39、勇者と聖女の物語
昔むかしのお話だ。
悪い魔物たちが地を覆い、それに負けないくらいの人間の死体が広がった時代。
神の庇護の元、なんとか人は抗っていた。
その時代も、酷かったのだ。
今と同じように魔物を統べる個体、簡単に言えばイレギュラーが現れて、瞬く間に人は淘汰される。
永い永い時の中の、ほんの一時のことだ。まあ、そういう事もあるのだろう。
けれども人類にとって、そのほんの一時の間に滅びかけたという災難な話だ。
苦しい苦しい時間だった。
何人も何人も死んで死んで、死んだ。
どうしようもなかった。
元より魔物の方が生物として強力なのだ。人類は常に多対一の状況を保ってきた。強力な魔物は群れず、策も何もないために人類は魔物に渡り合えたのだ。
だが、イレギュラーによってまとめられた魔物はその限りではない。
人並みの智慧を持つだけで、人間は負ける。
人間にもイレギュラーは居るが、同じイレギュラーならば人間が負ける。
低迷の時期だった。
逆転の芽は存在せず、ジリジリと押し込まれていくばかり。
神の加護なしにはもう人類は存在することすら出来ないほどに、種として弱っている。
当時の人々は、なんとかして覆したかった。
どんな手を使ってでも、どんな外法に手を染めてでも、存在しない芽を創り出したかったのだ。
だから、逆転の要因を外に求める事にした。
それが『勇者召喚』である。
死せる魂を異界から引きずり出す埒外の手段。
本来ならば決して越えられない壁を潜り抜け、世界を渡らせるのだ。
釣り出した魂を肉付けさせることで、完璧かつ至高の戦士を誕生させる。
だが、それだけでは足りない。
所詮は部外者。まったくもって信用に足る存在ではない。
次に必要なのは、力を運営する上で、一人に好き勝手させないための存在が必要だ。
例えば、『勇者』が人で、力を財宝とするならば、財宝を収める金庫の鍵のような存在が要る。
それは現地の人間でなければならない。
さらに言うなら、制御しやすいように『勇者』を男に限定する。だから鍵は女が望ましい。
鍵とは、世界を救い、『勇者』の対となる存在のこと。
だからそれは、『聖女』と呼ぶ。
二つの存在はかつての災厄を見事制した。
それから何度も何度も、二つはイレギュラーが生まれる度に人類を救ってきたのだ。
伝説として今まで残る程度には、有名な話である。
そして『勇者』と『聖女』は、まさしく今必要な人材であると言えるだろう。
四つの戦線、四体のイレギュラー。
これを滅するのは、伝説の出番だ。
既に『聖女』は生まれている。
あとは、『勇者』だけだった。




