずっと『勇者』に協力することを否定している。彼は仲間にしたいのなら力ずくでやれと訴えている。そして、力の差は誰もが分かっている。

 だが、リョウヘイの顔を見れば止める気はないと分かる。戦うつもりを隠さない彼の、闘志に満ちた表情が見えた。

 カイルは槍を初めて構える。彼とて、ここで引くつもりは毛頭ない。戦いが始まれば、全力で倒しに行くだろう。



「悪いな。『聖女』様はお望みだ」   


「テメェ……!」



 リョウヘイは、鍛錬場の少し外に佇む白い少女を指差した軽い調子で言う態度と、手を振る白い少女は、カイルの神経を刺激する。

 冷静さは失ってはいないが、思い通りにならない現実に思うところはある。

 カイルは内心、予想外のリョウヘイの態度に戸惑いはあった。だが、今はもうそんな感情はない。望み通りに力の差を分からせる気でいた。


 お互いがお互い、構えを崩さない。

 この決闘に合図は存在しない。だから、いつ誰が仕掛けたとしても問題はない。

 そして、



「来いよ」


「…………!」



 リョウヘイの言葉で、カイルから動いた。  

 一切無駄な力を込められていない、美しいとすら思える歩法で詰め寄る。彼の愛槍は真っ直ぐに伸び、流麗とすら思える自然な体運びで、石突きが放たれた。

 それはリョウヘイの胴体に突き刺さって、腹の中身を口から吐かせる事になるだろう。今のリョウヘイには避けられない、超一流による攻撃だった。

 だが、



「…………!」


「俺はな、お前には勝てないよ」


 

 地面が凹んだ。

 そのまま右足を踏み出そうとしたのに、左足がぬかるみにハマったように動かない。完全に予想外の現象に、そちらに目を向けてしまった。

 油断だ。何よりも先ずはじめに、回避を選択しなければならなかった。そうでなくとも、敵から目を離してはいけなかった。



「技ではな」


「…………!」



 寒気がした。怖気がした。

 本能が訴える危機感知に従って、カイルは槍を全面に押し出す。突きの動きを直前まで取っていたために対処が遅れたが、彼の才能が防御を間に合わせた。

 槍の柄がリョウヘイの剣に当たる。

 そして、そのまま押し込まれた。



(重い!)


「俺自身は大した事なくても、俺の中にある『勇者』の力は強いぞ」



 カイルは冷や汗を流す。

 まるで大型の魔物と戦ったような凄まじいパワーだ。これが直撃していれば、油断から最低限の魔力しか纏っていなかったカイルなら内臓までダメージを受けていた。

 そして、リョウヘイが力を解放してから見えるのは、圧倒的なエネルギーだ。カイルの内包する力の、数百倍か、それ以上かもしれない。



「!」


「舐めるな、甘ったれ野郎」



 ※※※※※※※※※※


 これから最強となる『勇者』リョウヘイ。

 彼にはあらゆる武芸が、教え込まれている。

 武芸は別段今と変わらない。体の効率的な動かし方や、剣術、その魔力による肉体の強化方、素手での戦闘まで、基礎的なことは全てだ。

 

 英雄としてあまりある武を持つ男、リベリオから徹底的にである。

 彼の指導と『勇者』の資質は、何も出来なかった子どもを、最低限の力を持つ剣士にまで成長させた。彼を『勇者』として育て上げるため、必要な部分は全て伝えようと、周囲の人間たちは努力している。


