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44、憂さ晴らし


 聖国、第六鍛錬場。

 元々一番から五番まである、聖国の戦士である聖騎士を生み出す場だったが、昨年突如新たに増築された施設だ。まだ真新しく、傷などは見られない。しかもだが、この鍛錬場はかなり頑丈な仕組みになっていた。魔術的にも、物理的にも、かなり補強を施されている素材を使われているのが分かる。

 他の鍛錬場に比べれば若干狭い造りになっているが、それは建築のための空間や資金が足りなかった訳ではない。

 ここはたった一人のために作られたからだ。



「やあああ!」


「出遅れました! もっと速い踏み込みを意識してください!」



 使用者は二人。

 一人はいかにも騎士らしい鎧と盾を身に付けた、三十代半ばほどの男だ。金の髪に翡翠の目という、聖国の人間によくある特徴をしている。特別顔が良い訳ではないが、どことなく人の良さそうな雰囲気だ。

 だが、現在行われる戦いの中で、訓練用の木剣を振るう速度はまったく優しくない。木剣とはいえ、頭や首に当たれば人が死ぬ速度と重さで振り回されていた。それを見れば、誰でも彼が強者であると察するだろう。


 そしてもう一人。

 彼は黒髪黒目の、珍しい人種だ。男に比べれば歳はグンと低く、まだ十七歳。幼さがまだ顔に少し残っている所はまさしく年頃の青年だ。平凡で、髪と目以外にこれといった特徴のない顔をしている。

 そして彼もまた、木剣を手にして戦っている。

 男に必死に喰らい付く彼もまた、平凡とはかけ離れていた。常人の目に残るギリギリのラインの速度で駆け回り、男に剣を返している。


 木剣と木剣の攻防は続く。

 子気味いい音が鍛錬場に響き続ける。二人は滝のような汗をかきながらお互いに打ち込んだ。

 青年が何かをすれば、男はそれに対して剣と言葉を返す。青年もその言葉と剣を受け取って、さらにその次の行動で剣を振るうの繰り返し。既に二時間以上、ノンストップでこの流れは続いていた。

 そして、

 


「フッ……!」


「うわあ!」



 男は剣を上段に構えて上からと見せかけ、振り下ろした攻撃を途中で止めてから盾による体当たりを行う。とても自然に、スムーズに行われたそれは、青年を騙すには十分な精度の動きであったと言えよう。

 だが、青年は危機感から全力で引き、それを回避した。突然の知らない動きを躱せたことに、内心で喜びが湧いて出る。だが、男にはそれは隙にしかならない。

 男が取ったフェイントを察知し、上手く防いだ青年。次の瞬間には地面に転がることになる。


 男はその横腹を、蹴り抜いたのだ。

 またもや青年の知らない動きで、かつ意識の緩みを突いた攻撃。これには対応出来るはずもなく、いとも簡単に青年は間抜けな叫びと共に床に叩き付けられた。

 


「気を抜かない」


「はい……」



 男は追撃はしない。ただ代わりに、辛い言葉で青年を攻める。

 青年もその言葉の通りだと自覚しているのか、短い肯定の言葉しか出てこなかった。



「ですが、大分良くなりました。もう弱い魔物程度なら問題ないでしょう。流石です、リョウヘイ様」


「あ、ありがとうございます……」



 青年、リョウヘイは男の言葉に苦笑いだ。

 そんなことを言われても、と嬉しくなさそうにしている。

 それも仕方がないことで、叩き伏せられた後に言われても、差が見えて苦いだけだ。約二週間の鍛錬は、確かに彼を強くした。だが、強くした分、より強い人間の事が良く分かるようになってしまった。


 例えば青年の相手をしていた男。総勢四万居る聖騎士の中でも実力の上位一%の人員によってのみ構成される聖国最強の部隊、神聖浄化隊。その副隊長が男、リベリオ・シャックマン。二週間前まで東の戦線で現役バリバリに活躍していた、英雄と呼ばれて然るべき人物だ。


