179、さあやろう
ていうか、レビューが追加されてたんですけど!?
初めての出来事に動揺が隠せません。
褒めて頂いて光栄というか、なんというか。これからもご期待にそえるよう全力を尽くしたいです。
でも、本当に申し訳ない。
まじで最近筆が進まないんです……
「良い子のみんなー、いいですかぁ?」
クララは優しく子供たちに呼びかける。
誰もがこうするだろうという、幼子たちに向けての言い聞かせだ。
クララは彼らに好かれていた。上手く取り入る事は、クララにとっては容易だったのだ。普通の、子供に好かれる先生として、彼女は溶け込んでいた。
だから、何だろうかと興味津々で、子供たちは食い入るようにクララに集まっていた。彼女の言葉には信があり、己の内に入れる事に抵抗が生まれない。心から彼女を受け入れており、疑心や疑念は欠片も存在していない。
部屋の中には、ここで勉強をしている年少組の子供たちとクララだけだ。彼女らだけの、閉じた空間
外には居るかもしれないが、入っては来ない。
聞き耳を立てているかもしれないが、放っておいて聞かせておけばいい。むしろ、聞いてくれればそれだけ展開が都合が良くなる。
クララの目的は既に決まった。
ただほのぼのと故郷でのんびり過ごそうとは、最早思っていない。そんな幻想はただの気の迷いだったと、気を切り替えて準備している。
狙い通りに、クララの望む展開が出来た。
こうすれば自然に全員に向けて喋れる。
つらつらと決めていた言葉を、彼らへ向けて送り続ける。
「神様は、いつも貴方たちを見守ってくれています。貴方の善行は漏らさず認知し、悪行は全て筒抜けです。神の御下へ旅立つ時のために、悪行を控え、善行を重ねなくてはなりません」
酷い冗談だった。
神という本質を誰よりも捉えているクララが、正しくもない聖典の内容を語り聞かせている。
神を讃えるなど、クララからすれば反吐が出る行為だが、そんな不必要な悪感情はおくびにも出さない。憎悪も悪意も、全てはドロドロに溶け込んだ猛毒が煮え滾るようであるにも関わらず、その異常性は見られない。
あくまでも、穏やかな『クララ』のままだ。
「神は人を愛しています。皆さんが善行を行う姿は、神にとって好ましいものなのです」
全員に向けて、クララは語る。
外に居る者たちにも聞こえるように。
「神は愛ゆえに、貴方たちに試練を与えます。辛く、苦しい試練です。心が折れそうになる時もあるでしょう。でも、神は乗り越えられない試練を与えません」
そこには、確信があったのだ。
自分の言う事に間違いがある訳がないという、ただの事実を話すだけのこと。
常識を教えてあげているだけで、おかしな事などまったくない。
そういう自信があったのだ。
モノを落とせば地に落ちる事を懇切丁寧に教えるようなものだったかもしれない。
「どうか、その時は諦めないで。試練なんかに、絶対に負けないで」
届いた言葉は、とても澄んでいた。
最後のコレだけは、これまでのように嘘を混ぜるなどという事はない。
扉越しの彼らは、ドキリとした。
心臓を射られたような感覚がしたのだ。
しばらく頭から離れないくらいに、クララのその言葉には想いが詰まってあった。
※※※※※※※※※
「ヴァウさん、ちょっといいっスか?」
「え?」
仲間が欲しいと思ったのだ。
ラウルは一人では、何も出来る気がしなかった。
彼女を知る人間は軒並み放っておけと言うばかりで、それ以上はまともにモノを語らない。
まあ、ラウルにはこれ以上首を突っ込み過ぎるつもりはないのだが、まったく何もしない、というのは、残念な事に出来ないかもしれないのだ。
もしかすれば、ふとした瞬間に近寄ってしまうかもしれない。そうでなくとも、明らかに向こうがラウルに興味を示していて、どうなるか分からない。
なら、何かしら手を打たなくてはならない。
だから、頼れるのはもう一人しか居ない。
同じくクララに違和感を持っている。
力があって、ラウルに親身になってくれて、想いを共有できる。
かなり都合が良い条件だが、奇跡的に孤児院の中にそれを満たす者が居るのだ。
それがヴァウである。
「質問があるっていうか、何というか……」
「…………」
ラウルとヴァウは、特別仲が良い訳ではない。
ヴァウは孤児院の職員として日々真面目に働いているが、全ての子供たちと仲を深められてはいないのだ。
数十人という子供が、勉強などで忙しい日々を送っている。ヴァウも仕事があって子供と関われない時間も多く、しかも社交的ではない子供も居る。
ラウルは、その点普通だった。
喋る事もままあるし、まったく喋らない日もあるにはある。
だが、改めて一対一という経験はなく、緊張を隠せないのは仕方がない事だった。
「あの、ええと……」
ギクシャクとした態度に、ぶつ切りになった言葉がラウルの不器用さを知らしめる。
お互いが困ったような顔になる。
曖昧な雰囲気が流れ出して、どうにもよく分からない感覚がした。
「あ、」
「はい……」
だが、お互いが理解している。
何の話をしようとしているのかを。
だから、少しして、
「クララさんについて、ですか?」
「はい」