 剣術と体術を、昼にリベリオから

 そして魔術を、夜に異端審問官、『法王』ルシエラ・カルトリーラから教わっていたのだ。



『お主はいつもそれを付けろ』



 一人の老婆が語る内容を、リョウヘイは一言一句忘れた事はない。というより、忘れればその分鍛錬の内容を厳しくされるのだ。

 リベリオは優しく、丁寧に教えてくれる。出来なければ理由をあげ、改善するように根気強く教育にあたっていた。


 だが、ルシエラは違う。

 出来なければ出来るまでやらされるし、その間も次の課題が押し寄せるという教育だ。出来ないとは絶対に言わせないし、出来ないなら出来るまでやれ、という鬼畜ぶりである。


 そして、その鬼婆はあいも変わらない無茶難題をふっかけた。

 曰く、力をセーブしろ、と。



『お主は戦闘時以外、その枷を外すな』



 ルシエラはリョウヘイに術を施した。それは、魔術の十ある階梯の内の、上から四番目。ほんの一握りの人間しか扱う事の出来ない、結界術。


 第七階梯の魔術『魔滅結界・集』


 凄まじい技術で行われた封印だ。

 第七階梯を構築するのに、本来ならば熟達した魔術師が数人がかりで行わなければならない。それをたったの一人で、腕輪ほどのサイズにまで縮小して、しかも、()()()()()()()()が行っているのだ。

 人類には不可能と言い切れる技術。

 勿論、外せと言われて外せるものではない。

 


『いや、外せないんですけど……』


『たわけ。お主が自力で解くには半年早い』



 半年後には出来るんだ、というリョウヘイのつぶやきは無視される。

 ルシエラは事実だけを淡々と語る。



『お主の中には膨大なエネルギーが蓄えられておる。それを適当に使うだけで、大概の敵は粉砕できよう』



 エネルギーが多ければ、それだけ強い。

 熟練になれば如何に少ないエネルギーで敵を削り、どれだけ余力を残すのかが鍵になる。戦闘の経験が多い者は、自分の攻撃を通す方法も、敵がしてくるだろう攻撃の対策も十分すぎるほどに行っている。だから、必然的に量が多い方が有利だという話だ。もちろん、込められたエネルギーが低い攻撃が、高い攻撃を上回らせるのが熟練だ。有利なだけで、それ以上ではない。

 だが、実力の低いものは持ち得る自身のエネルギー量に頼った戦い方をする。適当に撃っても、ただ力をぶつけるだけで対処しきれるからだ。弱い力で強い力を制する技量がないからだ。

 

 そして、リョウヘイは後者である。



『じゃが、それでは成長せん。お主が少ない力で最大限の効果を発揮できるよう、ワシの方で制限をかける』


『それがコレ、ですか……』


『そうとも。それを付けている間、お主の力はワシが創った術式の中にストックされる。ほとんど一般人と変わらん程度には抑えられよう』



 リョウヘイは腕輪のようなソレを見る。

 術式についてはルシエラから教わっている彼だったが、何をしているのか全く分からない。レベルが違いすぎて、何一つとしてだ。

 分かることは、その術が奇跡にも近い魔術ということだけ。やれと言われても、絶対に再現出来そうにない。

 だが、効果の方もルシエラの言う通りだ。

 自分の力が腕輪を通して、どこか遠い所へ運ばれているような感覚がする。特別な喪失感はないが、自分の一部が分けられた奇妙な感覚を味わった。


 ルシエラは顎に手を当てながら、リョウヘイを観察するように言う。



『お主の筋は悪くない。最近取った弟子と比べれば格段に……大幅に……随分……それなりに劣るが、悪くはない』


『ひど……オブラートに包んで言おうとしてる分、余計に酷く感じる……』


『アレらが天才なだけじゃ。気にするな。お主が上の下か、上の中あたり。上の上の上の事を考えても頭が痛くなるだけじゃ』



 

 何とも微妙な言葉だ。

 アイリスに弱音を吐いたのは、ルシエラの態度も大きい。同じくルシエラに師事する者も居るというが、まだ見ぬ兄弟弟子たちと比べれば劣ると言われるのだ。さらに、ルシエラ本人も理解が及ばないほど強い。


 あれ? ひょっとして自分っていらないのでは? 


 と思うのも仕方がなかった。

 何とかやってこれてはいるし、今の時点でも魔術については一人前程度には成れている。

 成長速度については文句なしの早さではあるが、それを聞かされても、絶対に追いつけそうにない者も居るのだ。



『俺は、強くなれますか……?』


『たわけ。このワシが鍛えているんじゃ。あと一月すれば、一流程度には仕上げてやる』



 凄まじい自信だ。

 そして、その自信には実績が伴ってきたものであると分かる。

 老婆は老獪に笑いながら言う。



『力を制御さえ出来ればお主は最強じゃ。制御せずとも、振り回せば辺り一帯を塵に出来る力があるんじゃからの』   



 ※※※※※※※※※



(クソ! フザケやがって!)