 人類の希望、『勇者』とは言えども、戦いを学び始めて二週間の若造に勝てるはずもない。それどころか、実力の一割だって出してはいない。

 だが、リベリオは喜びを顔に浮かべて言う。



「しかし、二週間でコレとは……『勇者』とは末恐ろしいものですね……」



 心底そう思う。

 確かにリョウヘイはまだ弱いが、それはこれまで二十年以上戦ってきたリベリオと比べてだ。戦いを知って二週間の人間が到れる領域を遥かに踏み越えている。将来の有望さで言えば、充分過ぎるほど期待を超えていた。


 だが、リョウヘイは浮かない顔を崩さない。



「でもこれじゃ、足りないのでは?」



 それを聞いても、リベリオは否定しない。困ったように微笑むだけで、決して言葉を返さなかった。

 聖国で確かな立場を持つ彼は、聖国の象徴である『勇者』に対して嘘を吐くなどという不敬は犯せないからだ。言いにくいことはオブラートに包んで真実を語るか、こうして黙り込むかのどちらかだった。

 それを見て、リョウヘイはやっぱり、と察する。  



「今の俺じゃあ、戦線ならすぐに殺されるんですよね?」


「……戦線では最低でもBランクの魔物を五人がかりで倒せる程度の実力は必要です。貴方様なら、成長率も考えてもう少し……」


「なら、俺はまだまだ弱いってことか……」



 心配そうな顔をするリベリオ。ここで『勇者』であるリョウヘイが目標値の遠さにめげてしまい、自暴自棄になってしまえば最悪だ。人当りの良い彼がここに派遣された理由はそこにある。

 なんとかいいフォローをしようと頭を悩ませるリベリオに、今度はリョウヘイから笑いかけた。



「大丈夫ですよ。こんなのでヘコんだりしません。もっとズバズバ言ってほしいくらいです」


「……私は本当に貴方様の才能を凄いと思っているのですが」


「今弱いなら、意味ないでしょう? それに、弱い俺を強くしてくれるんじゃないんですか?」



 リベリオは、リョウヘイが『勇者』となることを承諾するのに一日かかったと聞いていた。そして彼のことは、普通の人間らしく辛い経験は嫌だし、怖いものは怖いと捉える人物なのだろうと、今も思っている。物語の主人公のように、勇敢でも、怖いもの知らずでもないと二週間の付き合いで理解していた。