これしかないだろう。
深く考えるまでもなく、問題はそれだ。
ラウル相手にもおどおどしながら、ヴァウはソレについて尋ねる。
意思は同じく、共感がある。
二人は引き合う磁石のようであった。
同じ運命を辿るしかないのだと思えたのだ。
「や、やっぱり、クララさんの事をおかしいと思っていたんで?」
「ま、まあ……ヴァウさんと俺だけが、気付いてるんだと思ってて……」
明らかにおかしな存在だった。
クララの奇妙さを理解していていた。
ヴァウが分かっている事は、ラウルにも一応は分かっている。
恐怖心に支配される時間だった。
抱いたことのない、根源的なおそろしさ。絶対強者への畏怖がそこには存在していた。
「……気付いてると思いますけど、多分、俺たちはもう目を付けられてます……」
「…………」
「俺たちだけです、興味を引かれてるのは。だから、とにかく協力しませんか?」
緊張ほぐれて、言葉が流れる。
スラスラとは言えないが、聞くに堪えないようなぶつ切りにはなっていない。
ラウルの自嘲してしまうような不器用さが、少しマシになっていた。
怯えも、緊張も、安堵も全てが混ぜられている。けれども、ヴァウにも伝わるくらいに真摯なままだ。
「き、協力って……?」
「何でも良いです。お互い、クララさんに近付きすぎないようにとか、避けるためにとか、何なら調べるとかでも大丈夫ですよ。とにかく何でも、です」
ヴァウはラウルの『調べる』に露骨に怯える。
だが、ラウルもその気はなかった。
すみません、と頭を下げながら、
「でも、一緒に考える人は居ても困らないと思うんです。もしかしたら、俺たちが何かしなくても、クララさんの方から『イタズラ』でもしてくるかもしれない」
「…………」
何かをされるかもしれない。
そして、何故そうなるかも分からない。
興味を引くという事の危険さだ。
何かを企んでいるのかもしれない。何かが必要になったのかもしれない。それとも、意味なんて無いかもしれない。
なんにせよ、クララが彼らにちょっかいを出す可能性はないとは言えない。
そんな時に助け船を出せるのは、目の前の相手しか居ないのだ。
共感という繋がりがある。
だが、
「クララさんは、怖い人です……」
「確かに、そう思います。下手に触ったら殺されるんじゃないかと思っちゃいます」
見た目だけならば、可愛げのある少女だ。
だが、その皮の下に居る悪魔に勘付いてしまった彼らは、騙されさせてはもらえない。
クララの不気味さは、もう隠せない。
何をするでもないのだが、何でも出来るという確信があるのだ。
出来る、という要素がある限りは、強い信頼がなければ許容出来ない。
なら、どんなあくどい事も出来るクララが、彼らに受け入れられないのは当然だ。
「でも、出来る事はやりましょう。刺激しないように、何もしないように、でも助け合えるようにはしましょう」
「……お、俺は、その……」
「考えておいてください。もしもがあった時、手は多い方が良いでしょう?」
ラウルの意見は正しくヴァウに伝わっている。
彼は、ヴァウの実力を見抜いているのだ。
まあヴァウは力を別に隠している訳ではないし、隠せている訳でもない。普段から、その怪力を遺憾なく発揮して孤児院の仕事をこなしている。
単純な戦力の話をするなら、ヴァウ以上の人員は孤児院の中には居ない。もしも、があったとして、対処と呼べる行動が取れるのは、ヴァウしか居ないのだ。
ラウルのやりたい事は、とても難しい。
まずもって、クララを刺激しない。
彼女が戯れている事は分かっているから、その戯れを通りすぎない範囲で行動する。知り、理解し、何かするつもりなら遠回りに邪魔をする。
そして、いざという時は盾になって他を守る。
クララが何をするつもりか分からないが、何もしないなどという選択肢はない。いくらなんでも、抵抗もせずに奪われろなどふざけすぎだ。
魂胆は分かっている。
だから、心配になる。
そんな危険地帯にわざわざ踏み入るような真似、どうなるか分かったものではない。
ヴァウの心配そうな視線に、ラウルは自然と気づいてしまった。
優しく、安心させるように微笑みかけて、
「大丈夫です。ヴァウさんが居なくても、そんなに違いはありません。多分、変に警戒してただけの間抜けが一人生まれるだけですよ」
「…………」
「すんません、やっぱり気にしないで……」
ラウルは、そのまま立ち去ろうとした。
だが、すぐに引き止められる。
大きな手で、ラウルの手を包みこむ。
逃げてばかりで、今も逃げようとして、けれども目の前の少年は逃げなかった。
やろうと思えば逃げられたのにだ。
情けない、と思うのは当然ではないだろうか?
踏み出せない一歩を踏み出すべきだ、と思うのは普通ではないだろうか?
ヴァウは、決めた。
これくらいはやってやろうと。
世話になったのだから、恩を返さなくては。
「いや、やろう」
まずは、人となりを知ることからだ。
クララの様子を見る事にして、彼らははじめにクララの担当場所へ足を運ぶ事にした。
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