 カイルは内心で悪態をつく。

 その原因は語るまでもない。めちゃくちゃで、とてつもない『勇者』のせいだ。

 そのめちゃくちゃさにさしものカイルも苦戦を免れず、本来ならば一瞬で終わるはずの攻防は一進一退にまで引き下がっていた。


 リョウヘイの戦法はシンプルだ。  

 魔術で足止めをし、肉体を強化して力いっぱい殴る。

 魔術には工夫もへったくれもない。ただ適当に魔術を使えば鍛錬場いっぱいに効果が現れる。肉体を強化すれば一撃で地面が割れるほど強烈な力を得る。

 雑に力を使うだけで、それで終わりだ。

 


「チィ!」


「えりゃああ!」



 リョウヘイの動きには荒さが多い。カイルのように、無駄を極限まで削ぎ落とした美しさすら感じる体捌きではない。行動に移るまでに生まれる予備動作は丸見えで、達人と呼べる人間なら楽に対処できる。

 だが、その身体能力は圧倒的だった。

 仮に魔物に肉体勝負を仕掛けたとしても、勝つのはリョウヘイだ。種族的に強いのは絶対に魔物であるはずなのに、その理すらも壊す。



「爆……!」



 さらには、リョウヘイには魔術もある。

 いわゆる初歩魔術、第三階梯以下しか使えないが、そんなものは関係ない。頭が悪いほどの魔力を込められているそれは、威力をもう二段引き上げる。


 第三階梯『エクスプロージョン』


 火を拡散させ、爆発を引き起こす魔術だ。

 並の魔術師が使えば人を一人吹き飛ばす程度の殺傷性だが、リョウヘイなら起きるのは大爆発である。爆風だけでカイルの姿勢が崩れる。



「バカみたいな力の使い方しやがって!」



 効率性など度外視だ。

 やたらめったらに力を注ぎ込むだけで、それで十分すぎるほどに強くなる。


 最適のタイミング、最適の速さで槍を振るカイル。

 ほとんど直線的な動きのリョウヘイを予測するのは簡単だ。爆炎を槍を振るった風で振り払い、向かってきた敵にジャストで薙ぎ払いを放った。

 直角に動きが曲がり、リョウヘイは壁に叩きつけられる。

 だが、即座に動きを補正してカイルの方へ最短のルートで向かった。

 

 カイルの攻撃が堪えた様子はない。

 硬い槍の柄がしなるほど素早く、力を込めて振るわれたというのに、それがほぼノーダメージ。魔力で肉体を強化するにしても、硬すぎる。

 何度目か分からない舌打ちをしながら、カイルはリョウヘイの対処にあたる。



「おおおぉぉお!」


「てぇりゃああ!」



 切り上げる剣と、振り下ろす槍。

 

 穂先と刃がかち合った。

 ギャリ、という金属音が響き渡り、とてつもない圧力が発生する。

 途中で止まって拮抗するが、これはカイルの技だ。

 切り上げる行為自体が振り下ろしに比べて力が出にくい上に、その技術によってリョウヘイの力を逃している。合気に近い、エネルギー操作込みで行われる妙技だった。


 はじめて、会話の機会ができる。

  


「何でそんなに、腐ってんだよ!」


「ああ!?」



 言葉で敵を惑わす術があるのは知っている。

 挑発、裏切り、騙し討ちと色々あるが、挑発はさっきお互いが使った。

 カイルは乗るつもりなどないが、それでも言葉を返さずにはいられない。



「嫌だ嫌だってガキみたいに言いやがって! それでも『槍王』なんて大層な名前継いだのか!?」


「っ! テメェに何が分かりやがる!? 俺の人生は、三つの時からずっと決まってんだぞ! 訳わかんねぇ野郎のために命使い果たせって言われて、ハイ分かりましたって従うクソ使命だ! そんなもん、嫌に決まってんだろうが!」