 だが、思ったよりも覚悟を決めていたらしい。決めざるを得ない状況に追い込まれていたらしい。 

 長らく戦場に身を置いてきたリベリオには、そこに芯があるかどうかは目を見れば大体分かる。その点、リョウヘイには最低限の意思があるのは見て取れた。



「そうですね……」


「俺はちょっとやそっとじゃ折れませんよ」


「そう、ですね……」



 本当に罪悪感でいっぱいになる。

 歳下の子どもが、本来ならば自分の守るべき対象が、こうも()()()振る舞うのは悲しく思うのは仕方がないことだった。

 一番苦しい所を押し付ける先は、異世界から来た青年なのだ。考えなくてもいい所を考えるきらいのある気性の穏やかな彼には、毒にも近かった。

 そして彼の言う通り、『勇者』が目指すべき所を考えれば、今の状況では遠すぎる。



「早く俺が強くならないと、リベリオさんが戦線に戻れない。それは、リベリオさんも嫌なんでしょう?」



 確かにそうだ。リベリオという戦力を欠いた分、どこかで絶対に無理が出てしまう。その無理で失われるのは、彼の愛すべき部下の命だ。

 本音を言えば、一刻も早く戻りたい。だが、リョウヘイの育成が終わるまではそれは叶わない。



「……余計な心配は無用です。私が責任を持って貴方様を鍛え上げます。目標は、まだまだ遠いのですから」


「ええ、分かってます」



 リベリオは祈る。神と、失われた命たちに。

 両者がこの健気な『勇者』の力になりますように、と心から願った。

 せめて自分が戻るまでは、戦線を維持する異端審問官が被害を食い止めてほしいとも思った。



「続きをしますか。二月後には、Aランクの魔物を一人で倒せるようにしてみせましょう」


「ありがとうございます……」



 リベリオは祈った。

 この『勇者』様が最後まで戦って、それで生き残ることができますように、と。



「じゃあ……」


「ぬりぃな!」



 次の瞬間、リョウヘイとリベリオは吹き飛ばされた。

 突如現れた声と共に衝撃が走ったのだ。リベリオは盾で防いだが、リョウヘイはモロに胴体に攻撃を喰らっていた。

 


「ゲホ! ゴホ!」



 リョウヘイは動けない。

 腹に走った衝撃は、肺が空気を取り入れる事を阻害する。息が出来ずに苦しむ彼だったが、なんとか現れた敵の姿を捉えようと前を向いた。

 すると、



「貴様、何者だ! 我らに手を出すことがどういうことか、分かっているのか!?」


「アンタのやり口が温いから、俺が出たんだ。アンタこそ、自分のやってる事が分かってんのか?」



 見たことがないくらいに恐ろしい顔をしていたリベリオが居た。彼は盾で敵の攻撃を防ぎながら、地を震わすほどの怒号を放っている。

 リョウヘイはその時、リベリオの本気を初めて垣間見た。圧迫されるほどの魔力と神聖力を同時に使っている彼は、きっと臨戦態勢に入っているのだろう。

 味方のはずのリョウヘイすらも恐怖を覚えるほどの迫力だった。


 それに対して、敵は軽い様子で言葉を返した。

 恐ろしいリベリオの威圧をまるで何でもないように流している。

 それから、先は見えなかったが、リベリオが動きを抑えていたために敵の姿をしっかりと捉えることが出来た。


 敵は青年だった。

 歳はリョウヘイと同じか、少し上くらいに思える。特徴的な燃えるような赤い髪はその気性の荒さを表しているようで、なんとなく野性味を感じさせる男だった。

 長い槍の穂先をリベリオの盾とぶつけながら、男は声高に叫んだ。



「俺は勇者一行に選ばれた戦士だぞ!?」



 一瞬、時間が止まった。

 素っ頓狂にも、リベリオは驚きに開いた口が塞がらない。様々な思考が一気に巡り、ただその言葉が嘘か本当かを考え続けた。



「間抜け」



 彼にとって、それは大きすぎる隙だった。

 男は驚きで動けなくなったリベリオの頭へ蹴りを打ち込む。リベリオの巨体がボールのように吹き飛び、ゴロゴロと地面に転がってから壁に叩き付けられる。ダメージは少ないが、してやられたという感情がすぐに立ち上がって敵を攻撃するという行動を鈍らせた。

 邪魔のなくなった男はドンと胸を張って言う。



「教皇と神の申請によって来た、『槍王』カイルだ。『勇者』よ、俺と尋常に立ち会え!」



 まだ起き上がれないリョウヘイに、敵、カイルは宣戦布告を叩きつけた。



 ※※※※※※※※



「それで、ようやく俺が呼ばれた訳か……」


「そうです。貴方にはかねてより依頼していた、勇者一行への参加を要請します」



 カイルがリョウヘイに喧嘩をふっかける遥か前、教皇アドルフはカイルと話をしていた。

 内容は幾度か会って話した内容と変わらない。彼が三つの時から決まっていた、勇者一行への参加を願う要請だ。わざわざ教皇が足を運ぶあたり、かなり意味のあることなのだろう。それに、交渉役が『勇者』関連でいつも必死なアドルフなのだ。要請とは言っているが、そこには命令に近いものがある。


 だが、カイルはそんな事は知らぬとばかりに鼻を鳴らして答える。



「俺が、それをしなきゃいけねぇ理由がどこにある?」



 アドルフへ威圧しながら、カイルは問う。

 見ず知らずの『勇者』など知ったことではない。カイルは自分の理由で戦って、自由に力を振るって、勝手に命を落としたいのだ。

 生き方を縛られるなど、あってはならない。彼は、煩わしい制度など壊してしまえばいいと心から思っている。それは『勇者』であろうと例外ではない。



「一応、理由をお聞きしても?」


「はっ! 分かってんだろ、古狸」



 アドルフは怒らない。ただ何も感じていないかのような能面顔でカイルの言葉を受け止めた。

 そして、その態度にカイルは忌々しい気に吐き捨てた。わざわざ説明するまでもない事を言わされるのは、若干ストレスが溜まるものだ。

 アドルフを睨みながら言う。



「俺は誰かの仲間になるような質じゃねぇ。見ず知らずの『勇者』なんかと仲良しこよしごっこなんざ、破綻するに決まってんだろ」



 彼は誰かと群れるというのが苦手だ。

 師匠以外の人間とロクに関わったことがないし、する気もなかったのだ。彼からすれば、パーティーを組むなど上手くいかないに決まっているし、それなら一人の方がずっと効率的だ。

 さらに、



「それに、テメェらが気に喰わねぇんだよ。俺を縛ろうとするのも、『勇者』なんて引っ張り出してきたのも、なんもかんも俺の癪に障りやがる……!」



 煮え滾るような怒気だ。もしもその衝動のままに拳をアドルフの顔面に振り抜けば、きっとスイカが割れるように赤い中身を飛ばすことになるだろう。

 だが、手が出ることはなかった。そうなってもおかしくないほどの怒りを抱えていたのに、だ。

 アドルフに対しては言葉しか返さない。無抵抗なものは手にかけないという彼の自身で決めたルールが、ギリギリの所で殺しに待ったをかけていた。



「そもそも、『勇者召喚』なんて外法に頼るのが間違ってる。この世界の問題は、この世界の奴が解決するべきなんだ。それをよぉ、異世界の奴に頼るなんて、気に入らねぇ」


「…………」


「気に入らねぇものに命をかける気はねぇ。もう一人、魔術師の方だって似たようなこと思ってんだろ? ワリィが他を当たりな」



 乱暴だが、間違ってはいない。

 自分の問題は自分で解決するべきで、筋の話をするのなら、アドルフだって引くしかないだろう。正論で当たられたのなら正論で返すしかなく、アドルフには持っている正論は持ち合わせていない。

 だが、 



「いいえ、それは間違っています」



 その正論は、戦士のものだ。

 人を救う教皇として、彼とは違う正論を持っている。



「どれだけその邪法で救われる命があると思っているのです? 使える手があるのなら四の五の言わずに、使えばよろしい。それを貴方にとやかく言われる義理はありません」  


「……吹くじゃねぇか」


「これで救われるのは人の命です。どんな手段を取ったとして、正義は私にある」



 空気がヒリつく。

 お互い睨み合う姿は一触即発を思わせた。


 両者ともに、お互いが気に喰わない。

 クソガキの理論はどこまでも理想の話だ。何も知らない子どもが適当を言っているようにしか思えない。どれだけ死んだか詳細に報告が届く彼からすれば、そんな事を言っている段階はとっくの昔に過ぎている。無知な人間からの的外れな意見ほど腹が立つものはない。


 老害の理論は誇りもへったくれもない話だ。生き様を忘れたジジイが妄言を言っているようにしか思えない。人生を歩む上で、どうしてもしてはいけない所はあるだろう。彼からすれば、そんな情けない手段を取るのなら憤死するくらいに恥だ。だから、恥知らず共を嫌悪する。