 カイルはリョウヘイの剣を弾き飛ばす。

 それから、まるで短剣のような速度で突きを放った。リョウヘイには速すぎて、少なくとも一部は被弾覚悟をしなければならない。

 だが、リョウヘイの肉体に込められたエネルギーと、カイルの愛槍のエネルギーとではリョウヘイの方が圧倒的に多い。当たっても、少し刺さる程度だろう。

 それがリョウヘイには許せない。


 肩に一発、鎖骨に二発、脚に一発。

 拙い剣で防いだが、急所には当たっていないのだ。


 

「だったら、俺のことボコボコにして役目から解放しろって言えばいいじゃねぇか! これはそういう決闘だろ!」


「テメェが力ぁ出しやがるから出来ねぇんだよ! そこまで言うなら手ぇ抜けコラ!」



 頭にくる。

 なんと温い事を言うのだろうか?


 カイルは、リョウヘイが恐怖を感じた槍使いだ。 

 その技量はゾッとするほど美しく、鋭かったあの動きをする人間が『手を抜け』という。

 そんなものじゃないはずだ。そんな弱い言葉を吐かないで欲しいと思うのは、憧れたからだ。

 

 そんな相手が立ち止まっているのなら、後ろから押してみようと思うのは間違ってはいないはずだ。

 だからリョウヘイは言葉を尽くす。

 槍と剣が交差しながら、言葉は川の流れのように止まらない。

 


「ふざけんな! 手を抜けなんて言うなら、お前が全力出せばいいだろうが!」


「!」



 第一階梯魔術『ウィンド』


 ただ風を生み出すだけの魔術だ。

 全方位へ向けて、竜巻のような爆風が吹き荒れる。

 カイルはその風を、エネルギーを槍で切り裂いて対処し、致命打にはなり得ない。

 だが、風を切るという動作には、意識と力をかなり割く必要があった。その小さな隙に詰め寄ることも、リョウヘイの身体能力なら可能だ。

 最速で距離を潰し、振り下ろしを柄で受けさせる。



「お前、本気出してないだろ? 使ってる魔力は、全体の中でほんの二、三割だ。気が付かないとでも思ったか?」


「…………」


「口では嫌々言いながら、完全に負ける気じゃねぇか……! ふざけんな!」



 カイルは全力を出していない。


 ただの一度もだ。

 リョウヘイが力を見せる前も、後も、今この瞬間も。最小限の力だけで戦っている。

 カイルがきちんと百パーセントの力を出せば、不利気味なリョウヘイとの戦いを有利に戻せる。いや、即座に勝てるだろう。

 それをしないのは、負けたいからだとしか思えなかった。



「やるなら、全力でやれ」


「…………」


「俺はお前の事情なんて分からない。悩みで力を出す気がないなら、今ここで勝手に解決しろ。俺はそれまで、お前の思い通りになる気はない」



 リョウヘイは力を緩めて、後ろを向いた。


 どうぞ攻撃してくださいとばかりに、無防備だ。それからゆっくりと歩き、リョウヘイのはじめの立ち位置まで戻ってから、剣をしまう。

 舐められているどころではない。勝負を勝手に降りられてしまった。

 興味がないという宣言だ。

 


「…………」



 あまりの暴君ぶりに言葉が出ない。

 こんな結末があっていいとも思えない。

 自分のせいで、こんなことをさせる訳にはいかないと、自然と自分で自分の動きを止めてしまう。



(……俺は)


「親が死んだのは、悲しいですよね」


「!」


「アイリス……!」



 カイルもリョウヘイも、気が付かなかった。

 本当に直前まで、気配もなかった。

 白くて目立つ少女であるはずなのに、声がかけられるまでだ。

 二人の驚きを無視して、彼女は言う。



「辛いでしょう。やりたくないでしょう。でも、師の遺志を果たしてください」


「…………」



 驚くほど、心に染みる。

 アドルフのような、厳しい言い方ではない。カイルの心を見抜いて言ったかのようで、落ち着けなかった。それは、カイルの事を考えての言葉だとよく分かる。

 カイルは何も言えない。

 気が付けば、槍の石突きを地面に突き立て、天を仰いでいた。



「……俺は」



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