「……俺は『勇者』なんかに協力しねぇ」


「…………」



 お互いがお互い、本気で嫌いだ。今すぐ目の前のバカを殺せと心が訴えているが、なんとか抑えている。

 だから、カイルはずっと断り続ける。アドルフが何を言ったとしても、拒絶の意を示すだけだ。どれだけ頼まれても、脅されても絶対に首を縦に振るつもりはない。


 だが、アドルフの仕事は引き込むことだ。

 そのためなら、どんな事でもしてみせる。



「なら、どうして戦線に行かないのですかな?」


「っ!」



 触れてほしくない場所にも平気で触れる。

 汚したくない場所も土足で踏み入る。



「好きに戦えばよろしい。貴方がそう言ったのですから。ですが、それは出来ませんよね? 貴方の師の遺言で、それは禁じられている」


「テメェ!」



 カイルはアドルフの胸ぐらをつかむ。

 これまでよりも一層厳しい剣幕だ。先程までは怒気だったが、これには殺気が混じっている。何かおかしな事を言えば殺されかねない。

 それでも、アドルフは好き勝手に喋り続けた。

 


「『槍王』ガーノオリアは強かった。孤高の天才、槍使いの頂点。北の戦線で知らぬ者なしの、獅子奮迅の活躍を見せた彼が何故貴方を弟子として育てることになったのか?」


「黙りやがれ、ジジイ!」



 カイルは全力でアドルフを殴った。

 彼の膂力は常人を遥かに上回る。そんなカイルが放つ拳激が軟なはずもなく、大砲の一撃を上回る威力を有している。前衛でもない老人など、小枝よりも脆く折れるだろう。


 当たれば


 アドルフの体には拳は届かない。教皇まで上り詰めた要因の一つである彼の『結界術』によって。



「っ!」


「それは、疲れてしまったからだ」



 人間の寿命は短い。百年と生きる事ができない、とても儚い命だ。短いが、一部の超越者はそれすらも飛び越えて生きる事ができるのは有名な話だった。

 魔術師はその魔術によって、戦士は肉体を魔力で強化し続けたことによって、神官は神聖術で老いを治すことによって。肉体は全盛期を保ち、百年だって戦闘を続ける事が出来る。


 だが、その精神までは不老の影響を受けることはない。

 疲れるものは疲れる。辛いものは辛い。

 長い長い時間を戦い続けた者が、精神の疲労の末に何を思うのかは、もう分かるだろう。



「百二十年、彼は戦い続けた。だが、流石に疲れた。しかし、彼のように力を持つ者は戦いを止めることを許されない」


「黙れって言ったよなぁ……!」



 カイルはそこで槍を持ち出した。

 穂先が薄い紅色の光を放つ、妖しい槍だ。それがただの槍ではないと同時に、凄まじい業物であることが分かる。怒りに我を忘れているような声色とは裏腹に、槍を扱う動きには一切の無駄がない流麗さが窺える。

 伝説的な英雄にその才能を見抜かれ、三つの時からその全てを叩き込まれた天才の全力の一撃だ。避けなければ、まず死ぬ。



「お前は生贄だよ、ガーノオリアが戦いから離れるための理由だ」


「…………!」



 衝撃が走る。

 カイルの姿が掻き消え、槍を振り抜いていた。

 その一撃はアドルフの結界を破り、その心臓へ……




「舐めるな、若造」


「…………」



 だが一寸、届かなかった。

 服に少し当たる程度で槍は止まる。


 本来なら防げない威力のカイルの一撃を紙一重で止めたのは、アドルフの技術だ。

 心臓へそれが向けられたと判断した彼は、槍が通るルートへ幾重にも小規模な結界を張り巡らせた。その判断力、技術力、度胸が成し得た妙技である。


 だが、それに二人は特に何も思わない。

 はじめから全てわかっていたようだった。

 

 

「『大賢者』ルーメン・ラヴルージの弟子は既に勇者一行参加に承諾している」

 

「……そうかよ」


「あとはお前だけだ。拗ねてないで、師の遺志をまっとうしろ」



 何も言えなかった。

 ただ眉間にシワを寄せて、深く深く息を吐く。



「『勇者』が腑抜けなら、俺は降りる」



 確かな肯定の言葉に、アドルフは満足気に頷いた。


面白ければブクマ、評価をお願いします。

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